第271話 Endless Waltz
例のプールが完成してから時が流れ、オライオンとの会談まで5日を切ったある日の日の出前、魔石灯の優しい光に照らされたプールに2つの影がゆらゆらと浮かんでいる。
時折差し込む月明かりに照らされ、その影がはっきりと姿を現した・・・清宏とリリである。
2人はただ何もせず、仰向けの状態で水面に浮かび、ガラス張りの天井から見える星空を眺めているようだ。
すると、リリが首だけを横に向けて清宏を見てため息をついた。
「ねえ清宏・・・毎日こうやって浮かんでるんだけど、これって毎回やる必要あるの?」
「意味が無い事やらせる訳無えだろ・・・」
「じゃあ何でよ?」
「急に何かあって水に落ちた時、慌てて動くと体力を消費しちまうだろ?だから、まず水に落ちた時には一度落ち着いて体勢を整えるためにこうやって浮いておくってのも必要なんだよ。
ただでさえお前はやっと泳げるようになってきたばかりなんだし、浮く感覚をしっかりと身体に叩き込んどけよ」
「それはまぁ、確かに貴方の言う通りだわ・・・実際、まだ息継ぎが上手く出来る自信無いしね」
「だろ?だから落ち着くためにも大事なんじゃないかと思ってな・・・さてと、そろそろ始めるか?」
清宏が立ち上がってリリを見ると、リリは何故かプールサイドに設置してあるテーブルを見つめて首を傾げた。
「ねえ、何か変な音が聞こえるんだけど・・・これって、何かが小刻みに振動してるような音かしら?」
「ん?確かに聞こえるな・・・もしかして!」
清宏は音の正体に心当たりがあるらしく、慌ててプールから出てテーブルの上に置いてあったタバコの箱に似た黒い小箱を手に取った。
「それってメジェド様から連絡用に貰ったポケベル?とかなんとか言ってたやつよね・・・何かあったの?」
「おいおいマジかよ・・・忙しいって言ってたのに!!」
清宏が忌々し気に見つめるポケベルの液晶には、ただ一言『イマイクヨ』とだけ書かれている。
そしてその数秒後、またもやポケベルが振動し、液晶に『イマクルヨ』と表示され、清宏はポケベルを床に叩き付けた。
「ふざっけんな!吉本か!!前もって連絡くれってのは直前って意味じゃねーんだよ!!」
「ど、どうすんのよ?」
「さっさと着替えて皆んなを叩き起こすぞ!」
「わ、わかったわ!!」
2人は猛スピードで更衣室に駆け込み、身体を拭くのもそこそこに服を着ていく。
素早く着替えを終わらせた2人が同時に広間に戻ると、どこからとも無く音楽が流れ始め、それに気付いたリリスや他の面々も慌てて広間に集まって来た。
「な、何なんじゃこの妙な音楽は!まさか敵襲か!?」
「リリス様、私の側から離れぬようにされてください・・・」
アルトリウスが慌てふためくリリスを庇う様に立つと、それを見た清宏が2人に向かって歩き出した。
「お前等、慌てんでも良いぞ」
「おお、清宏か!!お主、さてはこれがどういう事か知っておるのか!?それに、この妙な音楽は何なんじゃ!?」
「ああ・・・また来るんだよ!あの人騒がせな集団がな!!それにしても、何でTWO-MIXのWHITE REFLECTIONなんか流してんだクソが!!?」
清宏が吐き捨てるようにリリスに説明して天井を見上げると、目が眩む程の光を放ちながら翼の生えた人型の物体がゆっくりと降りて来た。
そして光が徐々に収束し、そこに現れた人物を見た清宏はその場にへたり込んで口をパクパクとしだした。
呆気に取られたリリス達は、何が何やら解らずその場に立ち尽くしている。
「ハロー」
「ゼ・・・ゼ・・・」
「ドウシタノダ?」
「ゼロカスタム!?」
清宏が指差して驚愕したその人物の姿は、まさにあの翼の生えたMSそのものだった。
人語で挨拶をしたMSに対し腰が抜けてしまった清宏は、四つん這いでゆっくりとそのMSに近付いて恐る恐る手を伸ばし、表面を軽く叩いてぶつぶつと呟く。
「何ヲシテイル?」
「は、張りぼてじゃねぇ・・・マジで金属製の素材だ・・・まさか、ガンダニュウム合金じゃ無えよな?」
「無視ハ良クナイ」
「えっ?いや、その声って・・・まさかメジェド様ですか?」
「that's right!」
「あ、本物だこれ・・・いやいや、マジで何でゼロカスタム!何の意味があって!?てかどうなってんの!?」
MSの姿となったメジェドは、質問責めを始めた清宏の肩に左手を置き、右手の親指を立ててサムズアップをして目を見つめる。
「カクカクシカジカ!コマケエ事ハ良インダヨ!」
「良く無えわ!説明面倒くさがんな!!」
「ムウ・・・相変ワラズ頑固ダ」
「俺が悪いみたいな言い方やめてくれません?」
「仕方ナイ・・・コレニハ聞クモ涙、語ルモ涙ノ深イ理由ガアルノダ」
「手短に」
清宏の剣幕に気圧されたメジェドは、腕を組んでしばらく悩み、ゆっくりとした口調で語り始める。
「其ノ故郷ハ日本ダナ?日本ト言エバ、サブカルダナ?サブカルト言エバ、アニメデアロウ?アニメト言エバ・・・アトハ解ルナ?」
「いや全然?報告は簡潔かつ明確にしてくれませんか?」
「ダカラナ・・・第二班ヲ連レテ来ノ二際シ、ソノ国ノ文化ヲ取リ入レヨウト・・・」
完全にブチ切れモードの清宏を見て小さくなったメジェドは、上目遣いでモジモジとしながら様子を伺いつつ説明を続けている・・・MSが生身の人間に恐れをなしている光景はなかなかにシュールだ。
理由を聞いた清宏はしばらく黙り込み、大きなため息をついて脱力した。
「コスプレの域を逸脱しまくってんじゃないすか・・・メジェド様感ゼロで逆に嫌だわ」
「フフフ・・・一応残シテアル」
メジェドは清宏の言葉に声だけで不適に笑うと、翼を閉じて大気圏突入モードへと移行する・・・閉じられた翼の表面には、殴り書きされた目の様な模様が描かれている。
「申し訳程度じゃねーか・・・」
「マルパクリハ良クナイ」
「パクリ言うなよ・・・そこはコスプレクオリティとかオリジナル要素とか言い様があるでしょ。
てか、目からビームはどうすんです?それじゃ使えないでしょ」
「心配ナイ」
そう言ったメジェドは、翼を開いて内側から二挺の大きな銃を取り出した・・・言わずもがなアレだ。
「ツインバスターライフルっすか・・・そこまで来るとマジもんじゃねーか!」
「ノンノンノン・・・コレノ名前ハ『ブッピガン』ト言ウ。マルパクリハ良クナイカラナ」
「ただの効果音じゃねーか!?」
清宏は頭を抱えて絶叫すると、ここ最近の疲労とストレスが限界を大幅に越えてしまい、鼻血を吹き出して倒れてしまった・・・流石の清宏も、自由過ぎる神の前ではただ踊らされる存在でしかなかったのだろうか?
昏倒し薄れゆく意識の中、清宏はメジェドの背後に5人の人影が現れるのを見ながら気を失った。
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