第214話 世界の果てまでイッテQ!

 信濃と鞍馬の2人を見送ったメジェド達・・・今朝はまだリリス城に居たはずの彼等が、何故遠く離れた東端の地に現れたのか、その理由は1時間前まで遡らなければならない。

 メジェド達の紹介を終え、狩りに出ていた面々が戻って来るのを待った清宏は、朝食の後にメジェド達を再び集めて講義の時間を設ける事になった。

 彼等は清宏以上にこちらの世界の常識に疎く、何かしでかして場合、大問題になると判断したリリスが機転を利かせたのだ。

 講師にはこれまで多くの国を巡って来た経験を持つルミネが就き、清宏とリリスはその補佐を務めている。

 まず、最初に教えたのはこちらの世界に存在する国々の名前や位置、そして次に通貨と食料など物品の相場を説明し、今は最も重要な各国独自の法律や習わしの説明を終えたところだ。


 「えっと、各国の習わしや暗黙の了解とされている細かな事は以上です・・・何か質問はありますでしょうか?」


 ルミネが緊張した面持ちで問い掛けると、何故かメジェド達と並んで講義を受けていた清宏が挙手をした。


 「何ですか清宏さん・・・貴方はこちら側なんですから、少しは働いてくださいません?」


 「いや、俺も話を聞いときたくてな・・・ぶっちゃけ、この国の名前がブリタニスだって今初めて知ったわ」


 「・・・はあ!?貴方、この国の名前も知らずに取引しようと考えてらっしゃったのですか!?」


 呆れ果てたルミネは、頭を抱えてしゃがみ込む。

 流石に恥ずかしく思ったのか、清宏は照れ臭そうに頭を掻きながら小さく頷いた。


 「いやな、正直俺は城から出る事なく過ごすと思ってたんだが、何だかんだであっという間に話がデカくなっちまっただろ?そしたらなかなか聞き出す機会がなくなっちまって、さらにそこから話が進んで今に至るんだわ・・・」


 「はぁ・・・陛下にバレなくて本当に良かったですわ・・・。

 良いですか清宏さん、知らない事は恥ではありませんが、知らない事をそのままにしてはいけません。まあ、貴方は常に忙しそうにしていたのでしょうし、聞く時間を設けられなかったのが原因ではありますが、それを理由にしていては今後必ず大きな失敗を招きますわよ?」


 「うす、反省してますルミネてんてー」


 「てんてーとは何ですか、ちゃんと先生とお呼びなさい」


 「清宏・・・メッ!」


 メジェドは、ルミネに叱られている清宏の肩を叩き、自分も便乗して叱り付ける。


 「さーせん・・・てか、メジェド様達は質問は無いんですか?」


 「フフフ・・・細ケー事ァ良インダヨ。概ネ理解シタト思ワレル」


 「うわー・・・まったく理解して無さそうで怖いわー」


 「失敬ナ、コレデモヤレバ出来ル神ト言ワレ続ケテ数億年ノ大ベテランダ」


 「うん、やっても出来なかったら神を名乗る資格無いと思いますよ俺は・・・」


 「質問が無いようでしたら、講義はこれで終了いたします・・・皆様お疲れ様でした。

 清宏さん、貴方は残ってお勉強です・・・このままでは、いつボロを出すか知れたものではありませんからね」


 清宏とメジェドがくだらない会話を始めたため、ルミネは講義を終わらせ、緊張の糸が切れて椅子にもたれ掛かるように倒れ込んだ。

 メジェド達が思いの外大人しく話を聞いていたとは言え、相手が異世界の神となれば神官職のルミネにとって生き地獄だっただのだろう。

 ルミネが倒れ込んだのを見て、リリスが慌てて駆け寄る。


 「だ、大丈夫かルミネ!昨日来たばかりじゃと言うのに、疲れている中無理をさせてしまい申し訳ないのじゃ・・・」


 「いえ、私にとっても良い経験を積む事が出来ましたので、不思議と疲労よりも喜びと感謝の気持ちで満ちております・・・何せ異なる世界の方々とは言え、本物の神々と会話をする貴重な機会を得るなど、普通に生きていては絶対に叶わぬ事なんですもの!」


 椅子に座り、堰を切ったように汗を流すルミネは、清々しい笑顔でリリスに頭を下げた。

 その姿を見ていたメジェド達は、ルミネの前で膝を着き、手を取った。


 「尽力感謝スル・・・其ニ信ズル神ノ加護ガアル事ヲ願ウ。

 其ガ我等ニ願ウ事ガ有ルナラバ聞コウ、何デモ言ウガ良イ・・・モシ其ノ願イガ我等ニハ難シイモノナラバ、代ワリニ清宏ガ叶エヨウ」


 「突然の無茶振りが俺を襲う!?」


 「共ニ指導ヲ受ケタ仲デハナイカ、細ケー事ァ良インダヨ!」


 「気に入ってんのそれ?まぁ、これから色々と教わる事になっちまいますたし、出来る範囲でなら良いですよ・・・」


 清宏が渋々受け入れると、ホルス達はニヤリと笑ってサムズアップして肩を叩いた。

 

