第141話 対策①

 空が白み始め、窓から優しい光が差し込む中、広間の一室の扉が勢いよく開いた。


 「皆の者おはようなのじゃ!!って居らん!?」


 笑顔で自室から出て来たリリスは、広間に誰も居ないのを見て目を丸くした。

 いつもならば、誰かしら起きてテーブルの準備をしている時間なのだが、今日に限って誰も見当たらない。


 「リリス様、おはようございます」


 「おぉ、アルトリウスか!お主は誰とも会っておらんか?見ての通り、まだ誰も広間に居らんのじゃが・・・」


 アルトリウスが厨房から出て来たのを見て、リリスは首を傾げた。


 「はい・・・厨房にはレイス殿しか居りませんでした。

 ペインはまだ寝ているようでしたが、アンネも自室には居ないようですし、他の者達の部屋も確認して参りましょうか」


 「それが良いかもしれんな・・・」


 2人は手分けして皆の部屋を見て回るが、誰一人として見当たらない。

 すると、広間に繋がるバルコニーの扉が開き、アッシュが入って来た。


 「うぃーっす・・・ん?何してんだ?」


 「おぉ、アッシュではないか!今日も外で寝ておったのか?」


 「そっすね、走った後は木の上で寝てたっすよ。

 で、何してんだよアルトリウス?」


 「いや、皆が何処にも見当たらないのでな・・・」


 アッシュはリリスに頭を下げてアルトリウスに話を聞くと、広間の匂いを嗅いで工房を指差した。


 「なんか、工房からやたら大勢の匂いがするんだが?」


 アッシュに言われ、リリスは工房に向かう。


 「清宏のところか・・・いや、入りきらんじゃろ流石に・・・何と!?」


 「何とまぁ・・・アンネまで一緒とは」


 3人は工房の扉を開けて驚愕した。

 工房の床は、所狭しと寝ているビッチーズやアンネ、リリなどで埋め尽くされていた。


 「何があったんじゃ一体・・・清宏説明せ・・・清宏!?」


 寝ている者達を避けつつ、呆れながら清宏に近づいたリリスは目を疑った。

 机に向かっていた清宏は、頭の上のオスカーに瞼を引っ張られ、目を開けた状態で寝ていた。


 「オスカー!清宏様から離れんか!!」


 「オスカーの奴ヤベーな・・・俺なら怖くて出来ねーわ」


 「清宏!清宏!しっかりするんじゃ!!」


 アルトリウスがオスカーを引っぺがし、リリスがビンタをすると、清宏が目を覚ました・・・目が充血して真っ赤になっている。


 「おぉ、お前等か・・・危うくニルヴァーナに達するところだったわ。

 カート・コバーンがスメルズ・ライク・ティーン・スピリットを熱唱してたんだよ・・・」


 「な、何を言っておるんじゃお主は・・・」


 「すまん、茶を一杯くれ・・・」


 清宏は、アルトリウスからお茶を受け取ると、一気に飲み干して両手で頬を叩いた。


 「あ゛ー目が覚めた・・・すまんなお前等」


 「この状況は一体何があったのですか?」


 アルトリウスに尋ねられ、清宏は乾いた笑いを漏らす。


 「俺の心配をして来てくれたみたいなんだが、ローエン達とビッチーズは酒盛りをして酔い潰れた。

 アンネとリリは、夜中に来てしばらく話したら寝ちまったよ・・・さて、皆んな起こして飯にするか」


 「そんな面白そうな事をやっとったなら、妾も呼べば良いものを・・・」


 「お前はお子ちゃまだから、すぐに寝ちまうだろ?ほれ、さっさと準備して飯にするぞ」


 清宏達は4人がかりで皆を起こすと、昨夜の白ごはんで焼きおにぎりを作り、味噌汁を温めなおして軽めの朝食を摂った。


 「さてと、今日も一日頑張って行くぞー。

 んじゃまぁリリス・ペイン・シス・ウィル・アンネ・レイス・ラフタリア・マーサはちょっと集まってくれ」


 朝食の片付けを済ませ、清宏は名前を呼んだ者達に席を勧める。


 「清宏様・・・私は罠の確認がありますので、後程でもよろしいでしょうか?」


 「ん?あぁ、ならお前にはまた後で話すよ」


 「申し訳ございません・・・では、終わりましたら伺います」


 レイスは清宏に頭を下げ、広間を出て行った。


 「これって何の集まり?」


 「いや、魔道具について話したいんだよ」


 「何の?」


 「お前の母ちゃんの」


 清宏が何げなく答えると、ラフタリアは徐々に理解してキョロキョロと周囲を見渡した。


 「いや、落ち着けよ・・・」


 「だって・・・造れるの?てか、何で!?」


 「ペインに頼まれたんだよ・・・何とかしてやって欲しいってさ。まぁ、出来るかどうかはわからんが、努力はするつもりだ」


 清宏が答えると、ラフタリアは涙ぐんで俯いた・・・強がってはいたが、やはり母親にちゃんと見て欲しいと思っていたのだろう。


 「正直、現状俺だけでは無理だが、幸いにも近々鍛治や道具製作に長けたヴァルカンとアルコーとか言う魔王も来るらしいしな・・・俺も後学の為に造りたいと思っている・・・まぁ、お前の母ちゃんには世話になったし、俺としてもやるからには全力でやってやるよ」


