第229話 清宏、神を煽る

 始業時間が近付き、清宏達がいつどのようにして東桜女氏國に行くかについて話をしていると、メジェド達が鞭棄の調教を終えてやって来たため、清宏は席を立って振り返る。


 「お疲れ様です、調教は終わりましたか?」


 「完璧ナ仕上ガリ」


 「なら安心しました・・・うちに居るのは冒険者とは言え、不意を突かれて怪我をしまったら大変ですから」


 清宏が安堵していると、胸を張っていたメジェドが信濃を見た。


 「イツ戻ル?」


 「いやまあ、ウチは早い方が良えとは思うんやけど、まだ話がまとまってへんしな・・・」


 「何ヲ話シテイル?」


 「今度、俺とアルトリウスが信濃達の住んでる国に行く事になったんですが、その時期や移動手段について話していたんです。まあ、時期はまだ良いんですが、移動手段で難航してまして・・・」


 信濃の代わりに答えた清宏は、ため息をついて肩を落とす。

 すると、メジェドが腕を生やして清宏の肩を叩いた。


 「イツ行クノ?今デショ!!」


 「へっ?」


 清宏が聞き返した瞬間、アルトリウスと信濃達の背後にホルス達が素早く移動したかと思うと、その場から清宏達とメジェド達は忽然と姿を消してしまった。


 「ん?先程まで話をしておった清宏と信濃達が居らんのじゃが誰か知らんか?」


 「メジェド神達も居ないのであるぞ?」


 「あれぇ?何処に行きおったんじゃ?」


 清宏達が居ない事に気付いたリリスとペインは、他の者達にも聞いて回ったが、結局見つからずに不在のまま始業する事になった・・・。

 リリスが清宏達を探していた丁度同じ頃、消えた清宏とメジェド達は、リリス城から東に遠く離れた異国の空に突如として現れた。

 

 「到着」


 「ちょっ、空中!?ぎゃあぁぁぁぁっ・・・!」


 「清宏様あぁぁぁぁぁぁぁっ・・・!」


 城から一瞬で空の上に移動した事で、足場を失った清宏とアルトリウスは落下していく。

 アルトリウスは素早く蝙蝠の姿に変化すると、清宏を助けようと必死に後を追った。


 「清宏様、急ぎ私の脚に!!」


 「た、助かる!!」


 清宏は命からがらアルトリウスの脚にしがみ付くと、涙目になりなりながら遥か上空のメジェド達を睨んだ。


 「何してくれんですか!人間は飛べるようには出来てないんですよ!?」


 「反省・・・無事デ何ヨリ」


 「人事か!ったく、いきなり過ぎて準備もしてませんよ・・・」


 清宏達の元へ降りて来たメジェドが申し訳無さそうに小さくなっていると、アルトリウスが徐々に降下して行く・・・必死に翼を羽ばたかせているのにも関わらずだ。

 清宏は冷や汗を流し、アルトリウスを見上げた。


 「だ、大丈夫か?」


 「さ、流石にキツいですな・・・」


 清宏の質問に、息も絶え絶えのアルトリウスが答えると、遅れて降りて来た信濃と鞍馬が清宏の両脇を抱えた。


 「アルトリウスはん、あそこの岩の上まで我慢や、ここで落ちたらあかん!!」


 「ウチ等に掴まり!ここの地面に触れたらどうなるか分からんで!?」


 「ご、ご助力感謝・・・」


 アルトリウスは信濃達の手助けもあり、何とか岩の上まで辿り着いた。

 人の姿に戻ったアルトリウスは、そのまま仰向けに転がり清宏を見て苦笑した。


 「流石に飛べるとは言え、人一人抱えては辛いものがありますな・・・無事に辿り着けて良うございました」


 「お前が居なかったらと思うと、金玉が縮み上がるわ・・・この礼は必ずする」


 清宏はポーションとヒロポンを取り出してアルトリウスに渡すと、ゆっくりとメジェド達を振り返った。


 「さて、言い訳を聞きましょうか・・・」


 「ハ、反省シテイル・・・思イ立ッタラ即行動ガ我等ノポリシーナノダ」


 「ほほう、行き当たりばったりで俺達を巻き込んだと!?アルトリウスが居なかったら危なかったのに!?普通の人間だったら死ぬかもしれないのにですか!?」


 「モ、申シ訳ゴザイマセン・・・」

 

 「それ、高嶋政伸の物真似ですか?言っときますが、今回のはマジでクレーム案件ですからね!」


 清宏に責められ、メジェド達は滝のような汗を流して小さくなる。

 メジェド達が心から反省しているのを見た清宏は、深く大きなため息をついた。


 「はあ・・・反省してるみたいですし、許すのは今回だけですからね!?」


 「感謝スル・・・其ハ怒ルト怖イ、神ヲ叱ル人間ナド向コウニハ居ナイ」


 「馬鹿な事やらかしたら怒られるのは当然ですよ・・・そこに神様とか人間とか関係ないです。

 良いですかメジェド様、今度からは実行に移す前にちゃんと話て下さいね?

