第137話 しばしの別れ

 話し合いを終え、里の者達総出で米などの準備を行い、何とか昼前には全ての食材を揃えられ、いよいよラフタリアとペイン、そしてマーサが出発する事になった。


 「ペイン殿・・・マーサとラフタリアをよろしくお願いいたします。

 ラフタリアも身体には気をつけてくれよ?君はお転婆で冒険者としてもしっかりやっているのだろうけど、私とマーサにとって大事な娘だ・・・いつでも私は君の無事を願っている事を忘れないでくれ」


 「わかってるわよ・・・どの道、母様を連れ帰って来る時には一緒に来るつもりだからすぐに会えるわよ・・・でも、ありがとう・・・気をつけるわ」


 ハミルに抱きしめられたラフタリアは、照れ臭そうにはにかんだ笑顔を見せたが、嬉しそうに抱きしめ返した。


 「ハミルよ・・・急な事であるし、其方が心配する気持ちは当然の事である。

 我輩は、其方の期待を裏切らぬようこの命に代えても2人を無事に送り届けると誓うのである」


 ペインは、ラフタリア達が互いに離れるのを待ってハミルに誓った。

 ハミルは心配そうではあったが、ペインの言葉に力強く頷き頭を下げた。


 「長と里の者達にも大変世話になったのであるな・・・清宏とは別に、後程我輩からも改めて礼をさせて貰うのであるよ」


 ペインがハミルの背後に並んでいた里の住人達に頭を下げると、長のナハルが一歩前に出た。


 「いえいえ、こちらこしょ大したもてなしも出来じゅに申し訳なく思っておりましゅ・・・清宏殿にもよろしくお伝えくだしゃい。

 そういえば、ペイン殿はどのようにしてラフタリアを送って来られたのでしゅかな?」


 ナハルが尋ねると、マーサが走り回らないように手を繋いでいたラフタリアが、何かを思い出したかのように手を挙げた。


 「じじい、あのさ・・・近くに大型の飛竜とかが降りれるような開けた場所ってなかったかしら?

 私が里を出てから結構経つし、森の中にそういった場所が新しく出来たなら教えて欲しいんだけど」


 「しょう言えば、里から北に3時間程進んだ辺りなんじゃが、20年くらい前に手負いの飛竜がやって来て暴れた事があってな・・・其奴を仕留める際に樹々が焼けてしまった場所があるのじゃ。

 そこならば、飛竜が3頭は降りれるくらいの広さじゃと思うぞ・・・それがどうかしたのかの?」


 「あ・・・いや、深い意味は無いんだけどね!」


 ラフタリアは慌てて首を振ったが、里の住人達の視線が突き刺さる。

 皆を心配させまいとペインの正体を黙っていたのだが、うっかりしていたようだ。

 その様子を見ていたペインは大きなため息をついた。


 「ラフタリアよ、いきなりそんな事を聞いては、疑ってくれと言っているようなものなのである。

 貴様は里に着いてから、いつも以上に抜けているのではないか?」


 「ごめん・・・」


 ラフタリアが素直に謝ったのを見て、ペインは苦笑する。

 そして、項垂れて小さくなってしまったラフタリアの頭をマーサが撫でてやった。


 「まぁ良いのである・・・我輩も世話になった手前、里の者達に黙ったままでは気が引けるのであるからな」


 住人達は皆、訳がわからず首を傾げている。

 

 「驚くなと言っても無理であろうが、どうか心配せずに聞いて欲しいのである・・・我輩の真の姿は覇竜である。

 我輩とラフタリアは、西の砂漠を越えた先にある国からやって来たのである」


 その言葉を聞いた瞬間、住人達全員が凍りついた・・・いや、マーサだけは平常運転のようだ。

 おそらくマーサは、ペインに初めて会った時にすでに正体に気付いていたのだろう・・・いや、深く考えていない可能性の方が高いのかもしれない。


 「皆んな、黙っててごめんなさい・・・でも、こいつは決して悪い奴じゃないのよ」


 ラフタリアは皆にフォローをするが、相変わらず皆は凍りついている。


 「ペインちゃんは大丈夫なのよー。

 ペインちゃんはこの世界でも上から数えた方が早いくらい強いから、一緒にいたら安心安全なのー」


 マーサは固まっているハミルの裾を掴んでニコニコと笑った。

 すると、それに気付いたハミルが苦笑してマーサの頭を撫でた。


 「マーサがここまで懐いているんだものな・・・それに、一緒に居るラフタリアも無事なのだし、大丈夫なのでしょう」


 「うむ!大船に乗ったつもりでいて欲しいのであるよ!!」


 ハミルに信じて貰えたペインは嬉しそうに頷き、笑った。

 だが、1人だけ震えている者がいる・・・ナハルだ。


 「わ・・・私は覇竜しゃまに何と恐れ多い事をしてしまったんじゃ・・・たわわなお胸様に冷静さを失い、顔を埋めてしまったのじゃ・・・覇竜しゃま!申し訳ごじゃいましぇんでした!!」


 ヨボヨボで枯れ木の様な身体をしていたはずのナハルなのだが、目にも留まらぬ速さで飛び上がると、ペインの目の前に着地しながら土下座をした・・・見事なジャンピング土下座だ。


 「はっはっは!長よ、気にする事はないのであるぞ!!我輩、最近になって人族と一緒に暮らし始めたのであるが、誰からも女として見られていないのである・・・正直、自信を失っていたのであるよ。

 だが、其方が我輩の胸を恍惚の表情で揉んでいるのを見て、まだ我輩も捨てたものではないと思ったのである!だから気にする事はないのである!!」


 ペインは豪快に笑いながら、ナハルの肩を叩く・・・ナハルの身体が徐々に地面に埋まっているのだが、巻き込まれるのを恐れて誰も助けに入らない。


 「ペイン・・・いくらなんでも、じじいが死ぬわよ・・・」


 「何と!?長ー!!無事であるかー!!?」


 ラフタリアに注意されたペインは、埋まりかけていたナハルを引っこ抜き、慌ててポーションを飲ませた。

 再起不能になりかけたナハルは気絶したままだったが、3人は里の者達に暖かく見送られ、皆に手を振りながら北の広場を目指して歩き出した。

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