第126話 喧嘩するほど仲が良い

 一夜明け、早めの朝食を済ませたラフタリアとペインは、リリスが用意したオライオンへの親書を受け取り王都へ向かう準備をしていた。

 ペインはヴェスタルの剣以外所持品は無いのだが、ラフタリアは清宏から貰った実家への手土産の確認をしているようだ。


 「えっと・・・これで全部かしらね?」


 「ラフタリアよ、まだであるか?流石の我輩も待ちくたびれたのである・・・」


 「仕方ないでしょ!清宏から追加でお米も頼まれて、その分のお金や今後も優先して取引して貰えるようにって色々渡されてんの!暇ならあんたも手伝ってよね!!」


 大量の荷物をアイテムボックスにしまいながら、ラフタリアはペインを睨みつけた。

 2人が言い合いをしていると、広間の奥から清宏が歩いてくる。


 「ラフタリア、それで足りそうか?なんならまだ用意するが・・・」


 「やめてよ!これ以上は持ちきれないっての!!

 まったく、どんだけお米や醤油なんかに飢えてんのよ・・・心配しなくても、これだけあれば十分すぎるわよ。

 エルフにも個人差はあるけど、基本的に私達エルフ族は一部の他種族を除いて深く関わらないように生活してるけど、受けた恩や施しには絶対に報いるのを不変の理としているの・・・正直、これだけあれば今後は優先的に分けてくれるはずよ」


 「それなら良いんだが・・・お前を見てると信じられんな」


 「あんた、いい加減ぶん殴るわよ!?」


 「むう・・・さっさとして欲しいのである」


 追いかけっこを始めた清宏とラフタリアを見て、ペインは呆れてため息をついた。

 

 「本当に相変わらずじゃな、あの2人は・・・」


 「おお、これは主よ!見送りであるか?」


 つまらなそうにしていたペインは、背後から聞こえた声に振り向くと、そこに立っていたリリスを見て笑顔になった。

 ペインは清宏に対しては恐れを抱いているが、リリスとはなかなか良好な関係を築いている。

 リリス自身も自分の知らない父や母の話を聞くなどしているため、ペインの事を気に入っているようだ。


 「苦労を掛けてすまぬな・・・本来ならば、歳も格も妾よりお主の方が遥かに上だと言うのにのう」


 「はっはっは!気にする必要は無いのである!

 生きておれば自然と歳は取るし、先に産まれた者を超えるなど相手が死なぬ限りは不可能である。

 それに、格とは歳を取っていようと低い者は低いであろう?格とは、どの様に生き、何を学び、それを自身の物として活かせるかでしか上げる事など出来ぬからな・・・我輩も主に召還されてここで生活をするようになり、改めて己の未熟さを思い知ったのである。主も我輩も、まだまだ道半ばと言う事であろうな!!」


 「そうじゃな、妾もそう思う・・・」


 ペインは豪快に笑い、リリスも感慨深そうに頷いた。

 すると、リリス達の目の前で息を切らしたラフタリアが床に倒れこんだ。


 「あーもう!捕まらなくてムカつく!!」


 「お主達もいい加減にせんか!」


 「だって、清宏の奴スキルで逃げ回って全然捕まらないんだもん!!」


 「清宏の逃げ足の速さが異常なのは知っておるじゃろう?もう諦めよ・・・。

 清宏もいい加減にせんか!まったく、毎回毎回人をおちょくりおって!!」


 痺れを切らしたリリスが駄々をこねていたラフタリアを窘め、まだ逃げ回っていた清宏に注意すると、2人は互いに舌打ちをしてリリスの前に並んだ。


 「本当に朝っぱらから騒がしい奴等じゃ・・・。

 ラフタリアよ、準備が整ったならそろそろ出発するが良い・・・ペインが待っておるぞ。

 清宏もあまり他人をからかうでない・・・ただでさえお主は誤解されやすい性格じゃと言うのに、今のままでは敵を作るばかりじゃぞ?もし相手が他の魔王だった場合はどうするんじゃ・・・」


 リリスに説教をされている間も2人は肘で小突きあっている。


 「もう良いわい・・・ほれ、さっさと行ってこい!」


 「はーい、行って来まーす・・・そうだ」


 諦めたリリスに対し、ラフタリアは軽く返事をして扉に向かって歩き出したが、立ち止まって清宏を見た。


 「ねえ清宏、昨日出発する時に私とリリが振り落とされたじゃない・・・あんた、あれが何故か知ってるのかしら?」


 「おお、そうであった!確認するのを忘れていたのである!!」


 ラフタリアの質問に、ペインもハッとして清宏を見る・・・清宏は一緒だけ顔を引きつらせたが、それを見過ごす2人ではなく、清宏は諦めてため息をついた。


 「あれは慣性の法則だ・・・正直、お前達が振り落とされるまで忘れててな・・・すまなかったな」


 「あら、賭けは私の勝ちね」


 清宏が渋々頭を下げると、広間の片隅にいたリリが、ラフタリアとペインを笑いながら見ていた。

 

 「あんたが素直に謝るから賭けに負けたじゃない!全財産賭けたってのに!!」


 「我輩は別に困らぬが、面白くないのである・・・」


 2人は口々に愚痴を漏らしたが、清宏は真面目な表情で2人を見た。


 「いや、命に関わることなら謝るだろ」


 「そ・・・それはそうかもしれないけどさ」


 清宏に真面目な表情で言われたラフタリアは口籠る。


 「ラフタリアよ騙されてはいかんぞ、お主達が気付かなければ清宏は黙っておるつもりじゃったぞ」


 「馬鹿、バラすなよ!せっかく信じそうだったってのに!!」


 リリスにバラされた清宏は、素早くその場から姿を消して逃げ去った。


 「あの野郎・・・覚えてなさいよ!?」


 「酷い男であるな・・・」


 追うのを諦めたラフタリアとペインは、清宏に仕返しをする事を心に誓い、王都に向かって飛び立っていった。

 


 


 


 


 

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