 「私が好意でさせていただいた事ですし、見返りを求める訳に参りません・・・そもそも、神に見返りを求めるなど恐れ多くて困ってしまいますわ」


 「良いのではないかの?この際、普通に生きておっては体験出来ん事をもっとしてみると良いと思うんじゃがな・・・ほれ、メジェド神達もそのつもりのようじゃし、断るのは逆に失礼じゃぞ?」


 笑顔のリリスに背中を押され、ルミネは恥ずかしそうに俯くと、上目遣いでメジェド達を見つめて小さな声で呟いた。


 「あの・・・でしたら、清宏さんが食べていたお菓子を私にもいただけませんでしょうか?」

 

 「おk」


 「2ch民かよ神様・・・いや、今は5chになってんだったか」


 清宏のツッコミを無視したメジェド達は、ルミネの願いを聞き大量のお菓子を取り出した。

 溢れ出すブルボンシリーズでルミネの身体が埋まっていく。


 「ちょっ・・・多すぎ!多すぎますわ!?」


 「遠慮ハ要ラナイ、オカゲサマデオカゲサマデ・・・」


 「これだけ食えば糖尿病まっしぐらだな・・・」


 お菓子に埋もれて動けなくなったルミネを放置し、清宏はメジェド達を見た。


 「さて、講義も終わりましたし出発しますか?

 まず、何処に行くか聞いても良いですか?」


 「紙ト書クモノヲ所望スル」


 「はいはい、これで良いですか?」


 メジェドは紙とペンを受け取ると、まず紙に大きな円を書き、次にそれを分割してそれぞれ国名を書いて壁に貼り付けた。


 「異世界ダーツノ旅」


 「適当過ぎる・・・まあ、自由気ままに見て回るのもたまには良いんじゃないですか?」


 「ウム、流石ヨク分カッテラッシャル。

 デハ、第1投目・・・」


 メジェドは清宏に頷くと、短剣を取り出して振りかぶった・・・まさかの全力投球だ。

 清宏は慌てて止めようとしたが、目の前に出てまで止める勇気がなく、すぐに諦めてしゃがみ込んで耳を塞いだ。

 メジェドの手から放たれた短剣は、真っ赤な光の筋を纏って超高速で目標に向かい、そして消えてしまった。


 「あれ・・・無事なのか?」


 何も起こらなかった事に首を傾げた清宏がメジェドを見ると、哀愁感満載の表情で項垂れていた。


 「摩擦デ溶ケタ・・・コレデハ決メラレナイ。

 モウ駄目ダア・・・オ終イダア・・・」


 「まさかのベジータリスペクトに思わず笑ってしまいそうなんでやめて貰えます?諦めたら、そこで試合終了ですよ?」


 呆れた清宏は紙を取り出して何やら書き始める。

 メジェドは相変わらずしょげていたが、清宏の書いた物を見て目を輝かせた。


 「コ・・・コレハ、古ヨリ語リ継ガレシ迷ッタ時ノ解決法・・・アミダクジ!!」


 「いや、古とかなんとか知らんけども・・・何故真っ先に思いつかないのか」


 「神トテ万能デハナイ・・・万能ナラバ堕天ナド起コサセズ解決シテイル」


 「神様が身内disんのやめて下さいよ・・・何かあったらどうすんです?巻き込まれるのはゴメンですからね?」


 「問題無イ、今デハ飲ミ会デノ酒ノ肴程度ノ話ダカラナ」


 「神とは?」


 「哲学ニ目覚メタカ・・・マァ良イ、取リ敢エズ行キ先ヲ決メネバ」


 メジェドは紙に指を当て、清宏の書いたアミダクジをなぞって行く・・・その結果、彼等の最初の観光地は信濃の居る東端の国となった。


 「フム、ココカラハ反対側カ・・・」


 「確か・・・名前はなんだっけ?」


 「東桜女氏國、東桜國とも言われている女王が治めている国ですわよ・・・先程教えましたのに、何故覚えていないのですか?」


 清宏がお菓子の山から這い出て来たルミネを見ると、呆れた様な声が返って来た。

 清宏は肩を竦めると、気を取り直してメジェドを見る。


 「まあ、先に遠い所からの方が後が楽ですし良いんじゃないですか?何日掛かるか分かりませんけどね・・・」


 「ウム、デハチョット行ッテクル」


 メジェドは清宏に手を上げると、異世界観光大使と書かれたタスキを取って引き伸ばし、ホルス達と共に輪の中に入って一列に並んだ。


 「電車ごっこですか?その歳で?」


 「迷子ニナッテハ困ルカラナ・・・デハ、出発進行」


 仲良く並んで駆け足をし始めたメジェド達は、清宏が開けたバルコニーから外に出て空に向かって駆け上がって行く。


 「問題起こさず楽しんできて下さい」


 「ウム・・・世界ノ果テマデイッテQ!」


 メジェドは清宏に軽く手を振り、一瞬で空の彼方へ消えて行った・・・それは、奇しくもメジェド達の向かう東桜國の空の上で、信濃と鞍馬がリリス城へ向かうかどうか話しをしているその時であった。




 

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