第273話 神々の質問①

 「ぐすっ・・・どいつもこいつも妾を馬鹿にしおって・・・!最高神じゃぞ妾は・・・!」


 広間の隅に座り込み、ぐずり出してしまった天照を見た清宏は、アンネとルミネを手招きする。

 二人は首を傾げ、互いに頷き合って清宏の元に行く。


 「いかがなさいましたか?」


 「何なんですの一体・・・」


 尋ねられた清宏は、二人を向いたまま天照を指差すと、面倒臭そうにため息をついた。


 「すまんが、二人であそこの汚物とリリスを風呂に入れてやってくれ。臭くてかなわん・・・」


 「汚物・・・相変わらず口汚い男ですこと・・・

まあ良いでしょう、他の方では失礼があってはいけませんし、引き受けてさしあげますわ」


 「か、かしこまりました・・・」


 二人は清宏の頼みに頷くと、広間の隅で落ち込んでいる天照の両脇を抱え、隣に放置されていたリリスをおぶって風呂場に向かう。

 それを見送った清宏はメジェド達を振り返り、テーブルと椅子を出して席を勧めた。


 「取り敢えず、俺の確認の前に聞いておきたい事があるんですが良いですか?」


 全員にお茶を配った清宏は、咳払いをして目の前の神々を見渡した。

 神々は頷き合うと、代表して素戔嗚がテーブル越しに清宏を見てニヤリと笑った。


 「良いだろう、何が聞きたい?」


 「ありがとうございます。取り敢えずお聞きしたいのは一点・・・何故リリス達は異世界の神々である貴方達と会話が出来ていたのですか?俺はまあ同じ国の神様だからと考えれば理解出来るんですが、あいつらは違うでしょう?」


 清宏の質問を聞いた素戔嗚は、懐から小さな半透明の物体を取り出してテーブルに置き感心したように満足気に頷いた。


 「お主、頭に血が昇っていたように見えてなかなか冷静ではないか」


 「そりゃまあ、それが仕事ですからね・・・それで、この半透明のゼリーみたいなのに何か繋がりがあるんですか?」


 「うむ、お主が気絶しておる間に皆に食わせておいたのだ」


 「皆んなに食べさせた・・・まさか!!」


 しばらく思案していた清宏がハッとして顔を上げると、素戔嗚は勿論のこと、月読達まで満面の笑みを浮かべていた。


 「お主の予想通りだ!これは、我々神々の持つ技術を余す事なく注ぎ込んだ便利アイテム!その名も『翻訳こんにゃくゼリー』!!どうだ、神は凄いであろう!!?」


 「た、確かに凄い・・・だけど、褒めたくねーーっ!!ほぼパクリじゃないですか!?」


 「そこはオマージュと言ってはくれまいか?」


 「オマージュとか便利な言葉に逃げんじゃねーよ神・・・文字数的に7割パクリですけど?」


 「まあ良いですはないか!これで会話が成り立つのであれば安いものであろう?」


 「ぐぬぬ!確かにその通りだから怒るに怒れないのがもどかしい!!」


 清宏が歯軋りをしながら悔しがると、場の空気を変えるべく月読が手を叩いて皆の注目を集めた。


 「君の質問は終わったかい?なら、早速君が私達とえ同じ世界から来たかを確認させて貰っても構わないかな?」


 「はあ、それは構いませんけど・・・どうやって確認するんです?」


 「んー・・・そうだね、いくつか質問に答えて貰えたら助かるよ」


 月読はワイルドイケメンな素戔嗚とは違い、優男風のイケメンスマイルで清宏を見つめている。

 メジェド達のような特殊な見た目の神を除き、神々には美男美女が多いのだろうか?若干陰キャっぽく俯いている大国主ですらよく見ればイケメンだ。

 清宏はイケメンが発する眩しい笑顔に若干気後れしつつ居住まいを正した。


 「さて、清宏君も了承してくれたようだし、誰から質問しようか?」


 「な、ならば・・・せ、拙者から・・・」


 「大丈夫ですか?何か緊張してません?」


 「だ、大丈夫だ・・・」


 挙手をした大国主は、挙動不審に俯いたまま上目遣いで清宏を見ている。

 清宏は若干引きながらも一応心配して声を掛けたが、大国主は挙動不審のまま何度も頷いた。


 「大丈夫なら良いですけど・・・で、何が聞きたいんです?」


 「き、清宏殿には好きなアイドルまたはグループはおられるか?」


 「・・・ん?アイドル!?」


 「さ、左様」


 耳を疑って聞き返した清宏に対し、大国主はさも当然と言うかのように頷き、期待のこもった目で見つめている。

 突拍子のない質問に困った清宏はしばらく思案したが、結局答えが出せず頭を下げた。


 「すんません、アイドルに興味無いんでわかりません・・・」


 「なんと!好きなアイドルがいない!?清宏殿、本当に男でござるか!?」

 

 「だから謝ってるじゃないすか・・・。

 一応誤解の無いように言っておきますけど、俺は関わり合いのない奴に興味がないから知らないってだけですよ?正直、アイドルとか芸能人って実際に関わる機会ってほぼ皆無じゃないですか、それに売れてるアイドルの曲とかって別に自分で買わなくてもそこらの店で流れてたりするんで・・・」


 「し、信じられないでござる・・・」


 「あの・・・決して馬鹿にしてる訳じゃないんですけど、アイドルにお金掛けるってどんな感じなんですか?」


 「それ、十分馬鹿にしてるでござるよ?まあ興味の有る無しはそれぞれでござるから、これ以上は言わないでおくでござる・・・。

 それで、清宏殿の質問は拙者達ドルオタが何故アイドルにお金を掛けるかでござったか?

 そうでござるな・・・例えばソシャゲに課金する場合、新キャラが欲しいであったり色々と理由はあると思うのでござるが、その新キャラを生み出したりイベントを開催するには先立つものが必要でござるな?もっと賑わって欲しい、もっと良いものを提供して欲しい・・・元を正せば、その為に課金をしているようなものでござる・・・拙者は、推しにもっと大きな舞台で輝いて欲しいからこそお布施をしているのでござるよ」


 「なるほど!」


 大国主は清宏の質問に涙目になりながらも答え、清宏は納得したのか何度も頷いた。


 「拙者の質問は以上でござる・・・」


 意気消沈した大国主はそのまま項垂れる。

 それを見た素戔嗚は腕を組むと、胸をのけぞらせて清宏に向き直った。

 

 「まったく、何も解らなかったではないか!では次は我が質問しようではないか!!」


 「お、お手柔らかにお願いします・・・」


 清宏は『ムフー!』と鼻息荒く見下ろして来る素戔嗚に気圧されながらも、若干冷めかけたお茶を飲んで心を落ち着かせた。

 

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