第208話 異世界ふしぎ発見!

 皆が寝静まり、清宏はいつもの如く工房で魔道具製作に勤しんでいる。

 他の魔王達と話を付けるまでにはまだ日があるとは言え、清宏の技量では製作に時間が掛かってしまうため、ヴァルカン達が帰ってからは暇を見つけては必ず作業を進めているのだ。

 清宏は一つ目の魔道具の魔術回路を彫り終え、座ったまま背伸びをして後ろに倒れる。


 「やっと一つ目の完成が見えて来た・・・3Dプリンターみたいなのがあれば楽なんだがなぁ・・・でも、無けりゃ造れば良いってレベルの物じゃないし、地道にやってくしかねーか。

 さてと、あとは組み立てるだけだし便所に行って気分をリフレッシュするかな・・・ひいっ!?」


 清宏は立ち上がって工房の扉を開くと、工房の外で仁王立ちしている不気味な影に驚いて尻餅をついてしまった。

 不気味な影はゆっくりと清宏に歩み寄り、工房の明かりに照らされてその姿を現した・・・それは、数日前に帰ったはずのメジェドだった。


 「か、帰ったんじゃなかったんですか・・・てか、いつ来たんです?」


 「Now」


 「えっ、横文字?」


 清宏が聞き返すと、メジェドは自慢気に胸を張った。

 清宏は居住まいを正して正座をし、メジェドを見上げる。


 「Youは何しに異世界へ?」


 「sightseeing」


 「・・・観光!?何で!?」


 メジェドは工房の中に入って清宏の前に立つと、目で自分の胸元を指し、自慢気に胸を張った。

 メジェドの胸元には、何か布製の輪っかの様な物がタスキ掛けになっており、そこには『異世界観光大使』とデカデカと書かれている。


 「何故にそんなもんになったんですか・・・てか、肩も無いのにどうやって固定してるんです?」


 「神力」


 「うわぁ、無駄遣い甚だしい・・・ついでに、あともう一つ良いですか?」


 「ウム」


 「神力を無駄遣いするくらいですし、そのタスキの素材ってまさか・・・」


 「聖骸布ダガ?」


 「それって聖遺物ですよね?そんな雑な扱いで良いんだ・・・いや、重要なのはそこじゃ無い!観光大使って何なんですか!?」


 「ヌヌヌヌ・・・フン!」


 メジェドは清宏の質問には答えず、顔を真っ赤にして力むと、身体の左右に穴が開き、そこから腕が生えた。


 「危うくちびるかと思った・・・てか、腕生えるんですね?」


 「造作モナイ」


 「で、腕を生やしたからって何だって言うんですか・・・ん?何ですかその紙は」


 「詳シクハソレデ」


 清宏は差し出された紙を受け取り、呆れた様にめを見てため息をついた。


 「メジェド様、詳しくはwebでみたいに言わないで下さいよ・・・。

 えっと・・・本来、神の力を持ってしても自力で異世界へ渡るのは難しく、第三者からの呼び掛けなどがあって初めて可能になると・・・いや、メジェド様来てんじゃん」


 「Next page」


 「いや、だから横文字・・・。なになに?一度呼ばれた場合、その世界との繋がりが出来るため、その後は自由に行き来が可能になると・・・じゃあコレは何の為にって言うのは野暮ですかね?って増えてる!!?」


 清宏はメジェドにツッコミをいれながらページをめくり、最後まで読み終えてスカラベの金細工を取り出して顔を上げると、メジェドの周りに見知らぬ人物達が並んでいるのに気付いて飛び上がった。

 先程まで誰も居なかったはずのメジェドの左右には、隼の頭を持つ男、トキの頭を持つ男、犬の頭を持つ男、猫の頭を持つ女が並んで立っていたのだ。


 「いつ!?いつから居たんですか!?」


 「Now」


 メジェドが呟くと、並んでいる人ならざる者達は揃って頷いた。


 「待てよ・・・そうだ、これはきっと夢だな?じゃなきゃあメジェド様だけでなくホルス神、トト神、アヌビス神、バステト神が目の前に居るなんてあり得る筈がない!いや、あってはならない!!」


