第155話 4つの力

 清宏達は工房に戻ると、すぐにマーサの為の魔道具製作に取り掛かった。

 まず、アルコーがヴァルカンに指示を出しながら土台造りから始めている。

 今回清宏は、装飾の手伝いをしつつ、スキル用の回路を施すコツを習う予定だ。

 ヴァルカンはアルコーから受けた指示に従い、素材を取り出しブレスレットの型に加工する。


 「本当にブレスレットで大丈夫なのか?希少スキルは難しいのだろう?」


 「えぇ、今までの技術だったなら難しいけど、この属性付き魔召石と新型魔術回路があれば、ブレスレット型でも十分機能するわよぉ。

 正直、今までの方法だと魔石の量が多くなければ無理だし、それに伴って回路も増えるわぁ・・・そうなると、まず体内に埋め込む事は不可能だしぃ、装備するにも最低でも鎧の様に大きな物になるのよねぇ・・・それだと、着替えたりする時には外さないといけないし、その間はスキルが発動するから負担になるわぁ。

 ブレスレット型なら、装備したままでも着替えたりお風呂に入る事も可能でしょぉ?それに、反動で傷付いた器を治して身体が成長するようになった時にもサイズの調整が出来るようにしておけば、半永久的に使えるわぁ!その為に、頑丈なオリハルコンとミスリルをふんだんに使用するんだしねぇ!

 ただ、個人的には今回ここに来てからかなりの量を使っちゃったから、どっちも在庫が不安になって来た事ねぇ・・・」


 得意気に答えていたアルコーは、徐々にテンションがガタ落ちし、床に突っ伏して涙目になった。

 清宏は流石に居た堪れなくなったのか、材料を保管している棚からオリハルコンとミスリルのインゴットを持って来てアルコーに差し出した。


 「アルコー様・・・多くは無いですけど、うちはペインのおかげで在庫にちょっとは余裕があるんで差し上げます」


 「あらぁ、そういう意味で言った訳じゃないのよぉ?だから清ちゃんは気にしなくて良いのぉ・・・それよりぃ、私達の作業を見てしっかり学びなさぁい、その方が私達は嬉しいのよぉ」


 「そうだぞ清宏・・・今回は我々の方こそ助かったからな。

 いざとなれば、アルコーには俺の持っている物を譲れば良いんだ・・・武具は魔道具に比べて素材の使用量が多いから、備蓄に余裕はある」


 2人に遠慮され、清宏は申し訳なさそうに素材を棚に戻して大人しく座った。

 ヴァルカンはそれを見て小さく笑い、長年の手荒れとタコでゴツゴツとした太い指で、鎖型のパーツを器用に造りあげていく。

 そして1時間後、ヴァルカン渾身の作品が出来上がった・・・ブレスレットと言うよりは腕時計に近い見た目ではあるが、それは強度を上げる為に必要であると判断したのだ。

 そしてヴァルカンは、出来上がったばかりのブレスレットをアルコーに渡し、席を譲った。


 「流石に金属加工はお手の物ねぇ、私も頑張らなくっちゃねぇ・・・じゃあ、清ちゃんも隣にいらっしゃぁい!」


 「よろしくお願いします」


 清宏が隣に座ると、アルコーは自前の工具を取り出し、まずは魔召石の型を整える。

 基本、魔石自体は型が不揃いであり、そしてそれから造られる魔召石も型が歪だ・・・型を整える事で回路との接触部を均一化し、見栄えを良くする事で価値も上げられる。

 アルコーは、魔石研磨用の数種類の特殊なヤスリを使って魔召石を真円状の宝石のように磨き上げていく。


 「俺、今まではあまり魔石の加工ってしてなかったんですけど、やっぱり性能に差が出ますか?」


 「うーん・・・研磨すれば魔力を効率良く回路に伝達出来るようになるけどぉ、性能そのものは魔石を削って小さくする分変わらないわよぉ。

 ただ、やっぱり魔道具って武具とは違って見た目も重視されるからぁ、少しでも良くするのは大切ねぇ」


 「魔石研磨用のヤスリって結構高いんですよねぇ・・・お金には余裕はありますけど、俺は趣味で製作してるって感じなので、買って良いものか悩むんですよ」


 清宏が苦笑混じりに呟くと、アルコーは作業を中断していくつかの道具を取り出した。

 清宏はそれを受け取ると、何の道具か解らずに首を傾げている。


 「それは私の予備なんだけどぉ、清ちゃんにあげるわぁ!」


 「いや、何に使うか解らないんですが・・・何かの皮と骨ですか?」


 「ヤスリが無いなら造れば良いじゃなぁい?

