第127話 魔法ってどうなってんの?

 ラフタリアとペインを送り出した清宏は、水晶盤の前でいつも通りの仕事をこなしつつ、隣にテーブルを持って来て何やら作業をしている。

  現在広間に居るのは清宏を含めて4人と1匹・・・特にやるべき仕事の無いリリスとアルトリウス、それと2人で遊んでいるアリーとオスカーだ。


 「調子に乗って造ったは良いが、いざ解体するとなると面倒だな・・・」


 清宏はアイテムボックスから剣やナイフを取り出してテーブルに並べると、その中から一振りの剣を手に取って魔石や装飾を外し、元の金属の塊へと変えていく。

 解体は造る時と同じく手の平に魔力を集める事で可能だが、一つだけ難点がある・・・それは、一度魔力を込めて作製された物を元の形に戻す為には、より多くの魔力が必要となるのだ。

 一つの素材から造られた物であれば魔力の消費量は少ないのだが、使われている素材が多ければ多いほど別々にしなければならないため、格段に消費量が増えていくのだ。

 さらには解体するのは自分で製作した物に限られ、多大な魔力を消費して相当数の解体を行わなければならない・・・それが解体者と言うスキルが習得困難である理由だ。

 清宏が額に汗を流しながら作業をしていると、アリーの隙をついて逃げたアルトリウスが近づいて来た。


 「せっかく造られたというのに、解体されるのですか?」


 「あぁ、こいつらは世に出しちゃならんみたいだからな・・・それより、あっちは良いのか?」


 清宏は首だけをアルトリウスに向けて苦笑すると、額の汗を拭った。


 「えぇ、流石にアリーの相手は疲れました・・・まだ戦っている方が楽に感じます」


 「まぁ、子供の体力は無尽蔵かと思えるくらいパワフルだしな・・・」

 

 ウンザリしているアルトリウスを見て清宏は笑い、作業に戻る。


 「それらに何か不具合でも?」


 「いや、不具合は無いよ・・・ただ、色々と思うところがあってな」


 「ふむ・・・見たところ、ジルと言うシーフに与えたナイフと同じか同等の性能のようですが」


 「その通りだよ・・・お前は見てなかったから知らないと思うが、昨日ペインが持ち帰ってきた剣は、こいつらの上位互換みたいな物だったんだ」


 「見ただけで性能が理解出来たのですか?」


 「まぁ、毎日何かしら造ってたら自然とな。

 俺の造ったそいつらは刃を見えなくしているだけだが、ペインが持ち帰ってきた剣は刃そのものが無かった・・・どうやら使用者の殺気を刃に変え、意識した対象を切り裂く仕組みらしい。

 かなりピーキーな仕様だが、刃毀れする心配は無いし持ってるだけなら只の柄にしか見えないから怪しまれる心配も無い・・・さらに言うと、発動した時点で殺気を吸い上げて刃が発生するため、使用者の殺気をまったく感じ取れなくなる。

 それに比べて、俺のは鞘を身に付けておかなければ使用者にも刃が確認出来ず刃毀れもするが、誰にでも使えて量産も出来るんだよ。

 ペインの古い友人・・・確かヴェスタルだったかな?そいつは、その剣を造った事を悔やんでいたと言っていた・・・正直、俺はそれを見て造りの素晴らしさや発想に嫉妬したが、同時に尊敬もした。

 そいつが造った事を後悔してたって言うなら、同じ様な物を世に出すってのは気が引けてな」


 清宏は苦笑しながら思いを語ると、次の剣に取り掛かった。


 「物作りをする者として、惹かれるところがあるのでしょうな・・・それにしても、まさかペインがあのヴェスタルと交友があったとは驚きですな」


 「あれを見たら想像出来るが、そんなに凄い奴だったのか?」


 「えぇ、現在の魔剣などの武具や戦闘用魔道具製作の始祖と言われております。

 ヴェスタルは私が生まれるより遥か昔の者なのですが、かの者が製作した武具には何世代にも渡って遊んで暮らせる程の価値があるとか・・・まぁ、そのせいか贋作が多く出回り、私も本物を目にしたのは片手で数える程しかございません」


 「なら俺はラッキーだったな。お前でも殆ど見た事の無い物を、こっちに来てまだ数ヶ月で見れたんだからな」


 「ははは!確かに、清宏様はついてらっしゃるようでございますな!ですが、清宏様ならばいずれはヴェスタルをも超える武具を造られると信じておりますよ・・・実際、ラフタリア殿に与えた弓は素晴らしい物でございましたからな」


 「それは褒め過ぎだろ・・・あの弓だって、正直造りが荒いぞ?

