第230話 清宏、ロキに似ていると言われる

 清宏達がお茶会を始めて30分が経過し、祠の扉が勢いよく開くと、若干やつれたバステトが倒れ込んで来た。

 うつ伏せになっているバステトは、腕だけを上げてサムズアップをしている。


 「どうやら終わったみたいですね、バステト様はお茶を飲んで休憩しててください。

 さてと、それじゃあアルトリウスは信濃達と一緒に上空から確認して来てくれ、俺はここでバステト様にお茶を出しとくよ」


 「自分は行かへんのかい・・・」


 「飛べない俺にどうしろと?何時間掛かるか分かったもんじゃないぞ・・・」


 「確かにその通りやな・・・すまん、ほな行ってくるわ」


 清宏をジト目で睨んでいた信濃は、ため息をつきながら頷くと、鞍馬とアルトリウスを連れて外に出た。

 バステトは清宏からお茶を受け取ると、一気に飲み干している。


 「バステト様、本当にお疲れ様でした・・・では、バステト様が戻られたので今後の予定を改めてお伝えします。

 まず彼等の確認作業が済みましたら、先に信濃の城に向かう予定ですので、皆様はそちらで待機をお願いします。

 皆様が待機している間に、私とアルトリウス、信濃の3人は王都へ向かいますので、その間は鞍馬に従っていただけたら助かります」


 清宏は、お茶会の間に決めた事を改めてメジェド達に伝えて反応を見る。

 すると、メジェド達は頷き合い、バステトも皆が従ったため了承したようだ。

 実際のところ、先程までメジェド達は王都に行きたいと駄々を捏ねていたのだが、メジェド達の正体を知られる訳にいかない事、そして確実に歓迎されないであろう事を伝え、何とか説得したのだ。

 清宏は安堵のため息をつき、メジェド達にお茶のおかわりを用意する。


 「忠告しときますけど、信濃のところでは私達の所みたいにはっちゃけないでくださいね?せっかく結んだ同盟が決裂したら嫌ですから・・・」


 「心配セズトモ大人シクシテイル」


 「なら良いんですけどね・・・取り敢えず、この国はそこまで大きくはないらしいので、王都までは空を飛んで2時間弱くらいで行けると言ってましたし、話し合いの時間も含めて5〜6時間程で戻ってくるつもりです」


 「了解シタ。モシ何カアッタラ呼ブガ良イ・・・我等ガ分カラセル」


 「分からせるって・・・そうならないように気を付けますよ」


 清宏は、メジェドの言葉を想像して冷や汗を流し、お茶を飲みながら呟いた。

 しばらく皆で取り止めのない話をしていると、確認を終えた信濃達が呆れた表情で戻って来た。


 「お帰り、どうだった?」


 「どうもこうも無いわ・・・汚泥が綺麗さっぱり無くなって、既に草が生えて来とったわ」


 「ほんま、流石は神様と言ったとこやな」


 清宏に尋ねられた信濃と鞍馬は、尊敬の眼差しでメジェド達を見ている。

 メジェド達は胸を張り、得意気な表情をした。


 「エッヘン!」


 「リアルに『えっへん』とか言ってるの久しぶりに見ましたよ・・・まあ、胸を張って然るべき事をしてくれたんですけどね。

 さてと、それじゃあ信濃の城に行きますか」


 「へいへい・・・ウチんとこはこっから空飛んで15分くらいやから、清宏は誰かに乗せて貰い」


 「誰かって・・・誰に頼めと?」


 清宏が振り返ると、ホルスが背中を向けてしゃがみ、親指で背中を指差した・・・乗れと言う事らしい。


 「まさか、神様におんぶして貰う日が来ようとは・・・」


 「末代マデ語リ継ゲル自慢話ガ出来タ」


 「自慢話って・・・スケールが小さ過ぎでは?もはや伝説級の話ですよ。

 ではホルス様、お願いします・・・」


 清宏が頭を下げて背中に乗ると、ホルスは頷いて歩き出す。

 皆が祠の外に出ると、信濃と鞍馬が先導し、次にメジェド達、殿は蝙蝠に変化したアルトリウスの順で飛び立つ。

 人目に着く事を避ける為、雲の上まで昇った信濃は、遥か彼方に見える雲より高い山の頂上を指差した。


 「あそこに見えとる山の頂上にウチの城があるんや」


 「山の頂上か・・・てか、近いように見えるけど、結構距離あるんだな?」


 「せやな、城が建つくらいやから結構な大きさやで!」


 胸を張っている信濃と、城のある山を交互に見た清宏は、唸りながら腕を組む。


 「ありゃあ攻められたらキツいな・・・」


 「あ、分かります?自分もそう思て注意したんやけど、お嬢がどうしてもあそこが良え言うて聞かんかったんですわ・・・」


 「何がや、良えとこやないか・・・戦は高いとこに陣取った方が有利やろ?」


 清宏の呟きに鞍馬が相槌を打っていると、信濃が不満気に首を傾げた。


 「それは食糧とか水の入手経路が確保出来ていた場合の事だろ・・・あんな所に城を構えて、どちらも断たれたらどうすんだ?いくらアイテムボックスにも入れられるとは言え、容量には限りがあるし、もし囲まれて兵糧攻めされたら詰むぞ?」


