第209話 コンプ賞

 外が白み始め、皆が起き出す時間が刻一刻と近付く中、清宏の工房では相変わらずお菓子パーティーが催されていた。

 神々は好物であるが故か、持って来ていたお菓子が無くなれば新たな物を取り出し、開けた袋は既にそれぞれ1ダースを超えている。

 清宏は清宏でお菓子に合いそうな酒などを多数持ち出し、工房内はパーティーとは名ばかりの宴会状態だ。

 ワインを飲みながらルマンドをカリカリと齧っていた清宏は、工房の外が騒がしいのに気付くと、何事かと思いメジェド達に一言断ってから広間に向かう。


 「おーう皆の衆、今日もよろしく!」


 「き、清宏!お主、あのメジェドとか言う神が仲間を連れて来とるとは本当か!?って酒臭っ!!」


 アンネから報告を受けたのか、リリスは清宏を見るなり走って来て詰め寄ったが、あまりの酒臭さに鼻を摘んで顔を背けた。


 「おー、昨夜急に現れてな。今までメジェド様達が持って来てくれたお菓子を肴に酒盛りしてたんだわ。いやあ、話してみると面白いなあの人?達」


 「何を悠長な事を言っとるんじゃお主は・・・それで、何も問題は無さそうか?一応、今狩に行っておるペインには知らせておらんが、このまま鉢合わせたらどうなる事か・・・」


 「でーじょーぶだって、さっき改めてあいつの事をメジェド様に謝ったら気にしてないって言ってたし、逆に俺の仲間に怪我をさせたって謝られたから問題なさそうだ」


 話を聞いてリリスは安堵すると、相変わらず鼻を摘んだまま清宏を見上げた。


 「それにしても、一体全体どう言う風の吹き回しなんじゃ・・・そもそも、お主が呼ばぬ限り来ぬのではなかったのか?」


 「メジェド様は呼ばなきゃ来ないとは言ってなかったからな・・・俺が一応聞いた話だと、なんでも一度繋がりが出来た世界であれば自由に行き来出来るんだそうだ。

 ちなみに、今回来た理由は異世界観光大使になったから仲間を連れて観光に来たらしい」


 「か、観光じゃと・・・何とはた迷惑な上にフリーダムな奴等なんじゃ。もし他の魔王や各国の有力者に知れたら大騒ぎになるぞ」


 「そうならない様に話はつけたから心配すんな。

 取り敢えず、移動は空を飛ぶから心配ないって言ってたし、一度訪れた場所なら瞬間移動が可能だから行きだけ気を付ければ大丈夫だそうだ。

 あと、観光だけじゃなく買い物もしたいと言ってたんだが、こっちの言葉が理解出来るのはメジェド様だけだから、他の神達は基本黙ってると言ってたよ」


 「いやいや待たんか清宏!言うに事欠いて買い物じゃと!?それこそ大問題ではないか!そもそもメジェドとか言う神の見た目はどうするんじゃ!?」


 普段以上に慌てふためいているリリスは、唾を撒き散らしながら清宏に詰め寄った。

 清宏はハンカチで顔に付いた唾を拭き、リリスの頭を撫でて落ち着かせる。


 「それについては俺も心配だったんだが、流石は神様って言ったら良いのか、魔道具とか特別な魔法とか無くても相手の視覚を誤認させて姿形を変えるのは造作もないんだと・・・まあ、俺もまだ確認はしていないが、俺だけでやるより全員で確認した方が良いから後回しにして貰った。

 あと、買い物なんかに掛かる費用は全部俺持ちなんだが、その代わりにこっちに来る時には土産を貰う約束になってる・・・まあ、こっちの世界水準を大きく逸脱する様な物は持って来ないでくれと頼んでるけどな」


 「お主、神相手に取引とか頭がおかしいのではないか・・・呆れを通り越して感心するわい」


 「そりゃどうも・・・さてと、そろそろ良い時間だし、改めてメジェド様とそのお仲間達を紹介して朝飯にしようぜ・・・ペインはまあ、俺が何とかしよう」


 「気は進まんが仕方なかろう・・・次からは前もって教えてくれたら心の準備も出来るんじゃがなあ・・・」


 話を終え、清宏はメジェド達を呼ぶため再度工房に、リリスは仲間達に清宏から聞いた内容を説明してテーブルなどの準備を始めた。


 「さて、皆んな集まってるかー?アンネとレイスは朝食の準備中、ペインとローエン、グレンの3人はまだ狩の途中だろうから後回しにするとして、今から大事な客人を紹介するから耳をかっぽじって聞くように!

