第138話 清宏の涙
ラフタリア達3人は里を出た後、関所のある街で食料を調達し、その後はペインが休まずに飛び続けたため、翌日の朝には城の近くの街に着く事が出来、オズウェルト商会でクリスへの伝言を伝える事も出来た。
ペインは、マーサを乗せていたため全力とはいかなかったが、それでも以前宣言した通り1日掛からずに東端付近から帰って来た事になる。
ただ、やはり無理が祟ったのか、ペインは空腹で動けなくなり、街と城との中間地点にある川でしばらく休息を取りつつ、人払いがされる夕方を待った。
「や・・・やっと帰り着いたのである」
「本当にお疲れ様だったわね・・・でも、あんたのおかげで早く帰って来れたわ」
「ペインちゃんお疲れ様なのよー」
侵入者達が居ないのを確認して庭に降り立ったペインは、ぐったりとしながら城内に入る。
ラフタリアとマーサは、ペインに労いの言葉をかけながらついて行く。
先を歩いていたペインが、城内に入って一番近くにあった部屋の扉を開けると、そこは玉座の間に繋がっていた・・・ペイン達の帰還に気付いた清宏が繋げたのだろう。
「戻ったであるぞー・・・」
「たっだいまー!清宏、お米様の到着よ!!」
「お邪魔しますなのよー」
3人が広間に入ると、どこからともなく皆が集まって来る。
「マジでこの短期間で往復したのかよ・・・」
「休む間も無くご主人様の為に働ける幸せ・・・あやかりたいです!」
「いや、あんた達は1人増えてる事を気にしなさいよ・・・」
最初にやって来たのは、グレンとレティ、リリの3人だった。
もはや何があっても驚かない姿勢を見せる2人に対し、リリは呆れてツッコンでいる。
その後ろには、ビッチーズやアンネなど、他の面々の姿も見える・・・清宏とリリスは一番後ろにいるようだ。
ただ、シスだけはマーサに飛び掛る寸前でアルトリウスに捕獲されて床に転がっている。
「よく戻ったのう、今日はゆっくりと休むが良い!」
「おう、お疲れさん!久しぶりの故郷はどうだった?」
「清宏ちゃーん」
皆が道を開け、清宏とリリスが出迎える。
すると、清宏を見たマーサが駆け寄って抱きついた。
清宏は驚いてマーサの顔を見たが、ラフタリアの顔と見比べて首を傾げた。
「お前、まさかツクダみたいに分裂したのか?
やめてくれよな・・・あいつらみたいにどっちもオリジナル主張されたら困るんだよなぁ」
「何で私が分裂すんのよ!?その人は母のマーサよ!!」
「・・・マジ?まさか、エルフって歳をとると縮むのか?」
「縮まないわよ!」
清宏とラフタリアが相変わらずのやり取りをしていると、清宏に抱き着いていたマーサが背伸びをして清宏の頬を両手で挟んだ。
その場に集まっている者達も皆、マーサの行動に注目している。
「ラフちゃんのママでーす。よろしくー」
「ん・・・よろしく・・・てか、何で俺の名前知ってんの?」
マイペースなマーサに困惑した清宏は、苦笑しながら頷いた。
「それにしても随分と幼いのう・・・」
「お前が言うなよ・・・少なくとも、見た目はお前とラフタリアの間くらいだろ?それにラフタリアの母親なら、お前より歳上だろ」
「その辺も含めて、今から説明をするわ・・・私もあんたに聞きたい事があるしね」
物申したそうなラフタリアを見て、清宏がペインに視線を向けると、ペインは真面目な表情で頷いた。
「お前が持って来てくれた食材で夕飯を作りたかったんだがな・・・まぁ良いだろう。
何が聞きたいのかは知らんが、全てに答えられるとは限らないぞ?」
清宏は離れようとしないマーサを脇に抱えると、テーブルと椅子を並べて座った。
マーサは何故か清宏の膝の上に座っている。
「いや、あんたはあっちだろ・・・」
「清宏ちゃんが良いのー」
「えらい懐かれとるの・・・まぁ良いのではないか?」
「ちびっ子はお前とアリーだけで充分なんだがな・・・まぁ良い。で、お前は俺に何が聞きたいんだ?」
清宏が尋ねると、正面に座ったラフタリアが腕を組んで睨みつけた。
「あんた、私に何か隠してない?」
「・・・何が?」
「母様がね、あんたの手紙を見た時に言ってたのよ・・・あんたは家族や友人に会いたくても会えないってね。
召喚されたからって移動出来ない訳でもないんでしょ?なのに、何で会えないの?
