第266話 1日が48時間なら良いのに・・・

 一夜明け、朝早くに目覚めたペインは、昨夜死にかけてそのまま爆睡していた信濃を叩き起こすと、既に起きていたアンネとアリーと共に朝食を済ませ、すぐに都へ向けて出発した。

 ハミル達の村を出てから殆ど寝ていたアリーは、今朝には完全に魔召石の効果が切れてしまい、今はすっかり元通りになっており、飛んでいるペインの背の上でアンネに抱かれてご満悦だ。

 だが、ペインに叩き起こされた信濃は道案内をしながら欠伸を噛み殺している。


 「ふあっ・・・あー・・・まだ眠気がとれへん」


 「貴様、寝過ぎではないか?」


 「いや、自分等が早いんやって・・・ほんま、自分等はもっと余裕を持たなあかんのと違うか?」


 「貴様は何を言っているのであるか・・・我輩、これでも今日は遅い方であるぞ?なあ、アンネよ」


 眠たげな信濃を背中越しに一瞥したペインは、アリーと楽しげに遊んでいたアンネに話を振る。

 急に話を振られたアンネは少し驚いた表情を見せたが、苦笑しながら頷いた。


 「確かにそうですね・・・ペイン様は毎朝日の出前には狩りに出かけられますし、いつもは私や清宏様と変わらない時間には起きてらっしゃいますから」


 「日の出前て・・・ほんま自分等忙しいな」


 「私達は開場前の安全確認などもありますから、早く仕事を始めて早く終わらせる生活が身に付いているのです」


 「あぁ、城に来る冒険者達に気を遣っとる訳か・・・大変そうやなぁ」


 「慣れてしまえば不思議と良いものですよ?何より1日が長く感じる分、自分の時間も多く取れますから」


 アンネの言葉を聞いた信濃はさして興味が無さそうにしていたが、何か気になる事があったのか思い出し笑いをした。

 それを見たアンネとペインは首を傾げ、アリーも2人を真似て首を傾げた。


 「どうかなさいましたか?」


 「いやな、自分等で1日が長く感じるんやったら清宏はどうなんかなと思ってな」


 不思議そうにしている2人に信濃が笑いながら答えると、2人は揃って苦笑する。


 「長く感じるどころか、足りないとよく言っているのであるぞ・・・」


 「そうですね・・・たまに、1日が48時間なら良いのにと小さな声で呟いていらっしゃいますから」


 「流石にそれは長過ぎやろ・・・まあ、普段から忙しそうにしとるみたいやし、時間が無いんま仕方ない事なんもしれへんなぁ・・・てかあの男の事やし、自分等が居らん今も自分から何か仕事増やしてんのと違うか?」


 「貴様、不吉な事を言ったら駄目であるぞ!」


 「そうですよ信濃様・・・清宏様曰く、そういうのをフラグと呼ぶらしいですから」


 「えっ・・・ウチ何で怒られたん?ただ思った事言っただけやのに・・・」


 ペインとアンネに睨まれた信濃は、訳が分からず涙目になってしまう・・・だが、ペインとアンネが信濃の予想が的中している事を知り、呆れてしまうのはもう少し先の事だ。

 4人はそれからしばらくの間たわいもない会話を続けていたが、都が見えてくると信濃がペインに降りるよう指示を出した。


 「こっからは歩いて行こか?あんま近付き過ぎると面倒な事になるしな・・・」


 「まあ、それは仕方ないであるな」


 「アリー、行きますよ」


 人気の無い場所に降りた4人は、今度は徒歩で都を目指す・・・まだ早い時間帯である事が良かったのか、都に続く道には人っ子1人見当たらないようだ。

 4人はかなり離れた場所に降りたとは言え、魔族や竜族である彼女達にとっては苦になる程の距離でもなく、10分程で門の近くまで辿り着いた。


 「閉まっていますね・・・」


 「であるな」


 「そらまあ早く来過ぎたからやろ?」


 「ん!」


 「ふあぁぁぁっ・・・何だあんた等?こんな早い時間に来てもまだ開かな・・・ま、魔王信濃!?」


 4人が閉じたままの門の前で立ち尽くしていると、詰所で居眠りしていた門番が欠伸をしながら現れ、信濃を見た途端驚いて尻餅をついた。


 「ほら見てみぃ、早過ぎんねん」


 「特別に開けて貰えないのでしょうか?」


 「我輩、役人とは融通が効かないと相場が決まっていると清宏から聞いたのである・・・」


 「まあ、聞くだけ聞いてみよか?」


 「ん!」


 こそこそと話をしていた4人は、いまだに腰を抜かしている門番を揃って見つめる。

 魔王とその仲間達に見つめられた門番は、涙目でガクガクと震えながら蹲る。

 それを見た信濃は苦笑しながら近付き、アンネはアリーをペインに預けて怯えている門番を優しく立たせた。


 「心配せんでも何もせえへんから安心し!自分もこの前の話は聞いとんのやろ?ウチ等は別に攻めて来たんとちゃうねん」


 「大丈夫ですか?」


 「あ・・・あぁ、大丈夫です・・・」


 手を引かれて立ち上がった門番は、心配そうに顔を覗き込むアンネに見惚れて顔を真っ赤にして答え深呼吸をする。

 信濃は門番が落ち着くのを待ち、話を始めた。


 「こんな朝早よから悪いんやけど、魔王リリスんとこの2人が由良に話があるらしくて連れて来たんや・・・会わせて貰えへんかな?」


 「しょ、少々お待ちを!すぐに確認して参ります!!」


 信濃に頼まれた門番は慌てて返事をすると、踵を返して走り出した。


 「脱兎の如く走って行ったのであるな・・・あ、転けたのである」


 「そらまぁウチかて魔王やからなぁ・・・ただの門番やったら震え上がるんも仕方あらへんやろ」


 ペインと信濃は足が絡まって盛大に転んだ門番の後姿に苦笑し、戻ってくるまでの間アリーの遊びに付き合った。


 



 

 

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