 ではまず、皆さんご存知のメジェド様!異世界観光大使としてお仲間を連れて来られましたー・・・はい拍手!!」


 メジェド達を連れて広間に戻った清宏は、今広間に居る全員の前で神々の紹介を始めた。

 徹夜明けな上に飲んだくれてテンションの高い清宏とは逆で、集まっている者達はいまだに理解に苦しんでおり拍手もまばらだ。

 だが、清宏はそんな事など気にも留めず、次に隼の頭を持つ神の紹介を始めた。


 「この方はホルス神様、エジプト神話最強と言われてる神様だ・・・ですよねメジェド様?」


 「如何ニモ」


 メジェドが肯定し、清宏は皆を見て声のトーンを下げる。


 「いいか、絶対に怒らせんなよお前等・・・。

 ちなみにホルス神様は天空と太陽の神・戦いの神・王権の象徴と言われてて、右目が太陽、左目が月、羽毛は星で翼は空なんだそうな・・・ですよねメジェド様?」


 「如何ニモ。見事ナ紹介ノ褒美ニ、エリーゼヲ与エル」


 「あざっす!エリーゼ美味え・・・。

 さて、次はトキの頭をされてらっしゃるトト神様だ!この方は知恵を司り、書記や学者の守護者と言われていて、ヒエログリフという文字を発明し、さらには呪文や秘伝を意のままに操るお方だ!・・・ですよねメジェド様?」


 「ウム・・・次ハ、ルーベラヲ食スガ良イ」


 「ルーベラはサクサク美味しい!」


 完全に餌付けされている清宏に対し皆冷ややかな視線を送るが、当の本人はまったく気付かずに犬の頭を持つ神の隣りに立ち、口の中のお菓子を飲み込んだ。


 「はい、次はアヌビス神!!様だ」


 「待テ・・・何故アヌビス神!!ト力ヲ込メル必要ガアッタ?」


 「気分ですが何か?ぶっちゃけ、私の知ってる漫画原作の格闘ゲームで、アヌビス神様のキャラクターを選択すると力強く発音してたからなんですけどね・・・」


 「ナルホド・ザ・ワールド!時ヨ止マレ・・・」


 「時は動き出す・・・なーんだ、知ってんじゃないすかメジェド様ー!」


 「知リ合イガ遊ンデイルノヲ見タ」


 「えっ、誰っすか?」


 「天照・・・奴ハ引キコモリノゲーマーダ」


 「来たら絶対にブン殴る・・・」


 清宏とメジェドの話が脱線していると、寂しそうなアヌビスが清宏の方を軽く突いた。


 「あ、すみません・・・そんな(´°̥̥̥̥̥̥̥̥ω°̥̥̥̥̥̥̥̥`)みたいな顔しないで下さいよ。

 では皆の衆、この方はアヌビス神様だ・・・この方は葬祭の神であり死者の魂を導く者、ミイラ職人の守護者でもある。

 ちなみに、トト神様とは一緒に死者の魂を裁く仕事をされているためマブダチだ・・・いかがですかメジェド様」


 「ウム、ホワイトロリータヲ食セ」


 「ホワイトチョコとサクサク感が堪らない!!おっと、次に行かねば・・・では皆様お待ちかね、最後に紅一点のご紹介・・・バステト神様!ボディーラインが素晴らしい!!

 えー・・・このお方は家の守神とか多産のシンボル、豊穣を司る神様でもあります。ちなみに、好きな物は音楽と踊りだそうです・・・さあメジェド様、お次は?」


 清宏が身体をくねらせて擦り寄ると、メジェドは満足気に頷いた。

 

 「ルマンド、チョコリエール、バームロール、エリーゼ、ルーベラ、ホワイトロリータ・・・コウナレバ最後ニ何ガ来ルカハ決マッテイルダロウ?」


 「ま、まさかアレですか?しっとり柔らかで甘酸っぱいあのお菓子!」


 「左様、レーズンサンドデアル」


 「やったー!お婆ちゃんちに行ったら大抵出てくるブルボンシリーズ全種類コンプ!!7つ揃ったから神龍的な何か来るかも!?」


 清宏が期待した目で見つめると、メジェドは身体を揺らしながら静かに笑い、腕を生やして小さな箱を取り出した。


 「コンプ賞ハコレダ」


 「そ、それは・・・チョコあ〜んぱん!?懐かしい!!」


 子供の様に喜ぶ清宏を見るメジェドは、満足気に頷き、ホルス達4人もコンプリートした清宏に盛大な拍手を送る。

 だが、そんな清宏と神々のくだらないやり取りを延々と見させられていたリリス達は、内心『早く終われ・・・』と神に祈っていた。


 

 




 


 

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