 それに、俺にはあの剣みたいなのは造れないよ」


 清宏が苦笑して答えると、それを聞いたアルトリウスは首を傾げた。


 「それは何故でございましょう?」


 「だって、俺は魔力はあっても魔法は使えないから、殺気なんて目に見えない物を利用して一からあんなのを造り出すのは無理だよ」


 「?」


 アルトリウスは、意味が分からっていないようだ。

 清宏は作業を中断すると、ため息をついてアルトリウスに向き直った。


 「だから、俺は魔法は使えないんだよ・・・どう言う理屈で成り立ってるのか理解出来ないからな」


 「で、ですが・・・清宏様は、属性を持つ武具や魔道具をいくつも造られているではないですか」


 「そりゃあ予め属性を付与された魔石を使ってるからな。

 なら一つ聞くが、火属性の魔法ってどうやって使うんだ?火って言うのは熱と光を伴う現象で、物質の燃焼・・・激しい酸化によって発生するもの、もしくは燃焼の一部の現象の事だ。

 燃焼は4つの要素で成り立ってる・・・可燃性物質、酸素供給体、点火エネルギー、連鎖反応なんだよ・・・酸素は空気中にあるからまだ解るが、火属性の魔法は何で点火し、何が燃えてるんだ?」


 「それは・・・申し訳ありません」


 清宏に聞かれたアルトリウスは俯き、答える事が出来ないようだ。

 だが、清宏は怒った様子もなく笑っている。


 「すまん、質問が意地悪過ぎたな・・・別に怒ってはいないから気にするな。

 だが、長く生きてるお前でも説明出来ないだろ?恐らく、魔力を点火エネルギーと可燃性物質として燃焼させてるんだろうとは思う・・・だとすれば、詠唱は連鎖反応とコントロールだろう。

 だけどな、その原理が俺には理解出来ないんだよ・・・魔力って燃える物なのか?なら、他の属性はどうなんだ?って感じだな。

 この世界の住人は魔法が当たり前で、身近な物だったからそんな物なんだろうと意識して無いのかも知れないが、俺からしたらそれ自体が異常なんだ」


 「おっしゃりたい事は理解出来ましたが、ならば何故属性を付与された魔石を使えるのですか?」


 今度は清宏が困った様に首を傾げた。


 「何て言えば良いのかな・・・属性付与された魔石ってさ、属性だけじゃなくて全てのプロセスを予め付与された物なんだよ。

 その属性に対応した詠唱やコントロールって言ったら良いのかな?魔石一つで全ての工程が完結してるんだよ・・・だから、俺はその魔石の力を別の物に利用してるって感じかな?

 例えば、お前は魔法が使えない状態でどうやって火を起こす?俺なら、摩擦熱を使う原始的な方法か鏡やレンズで太陽光を利用して火を起こすよ・・・その面倒な工程を省いてくれる便利な道具が、俺の居た世界のマッチやライターであり、こっちの世界の魔石なんだ。

 俺はその便利な魔石の力を、術式を用いて他の力に変換してるんだよ・・・術式は設計図みたいな物だし、覚える分には魔力とか要らないから楽に覚えられたよ」


 「私もそのように原理などを学べば、今よりもさらに強くなれるのでしょうか?」


 「それは分からん・・・だが、お前達の場合は深く考えたら逆に弱くなる可能性もある。

 単純に火属性の魔法を強化するとして、俺が真っ先に思い浮かぶのは空気中の水素を利用する方法だが、どうやって水素を作り出すかが問題だ・・・考えている最中に攻撃を受けてしまう可能性があるし、隙が大きくなってしまって当たらなければ元も子もないだろ?

 確かに化学を学んで強くなるのは良いかもしれないが、それよりも地力を上げた方が確実だし自信にも繋がる・・・まぁ、壁にぶち当たってどうしても学びたいって言うなら、俺に解る範囲で教えてやるよ」


 「感謝いたします!やはり清宏様は素晴らしいお方でございます!」


 アルトリウスは感激したのか、珍しく鼻をすすっている。


 「誉めんなよ、照れるだろ?それより、そろそろあっちに戻ってやれ・・・リリスがボロ雑巾みたいになってんぞ」


 「なっ・・・リリス様!?アリー!オスカー!今すぐリリス様から降りるのだ!!」


 清宏が指差した方を見て、アルトリウスは血相を変えて駆け出した。

 アリーとオスカーに押し潰されたリリスは、灰のように真っ白になっていた。


 「ヤムチャしやがって・・・」


 清宏はそう呟くと、何事も無かったように作業を再開した。

 

 

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