第152話 清宏の脱童貞疑惑②
アルトリウス達に服を着せられ、広間に用意された椅子に座らされた清宏は、真っ白になったまま動こうとしない。
隣に座らされたアルコーは、ただニコニコと笑いながら今の状況を楽しんでいるようだ。
現在広間に集まっているのは、当事者である2人の他に、リリス・ヴァルカン・アルトリウス・ペインの4人だ・・・まだ起床時間には早いため、引き篭もったアンネと、朝食の準備をしているレイス以外の者達は皆、まだ夢の中にいる。
「まったく、やらかしてくれたなアルコー・・・お主は何がしたかったんじゃ?」
項垂れたまま動かない清宏を見てため息をついたリリスは、仕方なくアルコーに尋ねる。
アルコーは首を傾げると、清宏を見て笑った。
「だって、気に入った子が居たら手を出したくなるでしょう?清ちゃんは良い子だし、欲しくなっちゃったのよねぇ・・・それが理由じゃダメかしらぁ?」
「説明になっとらんわ!それにしても、清宏も清宏じゃぞ!何故寝込みを襲われて気付かんかったんじゃ!?」
リリスに責められてもなお、清宏は項垂れたまま呆然としている。
すると、それに業を煮やしたペインが肩を掴んで揺さぶり始めた。
「清宏よ、何も言わぬのでは解らぬのであるぞ!アルコーは我輩の友の子・・・我輩にとっては娘同然である!それが貴様と褥を共にしたとなれば、親代りである我輩には知る権利があるのではないか!?」
「あのねぇ・・・何度でも言うけど、貴女を親と思った事なんて一度たりとも無いわよぉ?それに、私や清ちゃんだって良い歳した大人なんだから、いちいち文句言われる筋合いは無いわよぉ」
「それとこれとは話が別である!我輩の気持ちの問題なのであるぞ!!」
「やめろペイン・・・清宏は悪くない」
ペインは興奮冷めやらぬまま清宏を問い詰めようとしたが、ヴァルカンに腕を掴まれて引き下がった。
ヴァルカンは清宏の頭を軽く撫でて苦笑すると、アルコーを睨み付けた・・・その眼差しには怒りと殺気が色濃く浮かんでいる。
「アルコー・・・貴様、一服盛ったな?」
「あらぁ、バレちゃったぁ?そうよぉ、昨夜清ちゃんが余所見をしてる間にちょっとだけねぇ・・・まさか、あれ程効くとは思ってなかったけどねぇ」
「何と馬鹿な事を・・・貴様、清宏に借りがある事を忘れたか!!」
「ヴァルカン、やめるのじゃ!!」
ヴァルカンが目にも留まらぬ速さで取り出した剣を抜き、アルコーの喉元に突きつけたのを見て、リリスが慌てて間に入った。
ペインとアルトリウスは、リリスの急な行動に反応が遅れてしまったが、無事である事を確認して安堵の表情を浮かべた。
「私だって、清ちゃんへの借りを忘れた訳じゃないわよぉ・・・ただ、それとこれとは話が別なのよねぇ」
「内容次第では、いくら貴様とて斬り捨てるぞ」
「だからやめろと言っとるんじゃ!ここは妾の城じゃぞ、この城での命の取り合いは御法度じゃ!!それに、妾は血を分けた兄妹同士で争うのを見とう無いんじゃ・・・」
リリスは険悪な2人を仲裁すべく必死に飛び跳ねているが、まったく相手にされていない。
2人がしばらく睨み合いを続けていると、広間の片隅にある扉が開き、ビッチーズの1人が目をこすりながら顔を覗かせた。
「うるさいなぁ・・・何騒いでるんですかぁ?私達はまだ寝てる時間なんで、静かにしてくださいよぉ・・・」
「お、おぉ・・・騒がしくてすまんかったな!揉め事があったゆえ、少々気が立っておったんじゃ」
リリスが申し訳なさそうに説明をしていると、項垂れていた清宏が顔を上げて、寝ぼけ眼で不機嫌そうにしているサキュバスを見た。
今まで死んだ魚のような目をしていた清宏は、水を得たかのようにサキュバスに駆け寄り、肩を掴んだ。
「おい、俺はまだ童貞か!?今朝起きたら何故か全裸で寝てて、隣にアルコー様が居たんだ!お前達なら、俺がヤッたかどうか解るんじゃないか!?」
清宏に詰め寄られたサキュバスは、意外にも頬を赤らめて目を逸らした。
