第227話 帰還ナウ
清宏が豪快に尻餅を着いたため、皆は一斉に注目したが、清宏の目が天井を見ているのに気付いて上を見る。
そこには、壊れた天井の間を縫うように降りてくる5つの人影があった。
何とか冷静さを取り戻した清宏は、降りてくる人影に手を振った。
「メジェド様、観光はもう良いんですか?」
「帰還ナウ」
「やけに早かったですね・・・何かありましたか?」
清宏が降り立ったメジェドに話かけると、呆気に取られていた信濃が立ち上がって声を上げた。
「そ・・・そいつ等や!ウチ等はその5人組にぶん投げられたんや!!」
「そう言やあ、すっかり忘れとったわ・・・やっぱリリス様んとこの関係者やったんか」
清宏は掴みかかろうとした信濃を素早く取り押さえると、耳元で呟く。
(馬鹿、この方達に喧嘩売ったら冗談抜きで死ぬぞ!俺が話をつけるから少し大人しくしてろ!!)
(ぐぬぬ・・・死ぬ訳にはいかんし、頼むわ)
大人しくなった信濃に安堵した清宏は、立ち上がってメジェドに近付く。
「メジェド様、彼等を投げたって言うのは本当ですか?」
「YES」
「もっとマシなやり方は無かったんですか・・・おかげで広間の風通しが良くなりましたよ」
「反省・・・」
清宏に注意され、メジェド達は小さくなって頭を下げた。
「天井はまた直せば良いですが、彼等に何かあったら大問題だったんですよ?
良いですか、これからはあまり目立った行動は控えてください・・・フォロー出来るのにも限度がありますから」
「了解、我ハヤレバ出来ル神デアル」
「反省してくださってるみたいですし、俺はこれ以上言うつもりは有りませんが、彼等には何かしらお詫びをしてあげてください」
「ウム」
清宏の言葉に大人しく従うメジェド達を見て、信濃と鞍馬は目を丸くする。
「清宏、自分やっぱ凄い男やな・・・何で言う事聞かせられるんや」
「ブルボン同盟の絆を甘く見るなって事だな。
そんな事より、さっきも聞きましたがメジェド様達早かったですね?」
清宏が話を戻すと、メジェドは目を逸らした。
何か隠し事があると感じた清宏は、素早く視線の先へ移動し、メジェドの目を見た。
「メジェド様、観光に行った割に何も持ってないみたいですが、何も買わなかったんですか?」
「買ッタト言ウカ・・・飼ッタ」
「飼った!?」
予想外の言葉に清宏が聞き返すと、メジェドから少し離れて立っていたホルスの背後から、微かにカサカサと何かが動く音が聞こえた。
それに気付いた清宏は、隠そうと必死になっているホルスの背後に回り込むと、そこに居た生物を見て顔を引きつらせた。
ホルスの背後に居たのは、14もの目を持つダンゴムシに似た30cm程の非常に見覚えのある虫だったのだ。
「メジェド様、何ですかこれ・・・」
「・・・スカラベ?」
清宏が尋ねるとメジェドは気まずそうに答え、ホルス達もモジモジとして落ち着きがなくなる。
深いため息をついた清宏は、胸いっぱいに空気を吸い込んでメジェドを見た。
「こんなスカラベが居るか!見た目がまんま王蟲でコガネムシ科ですら無いじゃないですか、こんなの何処で拾って来たんですか!?」
「オークションデ競リ落トシタ・・・超接戦ダッタ」
「金の使い方が雑!?・・・てか、俺は旅費として大金貨1枚相当のお金を渡しましたよね、残りはどうしたんです?」
「・・・全テ注ギ込ンデシマッタ」
「こ、こんな虫1匹が大金貨1枚分・・・」
清宏が呆れ果てて床に崩れると、離れて見ていたはずのローエンとグレンが恐る恐る近付き、王蟲もどきを見て感嘆の声を上げた。
「ダンナ、こいつが大金貨1枚だったなら運が良かった方だ・・・こいつは玉蟲だ」
「凄え・・・俺、初めて生で見たわ」
虚な目をしていた清宏は、弱々しく首を傾げる。
「何言ってんだお前等、玉蟲って言ったら昆虫だろ?だが、こいつはどう見ても甲殻系の虫だぞ」
「いや、俺には昆虫と虫の違いが解らんのだが」
グレンに尋ねられ、清宏は腕を組んで唸る。
「俺も、頭・胸・腹があって足が6本なのが昆虫、それ以外が虫って事くらいしか知らんのだけども・・・てか、こっちの玉蟲ってこんなんなの?やっぱ丸くなるから?」
「それもあるが、成長すると目が高く売れるんだよ・・・まあ、そのせいで絶滅寸前らしいけどな」
「目?」
ローエンの言葉を聞いた清宏は、玉蟲を覗き込み、呆れた笑いを漏らした。
まだ小さな玉蟲の目は、陽の光を受け、見る角度によって様々な色に変化している。
「ははは・・・申し訳程度の玉蟲成分だなおい」
「だろ?そいつはその虹の様な色合いが人気でな、強度が高くて加工すると宝石みたいになるから、乱獲されちまって今じゃ殆どお目にかかれないらしい」
