第200話 第1回サキュバス会議
清宏とルミネが無駄な時間を過ごす事になってしまった同じ頃、リリス城に増設された一角・・・ビッチーズ達の根城では、リリを議長に任命してサキュバス達による緊急会議が行われていた。
「6号、お客さんよ・・・いつもの丸顔の冒険者が来たみたい」
「あ、マー君?いやあ・・・週に2回は来てくれるとは言え、何だか申し訳ないですなぁ」
「向こうもあんたに会いたくて来てんでしょ?なら気にする必要はないわ・・・ほら、くっちゃべってないでさっさと行く!」
「はーい、6号行きまーす!」
ビッチーズ達は、会議の合間にも客が訪れるたびに入れ替わりで退出していく。
リリは6号と呼んだサキュバスを見送ると、席に着いている残りの面々に向かってため息をついた。
「で、あんた達は今更ながら名前で接客したいって事だったかしら?」
「そうそう!私は12号って言われてるけどさ、お客さんからよく言われるんだよね・・・ちゃんとした名前を呼びながらの方が燃えるってさ」
「自分の名前があるでしょ、教えてあげたら良いだけじゃないの?」
リリがビッチーズ達に正論を突きつけると、皆目を逸らして口笛を吹いて誤魔化した。
「まさか、あんた達って自分の名前すら覚えてないの?」
「だってさ、ここに来る前までは名前なんて必要なかったんだもん・・・リリは私達の名前覚えてない?」
「覚えてないわね・・・いえ、それ以前にあんた達の名前を聞いた事があったかしら?私も基本的にあんた達の事を呼ぶ時は『ねえ』とか『あんた』としか呼ばなかったし、番号が定着してからはそれでしか呼んでないからね・・・」
「リリはくじょー!」
リリの言葉を聞き、一番幼い見た目の20号が頬を膨らませながら文句を言ったが、クッションを投げ付けられて椅子から転げ落ち、床で後頭部を打つけて気絶した。
リリは椅子に座り直すと、もう一度ビッチーズ達を見てため息をついた。
「自分の名前忘れてるとか私が分かるわけないでしょ・・・そもそも、忘れたあんた達の責任じゃないの?」
「まあそうなんだけどさ・・・でも、実際今までの生活と違って、安定して性を得られるようになったからか前程エッチに飢えてないと言うか、前はそれしか考えてなかったけど、今は他の事を考える余裕が出来たと言うか、お客さんも喜べば私達も嬉しいし名前は必要かなって思うんだよね・・・」
「まあ、確かに最近のあんた達は見てて安心していられるようにはなったと思うわ。最初は酷かったから尚更ね・・・清宏を誘惑しようとした時は生きた心地がしなかったわよ。
で、実際どうなの?私はまだ経験無いし、今まで魔石を食べれば十分だったから気にした事無かったんだけど、今の生活で満足なの?少ないと思う時ってあるのかしら」
リリが皆に尋ねると、先程答えた1号が腕を組んで唸った。
「さっき言った通り今の生活は安定してはいるけど、多い時でも1日に2〜3人でしょ?しかも、殺しちゃいけないから空になるまで搾り取る訳にいかないし、量としては足りる日と足りない日でまちまちね・・・まあ、前の生活の時には何日も空腹って時が結構あったし、今の生活と比べるなんて流石に清宏様に悪いと思ってるわ。
正直、名前なんてただの固有名詞だし、私達は今までは気にしなくても困らなかったけど、お客さんから結構要望があるとなれば無視出来ないじゃない?たったそれだけでお客さんが喜んでヤル気になってくれるなら、私達としても質の良い性を得られるしでWin-Winだと思うのよ・・・」
「それに砂鯨や猫又、氷狼はまだしも、スライムですら名前を付けてもらったのに、私達だけ番号って酷くない?清宏様は色々と面倒見てくれるけど、私達の名前を聞いてくれたって良いと思う訳ですよ・・・まあ、名前覚えてないから教えられない訳だけども!それでもね、こっちとしてはやっぱり聞いて欲しいじゃん?正直、私達にあんまり興味無いのかなって心配になる訳ですよ・・・」
1号の言葉に続ける形で話した15号は、涙を浮かべてテーブルに突っ伏した。
それを見たリリは彼女達の意見に哀れむ様に目を伏せた。
「あんた達の言いたい事は私も分からないでもないわよ・・・でも、清宏があんた達に興味が無いなんて絶対に無いわ・・・それだけは信じなさい。