「清宏様、近いですって・・・大丈夫です、清宏様はまだ童貞ですよ」
「あぁ・・・俺は許された!神よ、感謝します!!」
「そんなに必死になるくらいなら、さっさと捨てりゃあ良いと思いますけど・・・本当、我慢は毒ですよ?私で良ければいつでもOKですよ?」
「いや・・・すまないが、それは出来ない。
この際、俺は30歳までは童貞を守って魔法使いになれるか検証するんだ!」
活き活きとし始めた清宏は、サキュバスに抱き着いて礼を言うと、アルコーの前に仁王立ちをする・・・抱き着かれたサキュバスは嬉しそうにガッツポーズをすると、大人しく部屋に戻って行った。
清宏に睨まれると、アルコーはあからさまに動揺して椅子に座ったままもじもじとし始めた。
「さぁて・・・どういう事かにゃあ?」
「あはは・・・意外と早くバレちゃったわねぇ・・・サキュバスには童貞かどうか解るって忘れてたわぁ」
「何故あんな嘘をついた?」
ヴァルカンは、青くなっているアルコーを睨み付けたまま腕を組んで問いただす。
他の者たちも皆アルコーを睨んでいる。
「挑戦したかったのよぉ・・・」
「何にですかねえ?」
清宏は笑顔でアルコーを見下ろし説明を待っているが、醸し出すオーラは明らかに怒っている。
「貴方が使ってる魔道具はねぇ、以前私がリリスの父親に頼まれて造った物なのよぉ・・・やっぱり、造ったからには性能を確認したかったんだけどぉ、なかなか機会が無くてねぇ」
「それで俺ですか・・・本当、何やってんだあんたは!?」
清宏に怒鳴られ、アルコーは初めて肩をすくめて俯いた。
ヴァルカンは彼女の前にしゃがむと、その表情を見て驚いた・・・涙を浮かべていたのだ。
「何故あんな嘘をついた・・・正直に話せ」
「悔しかったのよぉ・・・だって、まったく反応しなかったのよぉ!?そりゃあ私だって経験はそれなりに豊富だしぃ、自信もあったのよぉ!それなのに、私がどんなに手を尽くしてもピクリともしないなんて、女としてショックだったのよぉ!!
私だって、最初は『これだけの性能の物を造れるなんて、やっぱり私って天才だわぁ!』って喜んだけど、いざ味見しようと思ったら、まったく反応しないとか女としての自信が傷ついたのよぉ!!」
アルコーが泣き叫ぶと、広間に沈黙が流れる。
目の前に居た清宏とヴァルカンは元より、リリスやペイン、アルトリウスまでもが居た堪れない表情で彼女を見ていた。
「アルコー様、俺が言うのもなんですが・・・味見目的だったなら、魔道具を解除したら良かったのでは?」
「そんなの、職人としての誇りも傷付くじゃないのぉ!私は、自分の造った魔道具を超えて、さらに良い物を造りたいのよぉ!清ちゃんは、私に恥の上塗りをしろって言うのかしらぁ!?」
「どっちにしても傷付いてるんじゃないですかね・・・」
「そうよぉ!だから、清ちゃんは責任をとって私のものになりなさぁい!!」
「転んでもタダじゃ起きねぇなこの人・・・」
「すまんな、後は貴様の好きなようにしてくれ・・・俺には付き合いきれん」
呆れ果てたヴァルカンに清宏は何も言わずに頷くと、アルコーをツクダの部屋に叩き込んだ。
彼女はツクダに全身を余すとこなく這い回られ、部屋から出て来た時には御満悦の表情だった・・・恐らく、不完全燃焼だったものが解消されたのだろう。
そして、清宏のアルコーへの制裁が終わった後、リリス達には地獄が待っていた・・・特に、完全に清宏を疑っていたペインに至っては手加減無しの制裁が加えられ、しばらくの間悪夢にうなされる日々を送る事になった。
リリス達は、根拠もなく人を疑ってはいけないと痛いほど学び、清宏に土下座した後、アンネのご機嫌取りをする羽目になり最後は皆ゲッソリとしていたのは言うまでもない。
その一部始終を見ていたアルコーは『もう二度と清ちゃんを揶揄ったりしないわぁ・・・』と真顔で語ったという・・・。
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