 「ありがとう・・・」


 感極まって涙を流したラフタリアに、ペインが笑いかける。


 「泣く必要は無いであろう?それに、まだ出来るかどうかもわかっておらぬのである・・・礼を言うなら、完成してからにするのであるよ」


 「うん・・・」


 清宏はラフタリアが落ち着くまで待ち、皆を見た。


 「皆んなに集まって貰ったのは、ヴァルカン達が来る前に色々と纏めておきたかったからだ。

 まずは、スキルについての根本的なおさらいをしよう・・・リリス、スキルはどの様にして習得する?」


 「ふむ、まぁ一番多いのは、やはり練度を上げて得る事じゃな・・・これは才能もあるが、基本誰でも習得出来る。

 次に、他のスキルを習得する事で派生する物もあるが、これは広く知られ、派生する事を前提に習得する場合と、お主の時の様に取得方法が秘匿されていて偶然発現する物の場合じゃな・・・レアなスキルなどは主に後者に多い。

 後は、ルミネの予知やマーサの真実の眼のように、ある日突然発現する物じゃ・・・神からの贈り物などと言われる事もあるが、正直何がいつ発現するかわからんから、最も扱いが困難じゃ」


 「お前が俺にダンジョンマスターをくれたのは、どういう位置付けなんだ?」


 「あぁ、あれはギフトと言って、王たる者のみが発現する特殊なスキルじゃな・・・以前にも話したが、最も忠誠心の高い配下に自身のスキルを一つだけ与える事が出来るのじゃよ」


 ウィル・シス・アンネの3人は、メモを取りながら話を聞いている。


 「んじゃまぁ次の質問な・・・正直、こいつが一番重要だ・・・一度発現したスキルは、自分や他人の意思で消せるのか?」


 清宏に尋ねられ、リリスはため息をつきつつ首を振った。


 「それは無理じゃな・・・反動は魂に直接起こると言ったと思うが、それはスキルが魂に定着するからじゃ。

 本来、一度魂に刻まれたスキルは譲ったり消す事など出来ん・・・それを一度だけ可能にする為のスキルがギフトなんじゃ。

 お主のトラップマスターや、ルミネの予知のように自分で使用するか否かを選択出来るスキルとは違い、マーサの真実の眼は常時発動型じゃから、魂への負担は段違いじゃ・・・消す事が出来ぬゆえ、それをどうにかする魔道具となるとかなり難儀じゃぞ?」


 「そうか・・・ありがとうなリリス。

 さてどうするか・・・一番楽なのは、スキルそのものを阻害する魔道具だな・・・ラフタリアは何か希望とかはあるか?出来る限り頑張るぞ?」

 

 清宏が尋ねると、ラフタリアは口籠もってしまった・・・それを見ていたペインは、マーサの肩に手を置き、清宏を見た。


 「清宏よ、マーサは生まれつき目が見えていないらしいのである・・・今は真実の眼の効果で周りが明確に見えているのであるが、もしスキルを完全に封じてしまえば、マーサには何も見えなくなるのであるよ・・・」


 ペインの言葉を聞き、清宏達は唸った。


 「大丈夫よ清宏・・・スキルの負担が減らせるなら、それも仕方ないから・・・」


 ラフタリアは無理矢理笑顔を作り、マーサを見る。


 「それは却下だ・・・さっきも言ったが、俺は全力を尽くす。

 完全にスキルを封じるのは最終手段としては取っておくが、俺としては絶対にやりたくない」


 「大丈夫なのよー」


 マーサはニコニコと笑っているが、清宏は断固として首を振った。


 「嫌だね!もしラフタリアが結婚して、子供が産まれたらどうする?マーサに我が子を見て貰いたくはないのか?マーサも可愛い孫の顔を見たくはないのか?

 俺なら絶対に見せてやりたいし、見たいと思うがな・・・」


 清宏の言葉を聞いたラフタリアは俯き、マーサも困ったように思案している。

 それを黙って見ていた清宏はため息をつき、手を叩いた。


 「まぁ、お前等は長生きなんだし、この先そういう事もあるだろう・・・なら、最初から諦めんじゃねーよ。

 誰だって自分の幸せを願う権利はあるんだ・・・なら、それに縋っても良いだろう?まだ出来るとは決まってないが、出来ないとも決まってねーんだから、今はまだ夢見てても良いんじゃねーか?

 さてと、んじゃまぁ対策を練ろうか・・・お前等何か意見はあるか?」


 清宏に尋ねると、その場に居た面々が遠慮がちに手を挙げ、それぞれの考えを話し始めた。

 

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