第199話 魚人三兄弟

 なかなか起き上がらない魚頭のマッチョ達に待ちくたびれた清宏は、岩に張り付いていたトコブシを採取し、火で炙ってルミネと2人で食べている。


 「それにしても何なんだろうなこいつ等は・・・頭の形からして、鯖・鮭・鰹の魚人か?」


 「鯖・鮭・鰹ですか・・・ちょうど美味しい季節ですわね」


 「こいつ等見てたら食う気失せるけどな」


 「あら、その割には貝は食べるんですのね・・・まあ、これだけ美味しければ食が進むのは分かりますが」


 「だろ?トコブシは煮ても焼いても良いが、刺身も美味いんだよ。よし、いくつか取って帰って酒の肴にするかな」


 清宏が立ち上がってトコブシ採取に出ようとすると、魚人達の動きがピタリと止まった。

 

 「何でこのタイミングで・・・おーい、気が付いたか?」


 気付いた清宏はルミネの隣にしゃがみ、魚人達に声を掛けた。

 魚人達は清宏の声に反応して上半身を起こすと、ギョロっとした目でルミネを見つめた・・・見つめられたルミネは、一瞬身体を強張らせて清宏の背後に逃げ込み、肩越しに魚人達を見る。


 「気味が悪いですわね・・・」


 「まあ、魚の頭をしたマッチョだからな」


 盾にされた清宏は、ため息をつきつつもルミネを庇う・・・先程調子に乗って彼女を泣かせてしまった罪滅ぼしだろう。

 清宏は魚人達の視線からルミネを守りながら腕を組んで睨んだ。


 「おいおい、あまりうちの嬢をそんな熱い目で見ないでくれないか?これ以上は見物料を貰う事になるぞ」


 「妙な言い回しをしないでください・・・本当に見物料を払われたらどうなさるんですの?」


 ルミネが清宏の背中を突いていると、魚人達は立ち上がって横一列に並び、奇妙なポーズを取って名乗りを上げた。


 「我が名はマッカレル!」


 「我が名はサーモン!」


 「我が名はボニートー!」


 「そのまんまじゃねーか!何カッコつけてマッカレルとかボニートーとか言ってんだ、鯖と鰹で良いじゃねーか!!」

 