 「そん時は、空飛んで行って手に入れたら良えやろ?」


 「敵がその程度の対策をしないとでも?」


 真顔で答える清宏を見て、信濃の表情が見る間に青くなって行く。


 「く、鞍馬・・・どないしよ?」


 「どないするも何も、自分も同じ事言ったはずやで・・・聞かんかったんはお嬢でっしゃろ?」


 「清宏、何か良え案は無いやろか・・・」


 鞍馬に呆れられた信濃は、涙目で清宏に助けを求めた。

 清宏はしばらく俯いて思考し、信濃を見た。


 「この際、さっきの場所に城を移せばどうだ?

 あの土地はこの500年もの間、お前等が責任を持って管理して来た・・・その間にこの国が何の支援もして来なかったのであれば、あの土地の権利はお前等にあるんじゃないか?もし向こうが嫌だって言うなら、今までに掛かった手間賃や管理費を、現在のレートで全て請求してやれば良い。

 もしあの土地を手に入れられれば、民を誘致して農業をさせる事で、お前等は民から食糧を分けて貰い、民は生活が保証され、この国は税を得られるだろう・・・国としては、莫大な金額を請求されるより、例えその土地が魔王の管理下になったとしても税収で潤った方が得だろうから、落とし所としては良いんじゃないか?」


 「そんな事が出来るんかな・・・自分が言っとるんは、人間と共存するって事やろ?」


 「あのな、出来る出来ないじゃなくて、やるかやらないかだろ・・・お前はこれ以上配下が傷付くのを見たくはないし、今の人間達に恨みがあるって訳でもないなら、やるべき事は一つだろ。

 どうすれば配下が傷付かないか・・・それは人間と争わない事だろ?どっちにも恨み辛みはあるだろうが、そんな物をいつまでも引き摺ってたって何も変わらないし、互いに折れる気が無いなら必ず争いは起きるもんだ。

 今お前が人間相手にやるべき事は、折れるべき所は折れ、通すべき所は通し、今後争わない為には何が最善であるかを選択する事じゃないのか?」

 

 「ぐぬっ!?真顔で正論言われると辛いもんがあんなぁ・・・」


 肩を竦めた信濃を見て、清宏はため息をつく。


 「俺は別に正論言ってるつもりは無えよ・・・今の俺が考え付くやり方がそれってだけだ。

 やり方なんて人それぞれ違うし、聞き手次第じゃ俺の考えなんて偽善にしか聞こえないだろう・・・だが、何もやらないよっかはマシだろ?偽善って言うなら何か解決策を出してみろって話だ。

 まあ今回は俺もついて行くんだし、もし向こうに聞く気が無いなら、お前の代わりに俺がボロクソ言ってやるから安心しろ・・・反論する隙も与えずに言いたい放題言い散らかして押し切ってやる」


 「あ、安心して良えんやろか・・・」


 自信満々に答える清宏を見て信濃が表情を引きつらせると、メジェドが呆れた様にため息をついた。


 「清宏ヨ、其ハ口ナラバ、恐ラク北欧ノ『ロキ』トモ良イ勝負ヲスルカモ知レヌナ・・・タマニ其ノ発言ハ奴ヲ思イ出ス」

 

 「嫌だなぁ、流石にロキ様には勝てませんって」


 「其ハ真顔デ人心ヲ惑ワシ、言イクルメル・・・奴モ同ジ事ヲスル。

 マア、奴ト其ノ違ウトコロヲ挙ゲルトスレバ、奴ハ邪悪ナ気質ト言ウトコロカ・・・」


 「ちょい待ち・・・ロキっちゅーのは神やんな?それやのに邪悪なんか?」


 メジェドの話を遮り信濃が尋ねると、メジェドだけでなくホルス達や清宏まで複雑な表情で頷いた。


 「向こうにはな、女遊びに夢中だったり岩穴に引き籠ったりする神様も居るんだぞ?」


 「ソレハ、ゼウスト天照大神ノ事ダナ」


 「か、神って何なんや・・・」


 困惑した信濃は、フラフラとしながらゆっくりと進み出す。

 その後、城に着くまでの間、清宏やメジェド達は他の神々について話をし、それを聞いていた信濃達とアルトリウスは、破天荒な神々の逸話に呆れと困惑の表情を浮かべる事しか出来なかった。




 

 

 

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