第142話 対策②

 清宏が皆に意見を求めると、ウィルが真っ先に手を挙げた。


 「意見と言うか質問なんですが、マーサさんには周りがどのように見えているんでしょうか?」


 「全方位が見えているみたいよ」


 ウィルの質問にラフタリアが答えると、清宏が席を立ってマーサの頭の後ろに手を伸ばした。


 「マーサ・・・俺は今、指を何本立てているかわかるか?」


 清宏が尋ねると、マーサは頬を膨らませた。


 「清宏ちゃんはいじわるなのー・・・頭の中では3本って考えてるのに、1本しか立ててないのよー」


 「へぇ、マジで見えてんだな・・・」


 「意地が悪いぞ清宏!」


 清宏が感心していると、隣にいたリリスが小突いた・・・清宏はムッとし、お返しに拳骨を食らわせる。


 「意地悪でやってんじゃねーよ馬鹿!俺の心と真後ろがちゃんと見えてるか確認しただけじゃねーか!」


 「ぐぬぬ・・・それならそうと、先に言っておいて欲しいのじゃ!」


 「言われなくても解るだろーが!お前以外は皆んな解ってんぞ!!」


 清宏が指差すと全員が申し訳なさそうに頷き、リリスはそのままいじけてしまった。


 「馬鹿は放って置いて話を続けよう・・・」


 「清宏さん、全方位が見える状態で意識が明確になるのって大丈夫なんでしょうか・・・」


 「ん?何でだ?」


 再度質問をしたウィルを見て、清宏は首を傾げた。

 ウィルは遠慮がちにマーサを見ると、思った事を話し始めた。


 「いえ・・・だって僕達健常者であっても、見える範囲は正面だけなんですよ?それだけでも全ての視覚情報を正確に捉えるのは難しいのに、本来目が見えていないはずのマーサさんの意識が明確になった時、全方位の情報を整理出来るのかって思うんです・・・」


 「じゃあ、視野を狭めた方が良いのかな?」


 「術式は難しくなるでしょうけど、僕は負担を考えるとそれが良いと思うんですよ」


 ウィルは、シスの意見を聞いて頷きながら清宏を見る。

 だが、清宏は腕を組んで首を振った。


 「いや、むしろ俺は今のままで良いと思う」


 「何故でしょうか・・・私もウィル様の意見は悪くないと思うのですが」


 アンネに尋ねられ、清宏は苦笑する。


 「いや、確かにウィルの意見は悪くないぞ?それは俺も認めるし、実際普通ならそうすべきだとは思う・・・だがな、マーサはエルフだぞ?ラフタリアが産まれる前から今の状態なんだ・・・何百年と今の状態なのに、それが急に視野が狭くなっちまうと、それこそ混乱するんじゃないか?

 元々目が見えていなかったマーサは、スキルが発現して初めて世界を見た・・・マーサにとって、全方位が見えるのが普通の状態だとすれば、俺はこのままがベストだと思う」


 「確かに、我輩も清宏の言う通りだと思うのである・・・マーサがいくら夢の中と思い込んでいたとしても、実際にはずっと今の状態で生活していたのであるからな」


 ペインは清宏の意見に賛同し、ラフタリアも頷いた。


 「まぁ、実際には魔道具が出来て使ってみないとわからないからな・・・俺としては、最初から全てを詰め込むより、ある程度余裕を持たせて後々改良した方が都合が良い・・・最初からあまり詰め込み過ぎると、本来の目的である読心効果の除去にも影響が出るかも知れないしな」


 清宏は話を締めると、軽くウィルの肩を叩いた・・・意見を出してくれたウィルを労ったのだろう。


 「さて、次は・・・あまり考えたくはないが、スキルそのものを阻害する場合なんだが、これについては俺の考えを聞いてから意見を出して欲しい」


 清宏は全員が頷いたのを見て椅子から立ち上がった。


 「俺の居た世界にはスキルなんて便利な物は無くてな・・・盲目の人なんかは白い杖で周囲を確認したり、点字ブロックの上を歩くってのが一般的だったんだ。

 だが、俺が以前偶然見た情報で、音の反響を利用して周囲の物を知覚する方法がある事を知った。

 それはエコーロケーション・・・反響定位というものなんだが、舌打ちなどでクリック音を出して、視覚以外の感覚を頼りに周囲の世界を知覚し、それを内的に地図化した世界のなかを自在に動きまわるという技術なんだ。

 視覚障害者は皆、精度の高いものも低いものも含めて、様々な方法でエコーロケーションを活用して来たと言われている・・・マーサも、スキルが発現する前には使えていた可能性があるんじゃないか?

 エコーロケーションは人に教えられるらしいんだが、俺自身は詳しく調べたわけではないし、出来るわけでもない・・・だから手助け程度しか出来ないが、もしもの時には皆で協力したらどうだろう?」

 

 清宏が話し終えると、皆は優しく笑って頷いた。


 「そのような技術があろうとはな・・・人の可能性とは計り知れないものであるなぁ。

 なに・・・マーサはエルフであるし、時間はまだまだあるのである。

 いざとなれば、我輩も喜んで協力するのであるよ・・・それもまた、里の者達への恩返しとなろう」


 ペインはしみじみと頷いている。


 「乗り掛かった船だし、俺も生きてるうちは協力してやるよ・・・言い出しっぺだからな。

 言わなきゃ良かったかな・・・マーサが出来るようになるまで何年かかる事やら」


 「逃がさないわよ?言質はとったからね?」


 「了解・・・お手柔らかにな。

 さてと、どういった魔道具にするかはヴァルカン達の意見を聞いた方が良さそうだし、今日はこのくらいで良いかな?俺は今から別件の対策を考えるよ・・・」


 ラフタリアに釘を刺された清宏は、席を立って大きなため息をついた。

 それに対して皆が首を傾げたのを見て、清宏はアルトリウスで遊んでいるアリーを指差した。


 「いくらペインが安心しろと言っても、ヴァルカン達に対して何も対策しない訳にはいかないからな・・・俺達はまだ平気だし、オスカーはどうせのらりくらりと逃げ回るだろうが、アリーは身を守る手段が必要になるかもしれん。

 今からあいつに自衛手段を教え込む・・・付け焼き刃でも、無いよりゃマシだろう。

 だが一番の問題は、あいつが大人しく聞いてくれるかなんだよな・・・遊び以外に興味ねーしな、あいつは・・・」


 清宏はもう一度大きなため息をつくと、見るからに肩を落として歩いて行った。

 

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