 「It's real」


 「何でだよー、何で夢じゃねーんだよー・・・」


 「現実トハ常ニ厳シイ・・・」


 メジェドは慰める様に清宏の肩を叩き、ホルス神達も無言ではあるが励ます様に頷いている。

 しばらく自分の世界に旅だっていた清宏は、何とか自力で意識を取り戻すと、ずっと立ったままだったエジプトの神々に椅子を勧め、自分は床に座って話を聞いてみる事にした。


 「もうね、何が何だか色々と訳ワカメなので言葉が悪くなっても勘弁して下さいね?」


 「ウム」


 「じゃあ、まず一言・・・この暇神共め」


 「Nice joke」


 「いや、冗談ではなくてですね?何なんですか後ろの横断幕は・・・」


 清宏が指差した先には、いつの間にか『異世界ふしぎ発見!ツアー 第1班エジプト神御一行様』と書かれた横断幕が掲げられている。

 明らかに苛立ちを隠しているのが見え見えの清宏は、それでもお茶の用意をして冷静さを保とうと必死に堪えている。

 清宏は淹れたてのお茶を全員に配ると、少しは落ち着いたのか質問を再開する。


 「さっきから思ってたんですが、メジェド様以外は無口なんですか?」


 「他ノ者ハ言葉ガ理解出来ヌノダ・・・我ハ其ト同ジク召喚サレタユエ其トノ会話ガ可能デアルガ、他ノ者ト其デハ元来ノ言葉ガ違ウユエ会話ガ成リ立タヌノダ」


 「そう言う事でしたか・・・では、会話する時の通訳はメジェド様がお願いしますね」


 「バッチコイ」


 「相変わらず言葉のチョイスがおかしい・・・。

 では次の質問ですが・・・そちらの方々が第1班という事は、まだこれからもちょくちょく来るって事ですよね?ちなみに、次は誰を連れて来るつもりなんですか?」


 次の質問に移り、メジェドは再度紙を差し出す。

 紙を受け取った清宏は、そこに書かれている内容に目を通すと、あまりの恐怖に引きつった表情でメジェドを見た。


 「第2班・・・天照大神、素戔嗚尊、月読命、大国主神、天鈿女命。

 だ、第3班・・・ゼウス、ポセイドン、ハデス、ヘファイストス、ヘラ、アポロン。

 だ、第4班・・・オーディン、トール、フレイ、フレイヤ、ロキ。

 だ、第5班・・・オメオテトル、ケツァルコアトル、ウェウェコヨトル、トラウィスカルパンテクートリ、ミクトランテクートリ、ミクトランシワトル・・・。

 ねえメジェド様・・・この後もヒンドゥー、マヤ、メソポタミア、道教、仏教とか色々と続いてますけど、もう一回言って良い?マジで暇なの?」


 マジギレ寸前の清宏に睨まれ、メジェドは素早く目を逸らす。


 「異世界トハ、ソレ程興味ヲ惹カレルモノナノダ・・・ソウ、コレハ全テ、魅力溢レルコノ異世界ガ悪イノダ」


 「うわー、幻滅ー・・・俺の中でメジェド様の株が大暴落ですよ?まあ、一番暴落してんのは三貴子共ですけどね・・・こっちに来たら、まずは凹むまで嫌味言ってやる」


 「・・・怖イ物知ラズメ」


 「異世界に興味深々の神・・・どこに怖さを見出せば良いんですかね?是非ご教示頂きたいものです・・・ねえ、メジェド様?」


 メジェドは形勢が不利になり、ソワソワとし始める・・・お茶を飲んでいた他の神々もヒソヒソと話し合い、しばらくして全員が頷き合うと、懐から何か取り出して清宏に渡した。


 「コレヲオ納メクダサイ・・・」


 「まさかの袖の下!?」


 「厳選シタ我等ノ好物ダ・・・」


 「好物って心臓じゃあるまいな・・・意外、それはルマンド!!マジで良いんすか!?」


 清宏は受け取った物を見て、興奮のあまり身を乗り出す。


 「他にもホルス神様はバームロール、トト神様はチョコりエール、アヌビス神様からはぬれ煎餅、バステト神様はたまごボーロですか!?ヤバい、買収されちゃうーーーっ!!」


 全員からお菓子を受け取った清宏は喜びが頂点に達し、お菓子を抱き締めながら床を転げ回る。

 メジェド達はそれを見てうまく話を逸らせたと安心したのか、安堵のため息をついた。

 嬉しさを隠しもしない清宏は、ニコニコと笑顔を浮かべながら座り直す・・・まだお菓子を抱いたままなのは言うまでもない。


 「もー、本当に貰っちゃって良いんですかー?次来る時も持って来てくれるなら、俺は見て見ぬ振りしちゃいますよー!あ、メジェド様達はこっちのお金あります?観光するなら必要でしょうし、俺が立て替えますよ!こうやって何かお菓子とか持って来て貰えたらそれで良いですから!!」


 「商談成立・・・今後トモシクヨロ」


 「いえーい!久しぶりのルマンドだー!!」


 完全に意気投合した6人は手を繋いで輪を作ると、工房内をグルグルと回りながら踊り出す。

 6人がキャッキャキャッキャと言いながら躍り狂っていると、不意に工房の扉が開いてアンネが現れた。


 「清宏様・・・この様な夜更けにどうかなさい・・・」


 扉を開けたアンネは、工房内で踊り狂う清宏と異形の神々を見て一瞬真顔になり、そのまま音もなく扉を締めて立ち去った。


 「誰カニ見ラレタヤモ知レヌ」


 「そんなん気にしなくて良いですよ!どうせ、うちの奴等しかいませんから!早速これからお菓子パーリーしましょう!!」


 メジェドが立ち止まって扉の方を見たため、踊りが中断される。

 だが、喜び冷めやらぬ清宏は気にする素振りもなく、再びお茶の用意をし、朝日が昇るまで懐かしのお菓子を堪能した。

 

 

 

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