 ドヤ顔をしている魚人達に対して清宏は怒鳴りながら石を投げたが、魚人達は素早くしゃがんで回避し、再度ルミネを見た。


 「よくぞ我等兄弟の完璧な擬態を見破った!」


 「擬態・・・あれがですか?あんなあからさまに覗いていて何を言ってるんですの?」


 魚人達はルミネの言葉を聞き、後ろを向いてコソコソと話始める。


 「兄者、バレバレだったようだぞ・・・」


 「いや、そんなはずは・・・」


 「たまたまだ・・・我等は完全に岩と同化していたのだ、そう簡単に兄者の策が見破られるはずが無い」


 「そうだな!兄者は我等三兄弟随一の頭脳の持ち主なのだから、偶然バレたに違いない!」


 凹んでいた鯖の魚人は、鮭と鰹の魚人に励まされて自信を取り戻すと、振り返ってまたもや奇妙なポーズを取った。

 清宏はそのポーズに見覚えがあるらしく、魚人達に尋ねた。


 「それサンバルカンのポーズじゃねーの?お前等まさか、地球って知ってる?」


 「何だ藪から棒に・・・チキュウ・・・チキュウ・・・」


 魚人達は清宏に尋ねられ、視線をルミネの下腹部に向けて指差した・・・ルミネはその意味を察して恥ずかしそうに顔を赤らめ、清宏の背後に隠れて石を投げ出す。


 「清宏さん、この方達変態ですわ!!」


 「いや、恥丘と言えばそこしか・・・」


 飛んでくる石を避けながら、魚人達は不思議そうに呟いた。

 清宏は鯖の魚人を素早く捕まえると、鳩尾に拳を叩き込む。


 「おい、真面目に答えねーなら解剖して声帯の構造調べんぞ・・・」


 「あ、兄者ーっ!?」


 岩の上に崩れ落ちた鯖の魚人に、鰹と鮭の魚人達が駆け寄る。

 鯖の魚人は2人に助け起こされると、清宏を見て弱々しく笑った。


 「やるじゃない・・・だが、我が滅びようとすぐに第二第三の我が・・・ガクッ」


 「あ、兄者ーっ!!」


 鯖の魚人が力尽き、鰹の魚人が泣き叫ぶ・・・すると、鮭の魚人が立ち上がり清宏を見て不敵に笑った。


 「兄者がやられたようだな・・・だが、兄者は我等三兄弟の中でも最弱・・・人族ごときに負けるとは魚人族の面汚しよ。次は技の次男である我が相手になってやろう」


 「兄貴が最弱なのかよ・・・何でお前等従ってんの?それ以前に、鯖と鮭と鰹は違う魚だから兄弟じゃねーだろ」


 「問答無用!喰らえ、我が長年の鍛錬の末に編み出した最終奥義、その名も時不知鮭!!」


 「やかましい!ただの鮭の種類じゃねーか!!」


 「ぎょぎょっ!?」


 鮭の魚人が構えて技名を叫んだが、発動寸前で清宏に殴られて岩に叩き付けられた。


 「さ、最後まで見るのが礼儀・・・ガクッ」


 「兄者ーっ!!くそっ・・・次は力の三男である我がっ・・・あ、ギブギブ!降参します!!」


 岩に激突して気絶した兄を助け起こした鰹の魚人は怒りを露わにして振り返ったが、巨大な岩を持ち上げた清宏を見て呆気なく降参し、その場に正座した。


 「で、何なのお前等・・・鮭が技でお前が力なら、鯖は何なの?」


 「えっと・・・マッカレルの兄者は知に長けている」


 「それはDHA的な意味で?確か、シメサバはDHAが豊富だったな・・・」


 「DHAとは?」


 「知らんなら良いや」


 「はい・・・」


 清宏には敵わないと思い知った鰹の魚人は、大人しく正座をして話を聞く。

 そんな鰹の魚人を見た清宏は、ポーションを取り出して気絶している2人に飲ませた。

 清宏から離れたルミネは、岩の陰から様子を伺いながら問いかける。


 「ポーションで大丈夫なのですか?死んでるように見えますが・・・」


 「まだ話聞いてないんだから加減してるに決まってんだろ・・・それ以前に、俺が殺すと思うか?」


 「それもそうですわね」


 「おっ、目が覚めたみだいだぞ」


 「あ、兄者ーっ!!」


 目覚めた2人に鰹の魚人が駆け寄り、抱きしめ合う。

 ルミネはそんな3人の姿を見て微笑むと、岩陰から出て来て清宏の隣に腰掛けた。


 「どうやら悪い方達では無さそうすし安心しましたわ」


 「馬鹿だけどな」


 清宏が面倒臭そうに呟くと、それを聞いた鯖の魚人が立ち上がって清宏を見た。


 「三兄弟随一の頭脳を持つ我に対し、馬鹿とは失礼ではないか?」


 「ふむ・・・じゃあ、俺が出す問題に答えてみな。正解したら馬鹿にした事を謝ってやるよ」


 「ふふん!我が智略に恐れ慄くが良い!!」


 「1+1は?」


 「馬鹿にしているのか貴様は!?しばし待っていろ・・・」


 問題を聞いた鯖の魚人は腕を組むと、斜め上を見ながら考え始めた。


 「考える必要あったか?」


 「いえ?」


 それからたっぷり5分程考え、鯖の魚人は笑いながら頷いた。


 「ふはははは、解けたぞ!答えは・・・新たなる生命の誕生だ!!」


 「流石は兄者、素晴らしい!!」


 「はいはい、お前等黙れよー・・・一応何故そうなったか聞こうか?」


 清宏は兄をもてはやす弟達を一睨みで黙らせると、鯖の魚人に尋ねた・・・鯖の魚人は得意気に胸を張っている。


 「雄と雌が交われば子が産まれるのは自然の摂理では?」


 「1+1は何処に行ったんだ、無駄に壮大な話にするんじゃないよ・・・じゃあ1×1はどうだ?」


 「ほう・・・その答えはあれだな、業が深いだと思うが?」


 「何をどう解釈すればそうなるのですか・・・」


 ルミネが呆れて鼻で笑っていると、清宏が冷や汗を流しながらそれを遮った。

 

 「おい、それはまさか・・・逆カプとか同カプ解釈違いとかそっち系の意味でか?」


 「ほほう、そこに気付くとは貴様もなかなかのなかなかだ・・・。

 そう、貴様の想像している通り、カップリングが逆であったり、同じカップリングでも性格や属性などの解釈の違いで骨肉の争いが起きてしまう・・・それを業が深いと言わずして何とする?」


 自信満足に答えた鯖の魚人に清宏は尊敬の目で見て頷くと、ルミネを振り返った。


 「ルミネ、よく分かったぞ・・・こいつは物事をあらぬ方向に深読みする質の悪い馬鹿だ!」


 「・・・今更ですか?」


 「ぎょぎょっ!?」


 「あ、兄者ーっ!!」


 結局2人に馬鹿認定されてしまった鯖の魚人はショックで気絶してしまい、清宏達はさらに時間を無駄にする事になってしまった。

 

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