 それは竜の皮と骨なんだけどぉ、魔石の加工で出た削りカスを研磨剤と混ぜて接着すればぁ、自分だけの物が造れるわよぉ!

 市販の物は専用の素材を使用してるとか言ってるけどぉ、痒い所に手が届かないのよねぇ・・・私から言わせて貰えば、市販品は無駄でしかないわぁ。

 自分で使う物なら使い易さが大事よねぇ、だったら尚更自作した方が使い易いし節約にもなるのよぉ!造り方はあとから教えてあげるわねぇ!」


 「おぉ、流石は職人・・・カッケェ!」


 アルコーは、清宏に羨望の目で見られて嬉しそうに微笑むと、作業に戻る・・・ヴァルカンも自作しているのか、しきりに頷いている。

 経験豊かな2人は、違いの分かる兄妹なのだ。

 

 「さて、魔召石は完成よぉ!次はいよいよ土台の魔術回路ねぇ!では清ちゃん、スキル用の魔術回路を施すうえで必要なものって何かしらぁ?」


 「うーん・・・色と魔石の関係性が重要なのは間違い無いとして、あとはスキルの理解と知識ですかね?」


 「概ね正解よぉ・・・でも、それだけじゃダメねぇ」


 アルコーは清宏の答えを聞いて苦笑すると、小さく咳払いをして居住まいを正した。


 「本来、自分が持っていないスキルを正確に理解する事は出来ないわよねぇ?例え所有者から説明を受けたとしても、言葉で伝わる事なんて多くはないし、その人の主観も入るから正確とは言えないのよぉ・・・。

 良いかしらぁ?スキル用の魔術回路を施すうえで必要なのは主に4つの力・・・観察力、理解力、想像力、表現力なのぉ。

 スキル所有者を余すところなく観察し、スキルの効果を正確に理解し、スキルの性能とそれに対する対策を想像し、それらを回路として完璧に表現する・・・これら全てが揃って初めてスキル用の魔道具が完成するわぁ。

 スキルと魂は密接な関係があるからぁ、仮に4つの内1つでも欠けていたら、起動しないどころか悪化してしまう事もあるわねぇ・・・」


 真面目な表情で語ったアルコーを見て、清宏は唸って俯いた。


 「それは確かに難しいですね・・・中でも、俺は理解力と想像力が特に困難だと思いますよ」


 「俺もその2つで行き詰まった・・・他人のスキルを正確に理解し、その性能と効果を想像して対策するというのが、俺にはどうしても出来なかったのだ・・・どうだ、努力うんぬんでは無いだろう?」


 ヴァルカンに聞かれ、清宏は首を振って顔を上げる。


 「いえ・・・恐らく、それはアルコー様も産まれ持った才能という訳では無いと思うんです。

 アルコー様とヴァルカン様や俺では、今まで生きてきた中で見えていたものや感じていたものが違っていたんだと思います・・・その違いが、アルコー様の理解力と想像力が豊かになった要因なんでしょうね。

 後からでも理解力と想像力は鍛える事が可能だと聞いたことがあります・・・ただ、幼少期から自然と鍛えられていたアルコー様とは違い、ヴァルカン様と俺みたいに大人になってからでは困難だと思いますね・・・」


 2人が唸っていると、アルコーはそれを見て手を叩いて優しく笑った。


 「別に、今出来なかったとしても良いでしょぉ?鍛えられるなら、これから出来る可能性はあるんだし、もし出来なかったとしても経験は詰めるわよぉ!さて、早いとこ魔道具を完成させて、マーサちゃんにプレゼントしないとねぇ!!」


 アルコーは腕まくりをして2人に笑いかけ、作業を再開する。

 2人は、その作業が終わるまで食い入る様に見続けていた。

 

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