 さてと・・・ここって実際何処なんです?何か祠みたいなのありますけど、臭いわ汚いわで気が滅入りそうですよ」


 清宏はメジェドに釘を刺し、周囲を見渡して鼻を摘んだ。

 すると、離れて清宏達を見ていた信濃が手を上げた。


 「それはウチから説明させて貰うわ。

 ウチ等が今乗っとる岩と、そこの祠があの骸骨を封印しとった場所や・・・それと、見渡す限り広がっとる汚泥なんかは、全部此処らにあった植物や岩なんかが彼奴の瘴気に長年触れ続けた成れの果てや」


 「嘘だろ・・・それが本当なら、あの骸骨マジもんのヤバい奴じゃん」


 清宏が信濃の言葉に冷や汗を流すと、アルトリウスが起き上がって周囲を確認し、舌打ちをした。


 「清宏様、これは早々に対策を練った方がよろしいかと・・・封印されて尚、結界の外にこれ程の影響を及ぼすのであれば、奴は恐らくペインと同等かそれ以上の脅威でございましょう・・・少なくとも、今の私であっても太刀打ち出来るかどうかと言ったところでございます」


 「そこまでか・・・てか、お前等はよくそんなのを封印出来たな?」


 清宏が振り返って尋ねると、信濃は苦笑しながら首を振った。


 「あの時は、ほんまに運が良かったんや・・・癇癪起こした様に暴れとった彼奴の動きが急に鈍りよって、その隙に何とか封印出来たって感じやな。

 自分等もこれ見て分かったやろ、500年経ってもウチ等が戦力を増強出来んかった理由が・・・」


 「ああ、正直思い知ったわ・・・封印されて尚、見渡す限り死の大地に変えてしまう奴を抑え込まなきゃならないんだ・・・これは召喚に回す余裕は無いわな」


 清宏は信濃を労うように苦笑し、バステトを振り返った。


 「さて、お仕事の時間ですよ?」


 「・・・」


 清宏と目が合ったバステトは、素早く目を逸らしホルスの背後に隠れる。

 だが、清宏がそんな事を許すはずもなく、回り込んでバステトの両肩を掴んだ。


 「あれぇ?約束しましたよねぇ・・・まさか、神様ともあろうお方が反故にすると!?無駄遣いして面倒も見れないのにペットを連れて来て押し付けた挙句、説明も無しに俺達を巻き込んでおいて約束を破ると!?俺達が被った不利益を考えれば、この土地を向こう1000年豊作になる土地にしても良いくらいだと思うんですけど!?

 あぁ、そうか!バステト様、生意気言って申し訳ありません・・・いくらバステト様でも、これだけの土地を浄化するなんて難しいって事でしょうからね、それなら仕方ありませんよね・・・」


 清宏がまくし立てると、バステトは顔を真っ赤にして震えだし、メジェドに何やら耳打ちをする


 「出来ラアッ!ダソウダ・・・清宏ヨ、神ヲ煽ルトハ命知ラズモ甚ダシイゾ」


 「俺は、約束に関しては煩いですよ?俺自身一度痛い目に遭ってるんで、二度と自分が破るのも破られるのも嫌なんですよ・・・それ以前に、神様が人間とした約束を破るなんてダメでしょ?」


 「自分ハ以前約束ヲ破ッタノニ嫌トハ、身勝手極マッテイルナ・・・ダガ、我等ガ人間トノ約束ヲ破ル訳ニイカナイノハ事実ダ・・・ソノ様ナ事ヲシテハ、我等ヲ崇メル者ガ居ナクナル」


 「でしょうね・・・人間なんて大抵は身勝手な生き物ですから、崇める神に裏切られたと知ったらショックで悪魔崇拝に目覚めるかもしれませんしね。

 まあ、俺なんか裏切られてもいないのに魔王の副官やってるんですけどね・・・」


 清宏とメジェドが会話をしていると、バステトは一歩前に進み、空に向かって両手を上げた・・・その手には、いつ取り出したのか鍬が握られている。


 『・・・鍬?』


 「くぁwせdrftgyふじこlp!!」


 清宏と信濃、鞍馬の3人の声がハモった瞬間、バステトが奇声を発して岩から飛び降り、鍬を地面に突き刺した。


 『何て!?』


 「チェストー!!ト言ッタダケダ」


 聞き返した3人にメジェドが律儀に説明すると、飛び降りたバステトは高速で鍬を振るい始める。


 「メジェド様・・・まさか、バステト様は端までずっと耕す気なんですかね?」


 「ソレガ確実ダカラナ・・・安心シロ、バステトハ鍬ヲ振リ降ロス毎ニ53万ノ神力ヲ込メテ耕シテイル、絶対ニ1000年ハ困ラナイ」


 「うわぁ・・・1回振り下ろすだけで53万の神力とか、フリーザ瞬殺じゃねーか」


 「何ヲ言ッテイル?我等ナラバ、クシャミシタダケデ倒セル」


 「神様パネェ・・・てか、待ってる間にお茶でもしますか?正直臭いですけど・・・」


 「イタダコウ」


 清宏の提案にメジェド達は嬉々として頷き、比較的臭いの少ない祠に入ると、必死に地面を耕しているバステトそっちのけでお茶会を初めてしまった。


 

 


 

 


 


 


 

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