第143話 暴君

 『ピンポンパンポーン』


 侵入者達が探索している城内に、奇妙な音が鳴り響く・・・聞いていた者達が皆立ち止まり、首を傾げた。


 『風雲リリス城にお住まいのアンネロッテ様、アリーちゃんというアルラウネのお子様が大変荒ぶっておいでです・・・既に数名の犠牲者が出ておりますので、可及的速やかに広間へお越しください』


 「何だ?」


 『ピンポンパンポーン』


 「?」


 侵入者達は訳がわからず立ち尽くしている。

 近くの隠し部屋に居たグレンとレティも、訳がわからず広間がある上の方を見ながら首を傾げた。


 「今のってダンナの声だったよな?」


 「だよねー・・・何かあったのかな?」


 「直接の呼び出しじゃねーし、俺達には関係無いだろ・・・たぶん、今戻ったら面倒な事に巻き込まれるぞ?」


 「ご褒美以外では遠慮したいかなー」


 先程まで侵入者達の相手をしていた2人は、隠し部屋の外に聞こえないよう小さな声で会話をしている。

 

 「アンネって、さっき仕事を始めたばっかりなのに大変だよねー・・・」


 「まぁ仕方ねーさ・・・なんたってちびっ子のママさんだからな」


 2人は苦笑し、もう一度広間の方を見る・・・その時広間では、アリーにより2人が予想している以上の大惨事が起きていた・・・。


 「おいアッシュ!そっちに行ったぞ!!」


 「わかってんよ!!ほれ、捕まえ・・・!!?」


 「アッシュー!!?」


 清宏の指示に従っていたアッシュが、股間を押さえて崩れ落ちる・・・猛烈な勢いで走って来たアリーの頭突きが、股間に命中したのだ。


 「くそっ・・・お前まで犠牲になるなんて!」


 清宏はアッシュを抱きおこし、ポーションを飲ませて項垂れる・・・すると、ラフタリアが駆け寄ってアッシュの口に何かを詰め込んだ。


 「くっせーーーーーーーーー!!!!!?」


 「流石は納豆ね!効果覿面だわ!!」


 アッシュはそのまま白目を剥いて気絶してしまった。


 「全然意味無えじゃねーか!勿体ねー事すんな馬鹿!」


 「ごめん・・・てか、どうすんのよあれ!アリーって本当にアルラウネなの!?」


 申し訳なさそうに謝ったラフタリアは、蔦を使って広間の天井や壁を縦横無尽に逃げ回るアリーを見て青くなっていた・・・。

 広間の床には、アリーを捕獲しようと試みたリリス・ペイン・ウィル・シスが力尽きて横たわっている・・・今はアルトリウスが懸命に追ってはいるが、アリーは笑いながら逃げ続けている状況だ。

 マーサはオスカーと遊んでいるため、我関せずを貫いている。


 「ねぇ、私思ったんだけどさ・・・この人数で捕まえられないなら、大丈夫なんじゃないの?」


 「俺もそんな気がしてきた・・・だが、自衛手段は有った方が良いだろ?それに、これから先も絶対に必要だ・・・なら、今のうちに教えとかなきゃ駄目だ。

 それにしても、何だあの動き・・・スパイダーマンかよ・・・キノコ狩りの男のスタンドでもついてんのか?」


 「でもどうすんの?マジで捕まらないわよ?あ・・・アルトリウスも力尽きた・・・」


 「アルトリウスーーーーー!!?くそっ、まだか!?アンネーーー!早く来てくれーーーー!!」


 床に大の字に倒れ込んだアルトリウスを抱き起こし、清宏が叫んだ・・・すると、広間の扉が勢いよく開き、アンネが飛び込んで来た。


 「清宏様、どうかなさいましたか!?」


 アンネは息を切らしながら清宏に駆け寄り、倒れている皆を見て息を飲んだ。


 「アンネ・・・アリーを捕まえてくれ・・・俺達じゃ無理だ・・・」


 清宏が涙目でアンネに頼み込むと、アンネは力強く頷いてアリーを見た。

 アンネは胸元から小さな魔石を取り出し、アリーに見えるように手で持った。


 「アリー降りてらっしゃーい、おやつの時間ですよー!」


 「んーっ!!」


 アンネの言葉に反応したアリーは目を輝かせると、蔦をアンネの手に巻き付けて飛び付いた。

 アンネはアリーを抱き上げ、魔石を食べさせて頭を撫でる。


 「アリーはおやつで釣るのが一番なんです」


 「いや、俺達も散々試したんだけどね・・・やっぱママか!?ママじゃなきゃ駄目なのか!!?」

 

 「マ・・・ママじゃありません!!」


 アンネは清宏の言葉に赤面すると、アリーを抱いたまま広間を出て行ってしまった・・・。

 

 「あ・・・」


 「振り出しに戻ったわね・・・どうすんのよあれ・・・」


 清宏が、逃げてしまったアンネを何とか説得し、アリーに縄をつけて訓練を開始出来たのは、結局昼を大幅に過ぎた頃だった・・・

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