「人間様の都合で可哀想にな・・・。
さてメジェド様、オークション云々に関しては後にして、貴方達はこいつをどうするつもりなんです?まさかとは思いますが、連れて帰るとか言わないですよね?」
清宏が振り返って尋ねると、メジェドは見るからにションボリとして頷き、目を潤ませながら清宏を見た。
「・・・ダメカナ?」
「ダメだよ?・・・言っときますが本当に連れ帰るのはダメですからね、ただでさえ絶滅しそうなのに、向こうに連れて行ったら繁殖も出来ないし可哀想でしょ」
「チャント餌ヲ与エルシ、我等ガ交代デ散歩ニモ連レテ行ク・・・」
「そう言う問題じゃないんですって・・・もし向こうに連れて行って、環境や餌が合わなかったらどうするんです?それに、そいつが向こうの生態系に悪影響を及ぼしたりしたら冗談抜きで洒落にならんでしょう・・・だから諦めてください」
「無念・・・」
清宏にきっぱりと言われたメジェドは、震えながら涙を流す・・・ホルス達も心底残念そうに項垂れた。
広間に居た堪れない空気が流れ始めたため、黙って様子を見ていたリリスが清宏に近付き袖を引いて見上げた。
「清宏よ、連れて来てしまったのであれば仕方がないのじゃ・・・ここは、妾達で面倒を見てやってはどうじゃ?それに、もしこのまま野に放してしまえば、今度は目を奪われ殺されてしまうかもしれん・・・それは妾としても見過ごせんのじゃ」
「分かった、お前がそこまで言うなら良いだろう・・・メジェド様、そいつの面倒をうちで見る代わりに養育費は負担してくださいね、こいつの婿?嫁?探しもしてやらんといけないんですから」
「感謝スル!」
「は、ははは・・・か、構わんのじゃ!」
メジェドは表情がパッと明るくなり、腕を生やしてリリスに抱き付く。
抱き付かれて恐怖に引きつった表情をしているリリスは、脂汗をかきながら乾いた笑いを漏らした。
「さてと、玉蟲についてはこれでOK・・・では次にアヌビス様、その背中に背負ってる馬鹿デカい袋の中身について聞かせて貰いましょうか?」
清宏に睨まれ、アヌビスはビクッと身体を震わせて冷や汗を流す。
アヌビスの震えに反応したのか、背中の袋がモゾモゾと動いている。
「そっちも生き物ですか・・・本当に困るんですけど?」
「アレハ生キ物デハナイカラ大丈夫」
「何を根拠にそんな自信満々なんですか、明らかに動いてましたよね?」
胸を張っているメジェドを一瞥した清宏は、嫌がるアヌビスから袋を奪って中を確認し、目眩を起こして倒れそうになった。
清宏によって開けられた袋の中から、全身を包帯で巻かれた腕の無い人間が這い出て来る。
「うん、確かにこれは生き物ではないんですけどね・・・てか、ミイラじゃん!?」
「元人間ダカラ大丈夫・・・玉蟲トハ違イ外来生物法ニハ抵触シナイ」
「ねえ、外来生物法知ってんのに連れ帰ろうとしてたの?」
「ノーコメント」
「もう遅いわ!良いですか、ミイラも絶対に駄目ですからね!ご先祖様が居なくなったら、子孫の人達困るでしょ!?」
怒鳴る清宏の腕に、アヌビスが涙目で縋り付いて何か言っている。
メジェドは頷きながらアヌビスの言葉を聞き、清宏を見た。
「朽チ果テタ墓所デ見ツケタ迷イミイラダカラ大丈夫ダ・・・ト言ッテイル」
「迷いミイラって何だよ・・・。
アヌビス様、いくらミイラが好きだからと言っても、向こうに連れ帰るのは駄目ったら駄目です!元居た場所に返してきなさい!!」
「ソコヲナントカ・・・ト言ッテイル」
「そんなん言われてもな・・・どうするリリス?」
清宏に話を振られ、リリスは唸りながらメジェドを見た。
「ここは人間も暮らしとるし、人に危害を加えないのならば妾は構わんのじゃが・・・どうかのう?」
メジェドがリリスの言葉を訳して伝えると、アヌビスは全身で喜びを表現しながら頷いた。
「チャント教エル・・・ト言ッテイル。
心配セズトモ、ミイラノ調教デアヌビスノ右ニ出ル者ハ居ナイ」
「腐敗はしてないですが、独特の臭いがキツいんでそっちも解決して下さいね!頼みますよ!」
「任サレタ・・・ト言ッテイル」
喜びのあまり踊り出したアヌビスを囲み、ホルス達も嬉しそうに一緒に踊り出す。
清宏はそれを見てため息をつくと、面倒を見る事になってしまった玉蟲とミイラを振り返った。
「取り敢えず、名前付けといてやるか・・・。
玉蟲はエフタルで良いとして、ミイラはどうするかな・・・両腕無いし徳利児鞭棄にしとこ」
適当に名前を付けた清宏は、アヌビス達が落ち着くまで朝食の続きを摂るため自分の席に戻って行った。
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