第267話 えっ・・・ウチの扱い軽過ぎ!?

 門番が報告に向かってから30分以上が経ち、流石にペイン達が待ちくたびれていると、大門の脇に作られている小さな扉が開いて中から1人の女性が現れ、それに気付いた信濃が手を振った。


 「いやあ、急に来てもうて堪忍な!」


 信濃が苦笑しながら謝罪すると、女性は不機嫌そうにため息をついた。


 「解っているなら自重しろまったく・・・いくら由良様が貴様等との争いを禁じたとは言え、家臣の全てが納得した訳ではないんだぞ?私だってまだどうすべきか悩んでいると言うのに貴様は・・・」


 「やから謝ってるやん・・・んで、由良は何て言っとった?」


 「会ってくださるそうだ・・・今はまだ支度をされているが、着く頃には終わっているだろう。

 ところで、今日はアルトリウス殿は一緒ではないのだな・・・」


 「あいつは今回留守番らしいわ・・・まあ、その代わりにあいつの配下のアンネちゃんと覇竜のペイン、それとアルラウネのアリーちゃんが来とるで?

 てか、八雲はどないしたん?てっきりあいつが来ると思っとったわ」


 信濃は周囲を見渡し、先日アルトリウスに手厳しい仕打ちを受けた男を探したが、それを見た女性は苦笑して首を振った。


 「八雲は先日の一件の罰として、10日間の謹慎処分中だ」


 「うわぁ、とんだとばっちりやな・・・自分の仕事しただけやのに謹慎て重いんとちゃう?」


 「相手の事を軽んじ、下手をすればこの国を危険に晒していたかもしれないのだから、10日間の謹慎などまだ軽い方だ。

 さて挨拶が遅れてしまって申し訳ない、私の名は朧だ。アルトリウス殿には色々とお話を伺い大変世話になった」


 朧は信濃の背後に並んでいたペイン達に向き直ると、頭を下げた。


 「我輩はペインである!以後よろしく頼むのである!」


 「アルトリウスの配下、アンネロッテと申します。朧様のお話は主から伺っております・・・何でも、相当な剣の腕をお持ちだとか・・・」


 「いや、私のお仕えする長門様やオーリック殿に比べれば、私はまだまだ未熟者だ・・・またご縁があればお話をお聞かせくださいとアルトリウス殿に伝えて貰えたら助かる」


 「確かに承りました」


 朧はペインとアンネに頭を下げると、次にアリーの前にしゃがみ和かに笑う。


 「こちらがアリー殿か?人がこんなに近くに寄っても恐れぬアルラウネは珍しいな・・・」


 「ん!!」


 「ははは!アリー殿は挨拶も出来るのか!?これは由良様が喜びそうだ!!」


 「良い方々に囲まれておりますから」


 アリーの頭を撫でる朧に、アンネは自分が褒められたかの様な得意げな笑みを浮かべている。

 朧はそんなアンネを見て小さく笑みを浮かべると、立ち上がって4人を手招きした。


 「では由良様の元に案内する・・・まだ大門を開けるには早いため、目立たぬようこちらから頼む」


 「やっとか・・・待ちくたびれたわ」


 「別に貴様は来なくても良いのだぞ?由良様も、清宏殿の使者ならばと仰っていたしな」


 「えっ・・・ウチの扱い軽過ぎ!?」


 「くっちゃべってないで行くのである!目の前に居られては邪魔であるぞ!!」


 「あ痛っ!?背中蹴んなや!この着物、ウチのお気にやねんぞ!!」


 「騒ぐな!目立っては騒ぎになるだろうが!!」


 ペインに蹴られ、朧にまで怒鳴られた信濃は、耳と尻尾がションボリと垂れ下がり、涙目になりながら用意された馬車に乗り込んだ。

 全員が乗り込み、馬車は早朝の街中をゆっくりと進んで行く。

 窓に設置された簾戸の隙間から外を覗いたアンネは、見るからにワクワクとしている。


 「あちらとは建物の造りが全然違うので見ていて飽きませんね!」


 「それは良かった。アンネ殿はアルトリウス殿の配下と言う事は吸血鬼なのだろう?ならば見た目は人と変わらぬし、日光に耐性があるなら後で散策してみると良い・・・まあ、念の為私か他の者が同行する事にはなるだろうがな」


 「時間がありましたら是非!」


 「アンネちゃんには優しいのに、何でウチには厳しいんや・・・不公平や!やってられんわ!」


 「それは貴様が胡散臭いのが悪い・・・貴様に比べれば、アルトリウス殿は紳士然としていたからな」


 拗ねる信濃に朧が腕を組んで答えると、ペインがため息をついて首を振った。


 「貴様、名を朧と言ったな?良いか、一つ忠告しておくのである・・・アルトリウスを信用し過ぎてはならんのであるぞ?アンネの前でこう言うのは気が引けるのであるが、彼奴にとっての基準は清宏と魔王リリスであるから、もしもこの国が2人の不信を買った場合、彼奴は眉一つ動かさずに完膚無きまでに叩き潰すであろう・・・まあ、それに関しては我輩も同じであるが、そこだけは忘れてはならないのである」


 「ご、ご忠告肝に銘じます・・・」


 ペインが威圧するように忠告すると、朧は生唾を飲んで頷いた。

 すると、それを見たペインは破顔し、朧の肩を軽く叩いた。


 「そう怯えるでないのである!ようは、貴様等が清宏をキレさせず、魔王リリスを裏切らなければ彼奴も我輩も何もせぬと言う事であるからな!超簡単である!!」

 

 ペインは胸を張って答え、高らかに笑う。

 その笑い声は馬車の外にまで聞こえ、道ゆく人々は一様に首を傾げた。



 


 

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