ペインは直接あんたに聞けって言って教えてくれないし、どう言う事なのよ・・・」
清宏はため息をつくと、マーサの顔を覗き込んだ。
「お前の質問に答える前に、一つ聞きたい・・・何でお前の母親はそれを知ってるんだ?」
「母様のスキルよ・・・母様は、人の心が読めるのよ・・・それが、手紙だろうと何だろうと、それを書いたり造ったりした者の心を全て把握してしまうの」
ラフタリアの言葉を聞き、清宏の隣に座っていたリリスが慌てて立ち上がった。
「真実の眼を持っておるのか!?」
「えぇ・・・」
「そんなにヤバいスキルなのか?便利そうだけどな・・・」
「スキルには色々とあるが、中でも真実の眼は扱い切れん事で有名なスキルなんじゃ・・・発現したばかりのスキルを使い過ぎた場合、反動が来るのは身を持って知っておるじゃろう?真実の眼は、意思に関係なく常に発動するんじゃ・・・。
先程、ラフタリアが他人の心を見ると言っておったじゃろう?もしお主が他人の悪意などを嫌でも見続ける事になってしまったとしたらどうなる?」
「鬱になるな・・・」
清宏は想像してうんざりとした表情を浮かべた。
「そうじゃろ?常時発動型じゃから必ず反動が来るし、そんなものを見続ければ病んでしまう・・・それは妾をはじめ、魔王ですら同じじゃ」
「そいつはキツいな・・・で、お前の母親はその反動でこんなになっちまったて事か?」
清宏はラフタリアに向き直ると、マーサの頭を撫でた。
マーサは気持ちよさそうに笑っている。
「えぇ・・・母様はスキルの反動で成長が止まり、他人の心を見続ける事に耐えられずに心を閉ざしたのよ」
「そうか・・・それは災難だったな・・・」
「私は話したんだから、あんたにも話して貰うわよ・・・」
ラフタリアは真面目な表情で清宏を見つめたが、清宏は首を振った。
「駄目だ・・・お前には話す訳にはいかない」
「何でよ!?」
「もし聞けば、お前は迷う・・・だから言えない」
「ふざけんじゃないわよ!私が何に迷うっての!?そんなの、聞いてみなきゃわかんないでしょ!!?」
ラフタリアはテーブルを乗り越えて清宏に掴み掛かろうとしたが、マーサが清宏の頭を抱くように庇ったため、踏み止まった。
「ラフちゃんダメなのよー・・・清宏ちゃんは良い子なのー。
清宏ちゃんはねー、いっぱいいっぱい我慢して、皆んなに心配かけないようにって頑張ってるのよー・・・ラフちゃんに教えてくれないのも、ちゃんとラフちゃんを考えてくれてるのー」
マーサは頬を膨らませラフタリアを叱り、清宏の頭を優しく撫でた。
「清宏ちゃんはいつも頑張ってるのー・・・だから、もう我慢しなくて良いのよー。
清宏ちゃんが弱いところを見せても、皆んなはちゃんと解ってくれるのよー・・・皆んな清宏ちゃんの事が大好きだものー」
マーサはニコニコと笑いながら清宏を撫で続ける・・・すると、清宏は急に席を立った。
「すまん・・・ちょっと顔を洗ってくる」
清宏は急いで立ち去ったが、椅子に座らされたマーサの胸元が湿っている・・・それを見たラフタリアは慌てて清宏を追おうとしたが、ペインに腕を掴まれた。
遠巻きに見ていた皆も、清宏を案じているようだ。
「そっとしておいてやるのである・・・」
「何でよ・・・何であいつ泣いてんの!?」
ラフタリアがペインに尋ねると、リリスが深いため息をついた。
「まぁ、納得は出来ぬよな・・・清宏はな、本当にお主を思って黙っとるんじゃよ・・・それだけは理解してやってくれ」
「でも・・・」
「正直、妾もお主は知らない方が良いと思っておるよ・・・お主は普段は荒いが根は優しいからの。
じゃが、それでも聞きたいと言うならば妾が教えてやろう・・・いずれは知る事になるじゃろうからな」
「良いのであるか?」
ペインが心配そうに尋ねると、リリスは小さく頷いた。
「うむ・・・いつまでも黙っておる事に無理があるのも事実じゃからな。
妾達がマーサのスキルの事を知らんかったとは言え、隠している事自体を知られてしまったならば、致し方あるまい・・・清宏は妾が納得させよう」