もしあいつがあんた達に興味が無いのなら、わざわざ城の一角を割いてまで全員にお風呂付きの個室を与えると思う?確かに客が満足するようにってのもあるんだろうけど、あんた達が不便な思いをしないようにって考えてあれだけの部屋を用意して、新規のお客さんを偏らないように全員にバランス良く割り振ってくれてるのもあいつなの・・・あんた達は、例え使える奴だからって興味の無い奴にそれだけの事が出来るかしら?」
「出来ない・・・てか、興味無い奴には関わる気無いかな」
15号が顔を上げて呟くと、その場に居たビッチーズ達全員が頷く。
リリがそんな彼女達を見て苦笑していると、18号が不思議そうに首を傾げた。
「ねえ、今気付いたんだけどさ・・・清宏様が新規のお客さんを割り振ったり色々してるなら、リリは一体何してんの?」
『確かに!』
18号の言葉を聞いた他のビッチーズ達が一斉にリリを見る・・・すると、リリは慌てて目を逸らした。
「まさか、何もしてないの?」
「あ、あんた達が心配しなくても、ちゃんと任された仕事をこなしてるわよ・・・」
「具体的に何をしてるの?」
「あ、あんた達の監視・・・」
「それってもう必要無くない?だって、私達ちゃんとしてるしー」
「いや、清宏からはまだ監視しなくて良いとは言われてないしね・・・だから、まだ続けないといけないんじゃないかしら?」
ビッチーズ達の矛先が自分に向いてしまい、リリは居心地が悪そうにもじもじとし始めた。
ビッチーズ達はそれが面白いのか、当初の目的も忘れてニヤニヤと笑いながらリリを見ている。
リリもそれに気付いているようだが、言い返せずにとうとう涙目で俯いてしまった。
「私だって自分が役立たずな事くらい分かってるわよ・・・あんた達みたいにお客を取ってる訳じゃないし、アンネやレイスみたいに家事なんかで貢献してる訳でもないもの・・・正直、まだ子供のアリーや、動物のオスカーやヴィッキーなんかと同レベルでしかないわ。
でも、だからこそ与えられた仕事くらいはちゃんとこなしたいって思うけど、それすら用無しになっちゃうなんて、私の存在する意味ってなんなのかしらね・・・なのに、リリス様や清宏はそれを知ってて見捨てようとしないし、本当惨めだわ・・・」
泥沼にはまってしまったリリから、負の感情が溢れ出す。
地雷を踏み抜いてしまったビッチーズ達は、慌ててリリを励まし出した。
「だ、大丈夫だってリリ!あんたが監視してくれてるから、私達だって気を引き締めて頑張れるんだからさ!!」
「そうそう!私達なんて今でも中身はパーなんだからさ、あんたが居ないと羽目を外すに違いないって!だから安心しなさいよ!!」
「清宏様だって、それを理解してるからこそ見捨てないんじゃないかな!いや、あんたに惚れてる可能性も十分あるんじゃない!?いやぁ、羨ましいなー!!」
励まされたリリは、顔を上げて潤んだ瞳でビッチーズ達を見た。
「・・・本当?」
『!?』
ビッチーズ達は、リリに見つめらて胸を押さえて蹲る。
「ヤバい・・・同族にトキめくなんて不覚だったわ・・・」
「何なの?処女?処女だからだっての!?」
「私、案外女でもイケるかも・・・」
ビッチーズ達はフラフラと立ち上がると、リリと目を合わせないように気を付けながら近寄り、彼女の肩を叩いた。
「リリ、あんたも自信を持ちなさい・・・私達を御し切れるのは、清宏様以外ではあんたしか居ないって事が判明したわ。
取り敢えず、まずは清宏様に私達の名前を考えて貰えるように交渉して・・・それがあんたの新しい仕事よ」
「うん、分かった・・・」
自分が必要とされている事を知ったリリは、涙を拭って弱々しく微笑む・・・すると、それを見てしまった数名が吐血して倒れた。
「ぐはっ!?」
「3号!?14号・・・18号まで!?何であんた達目を合わすのよーっ!!」
「魅了耐性のあるサキュバスを魅了するなんて・・・これが召喚された奴の力なの?」
その後、ビッチーズ達の間ではいくつかの暗黙のルールが出来た。
① リリを揶揄わない。
② リリを泣かさない。
③ リリが泣いたら励まさず落ち着くのを待つ。
④ 泣いたリリとは目を合わせるな。
⑤ 以上①〜④を守らなかった場合、いかなる事が起ころうとも、全て自己責任とする。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます