第189話 クリスの家族

 クリスの屋敷に着いた清宏達が馬車から降りると、扉の前で待機していた使用人がお辞儀をして扉を開けた。


 「さあ着きましたぞ!ようこそいらっしゃいました、我が家と思って寛いでいただけたら嬉しく思います!」


 クリスは清宏達を振り返ると嬉しそうに笑い、先に屋敷に入って迎え入れた。

 清宏とペインはクリスに招かれて嬉々として中に入ったが、オーリック達は屋敷のあまりの大きさに気圧され、二の足を踏んでいるようだ。


 「おっきいねー!」


 「凄ーい!」


 シャーリーとアーリンは、目を丸くして周囲を見渡してリンクスと父親の手をしきりに引っ張っているが、皆なかなか動こうとしない。

 先程クリスの誘いを受けたにも関わらず、オーリック達は土壇場になって後悔していた。


 「帰りたくなってきましたわ・・・」


 「今までにも外からは何度か見たけど、下手な貴族連中の屋敷より遥かにデケーぞこれ・・・警備の数も半端ねーし、俺達場違いじゃねーの?」


 「今更ながら、私もそう思ってきたよ・・・だが、お誘いを受けておいて帰る訳にはいかないだろうな・・・清宏殿は真っ先に行ってしまったしな」


 緊張して不安そうにしているルミネとジルに対しオーリックは苦笑すると、先に入ってしまった清宏の背中を見てため息をついた。

 清宏は出迎えの為にホールに集まっていた使用人達に笑顔で挨拶をすると、オーリック達を振り返って手を振った。


 「何してんだお前等?」


 「い、今から参ります・・・。

 はぁ・・・仕方ない、皆行こうか」


 オーリックに促され、皆重い足取りで中に入っていく。

 彼等が再度お辞儀をする使用人達に対し、ぎこちない笑みで応えていると、ホール正面にある階段の上から30代中頃の女性と、10代後半程の少女が降りてきた。

 2人が清宏達の前で立ち止まり深々とお辞儀をすると、クリスはその隣に立って清宏達に2人を紹介する。


 「ご紹介します。妻のローズマリーと娘のラベンダーです・・・あれ、ベルガモットはどうかしたのかい?」


 「皆様ようこそおいでくださいました、わたくしはローズマリーと申します。

 主人から話を伺い、娘ともども楽しみにしておりました。今日は是非皆様の貴重なお話をお聞かせいただけら嬉しく思います。

 ベルガモットはちょっと手が離せないからと言って部屋に閉じこもったままです・・・」


 「またか、本当にマイペースな子で困ったものだな・・・申し訳ありませんが、もう1人の娘はまた後程ご紹介いたします。

 ラベンダー、君も皆様にご挨拶なさい」


 ローズマリーの話を聞いて項垂れたクリスは、苦笑しながら自分の後ろに隠れている娘の背中を軽く押した。

 ラベンダーはおずおずと前に出ると、恥ずかしそうにお辞儀をした。


 「あの・・・ラベンダーと・・・申します」


 「それだけかい?清宏殿に会ったら、話したい事が沢山あると言っていたのに・・・」


 ラベンダーはクリスに尋ねられて一瞬だけ清宏を見ると、目が合ってしまい赤面してクリスの後ろに引っ込んでしまった。

 

 「あ、あの・・・は、恥ずかしい・・・です」


 「まいりましたな・・・うちの娘達はどうも極端な性格に育ってしまったようで、親として心配になってしまいます。

 清宏殿、この子は見ての通り引っ込み思案な性格でして、どうかご容赦ください」


 「いえいえ、可愛らしい娘さんで良いじゃないですか。たぶん、うちのアンネとなら仲良くなれそうな感じですね」


 「ははは、親としては嬉しい言葉です!

 さて、料理の準備が整うまでまだ時間がありますので、それまで皆さんのお話をお聞かせいただきたいですな!」

 

 嬉しそうに笑ったクリスに案内され、夕飯までの間は応接間で話をする事になった。

 クリスとローズマリーは清宏やオーリック達の話を聞き、ラベンダーとペインは子供達にねだられてゲームをしている。

 応接間に案内されてから30分程が経った頃、部屋の外からドタバタと騒がしい音が聞こえてきた。


 「何かあったのでしょうか?」


 清宏が首を傾げて尋ねると、クリスとローズマリーは2人揃ってため息をつき、やれやれと首を振った。


 「恐らく、この足音は先程お話したもう1人の娘・・・ベルガモットです」


 クリスが答えたと同時に応接間の扉が音を立てて勢いよく開き、ラベンダーと同じ顔をした少女が肩で息をしながら入ってきた。

 ラベンダーと唯一違うのは、彼女の着ている服が作業着にしか見えないところだろう。

 少女はズカズカと歩いてクリスの隣に立つと豪快に頭を下げた。


 「お待たせしてしまい申し訳ありません!ベルガモットと申します!!」


 「こらベル!もう少し慎みを持ちなさいと何度も言っているだろう!!」


 「お言葉ですが、慎みなんて物は魔道具製作には全くと言って良いほど無意味です!必要なのは技術と経験と熱意ではないですか!?

 良いですかお父様、そんな訳に立たないものについて語るより、今は清宏様です!来られてるんですよね!?どなたですか!!貴方ですか!?それとも貴方ですか!!?あーんもう、一体誰が清宏様なんですか!!!」


 怒るクリスの言葉などどこ吹く風と軽くあしらったベルガモットは、捲し立てるように喋り、食らい付く勢いでその場に居る全員に詰め寄って叫んだ。

 すると、おもむろに清宏が立ち上がりベルガモットを見る。

 

 「私だ」


          !?


  何故かラベンダーにまで詰め寄っていたベルガモットが、立ち上がった清宏を見て驚愕する。


 「貴方だったのですか・・・」


 「また騙されたな」


 「・・・ん?何がですか?」


 キョトンとして素で聞き返すベルガモットを見て、清宏は小さくニヒルな笑みを浮かべた。

 

 「・・・私が清宏だ」


 「あれ?まさかのスルー!?じゃなくて、本当に清宏様ですか?」


 「いかにも清宏だ」


 「それなら、私の質問に答えてください!ドライヤーに使われている魔石の種類と魔術回路に書かれている設定は!?」


 「馬鹿やろう、清宏君は何だって知ってんだぞー・・・使われているのは風と火の魔石、魔術回路は新型を用いて風量と温度調節を書き込んである!さらに言うなら、ドライヤーだけでなく冷蔵庫と扇風機の設計図と製造権、販売権合わせて大金貨2000枚でクリスさんにお譲りした・・・そう、俺がその清宏!!

 俺の上に俺は無し!俺の下にも俺は無し!俺こそが唯一無二の清宏だ!!」


 胸を張って勝ち誇る清宏を見てベルガモットはよろめき、クリスの前で崩れた。


 「お父様、大変ですわ!」


 「う、うん・・・何かな?」


 震えるベルガモットに服を掴まれ、クリスは驚いて聞き返す。

 ベルガモットは何かを我慢するかのように言葉を溜めると、顔を上げて清宏を指差した。


 「この方、私が想像していたのと違ってお馬鹿ですわ!しかも、なんかいかにも本物という体で自身満々なのがイラッと来ましたわ!!」


 「君は何を言っているんだ・・・家族に偽物を招待するはずが無いだろう?」


 「お馬鹿は否定しないんですね・・・」


 「あ、いえ・・・決してそう言うつもりではありません・・・」


 清宏がボソリと呟くとクリスは慌てて否定したが、ニヤニヤと笑う清宏を見て苦笑する。

 なおもクリスにしがみついていたベルガモットは、キッと清宏を睨んで立ち上がった。


 「清宏(仮)様!私は、貴方の本当の実力を見るまで信じません!もし本当に清宏様だとおっしゃるなら、今から私達が見たことも無いような魔道具を造ってみせてください!!」


 「こらベル!失礼が過ぎるだろう!」


 「ベルガモット、貴女は本当に少し自重しなさいな・・・」


 「姉様、うるさいです・・・」


 「ぐぬぬ!お父様だけでは飽き足らず、お母様や妹まで既に味方に引き入れているなんて何と狡猾なの!?でも、私は負けない!この目で見るまで、貴方が本物だなんて認めないったら認めないんだからね!!」


 ローズマリーやラベンダーにまで辛辣な言葉で注意されたベルガモットは、涙目で清宏を睨む。


 「良かろう!その勝負、この清宏(真)が受けて立つ!偽物と疑われたまま逃げる漢ではないというところを見せてやろうじゃないか!!」


 清宏は不敵に笑って立ち上がると、ベルガモットの前に仁王立ちをして宣言した。

 

 

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る