リリスはラフタリアに向き直ると、少し間を置いて話し始める。
「清宏はな、異世界から召喚されたんじゃよ・・・帰る方法すらわかっておらん状況じゃ。
マーサが言っておった通り、彼奴はずっと我慢しとるんじゃよ・・・家族や友人に会いたいと思っておっても、それが叶わないんじゃからな。
彼奴はな、妾に召喚された時に帰れぬと聞いてなお、手段を探すためにと元凶であるはずの妾を責めず、協力すると言ってくれた・・・まぁ、言葉を濁しておったら脅されたがの。
この場におる者達で、彼奴が帰りたいと泣き言を言っておるのを聞いた者はおるか?彼奴はな、皆を心配させまいと常に気を張っとるんじゃよ・・・」
「おい、バラしてんじゃねーよリリス・・・」
声の聞こえた方を皆が振り向くと、そこには清宏が立っていた・・・泣いてしまった事が恥ずかしいのか、そっぽを向いている。
「清宏・・・ごめん・・・」
ラフタリアは唇を噛み締め、清宏に頭を下げた。
「だから聞くなって言ったんだ・・・お前は、国との交渉が決裂した場合どうするつもりだ?
さっきリリスも言ってたが、お前は優しい・・・それは俺も認める・・・だがな、優し過ぎるんだよ。
お前はこの前、王都から帰って来た時に『こっちの戦力』って言ってたよな?いざとなったら、お前はどちらに付くつもりなんだ?オーリックやルミネ達相手に戦えるのか?」
「それは・・・!」
ラフタリアが口籠ったのを見て、清宏はため息をついた。
「良いかラフタリア、ルミネとジルなら迷わず国に付くと断言するだろう・・・国王に話を通した時点であいつ等と俺達の約束は果たされたからな。
オーリック・リンクス・カリスの3人は少し迷いはするが、やっぱり国に付く事を選ぶだろう・・・あいつ等は義理堅いが、冒険者としての責務を全うする事を選ぶだろうからな・・・だが、お前はどうだ?あいつ等の事も心配だが、うちの奴等の事も気になっている・・・だから迷ってるんじゃないのか?」
「仕方ないじゃない!あいつ等も好きだけど、ここの皆んなも良い奴ばっかだし、楽しいんだもん!!そう思う事はいけない事なの!?」
「悪くはねーよ・・・ありがてー事だ。
でもな、いざという時に苦しむのはお前なんだぞ?
お前は今、俺の過去を知った・・・お前の母親にバラされたからぶっちゃけるが、俺は今でも家族やダチに会いたいと思っている・・・お前は俺の帰りたいって気持ちを邪魔出来るのか?」
「わかんないわよ・・・そんなの・・・」
「だからお前には黙ってたんだよ・・・これに懲りたらあんまり人の過去に首を突っ込むなよ?
正直、俺だってお前やオーリック達とはやり合いたくないんだよ・・・皆んな良い奴だからな。
だけどな、うまく行かなきゃやり合わにゃならん・・・そうなったら、お前は迷わずあいつ等に付いてやれよ?うちはリリスさえ無事なら問題ねーし、ローエン達やビッチーズ、アンネなんかは逃がしゃ良いだけだからな。
お前はあいつ等と一緒に居てやれよ・・・あいつ等は昔仲間を亡くしてるんだろ?袂を分かってお前に何かあったら、あいつ等悲しむぞ?」
「うん・・・ありがと・・・ルミネのお姉さんの事知ってたのね・・・」
「ルミネから聞いたよ・・・お前も友達だったんだろ?」
清宏は泣き出してしまったラフタリアに近付くと、頭を優しく撫でてやる。
すると、椅子に座っていたマーサが立ち上がり、お腹をさすって清宏を見た。
「お腹空いたー・・・」
「おい、お前の母ちゃんマイペース過ぎんぞ・・・」
「ふふっ・・・ごめん、なんか気が抜けるわね」
ラフタリアは涙を拭うと、笑いながら立ち上がっる。
「ほら清宏、早く何か作ってよ!せっかくだし、持って来た食材で作って欲しいわ!!」
「へいへい・・・皆んなに泣き顔見られるわこき使われるわ散々だな今日は」
清宏は面倒臭そうに食材を受け取ると、頭を掻きながら厨房に歩いて行った。
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