第125話 故郷の味>>プライド

 「さてと・・・んじゃまぁ会談に行くのはリリス、アルトリウス、アンネ、ペイン、アッシュって事でいいな?」


 「う、うむ・・・城の守りが心配ではあるが、致し方あるまい」


 清宏がリリスを見て尋ねると、リリスは頭頂部をさすりながら涙目で頷いた。

 リリスの頭には大きなたんこぶが出来ており、その両隣に居るペインとラフタリアの頭頂部にも同じようなたんこぶがあるようだ。


 「相変わらず貴様のゲンコツは痛いのである・・・」


 「ペインが大人しく言う事聞くのもわかるわね・・・」


 「お前等は口は災いの元って事を覚えとけ」


 愚痴を漏らした2人は、清宏に睨まれて体を強張らせる・・・その姿は蛇に睨まれた蛙のようだ。


 「うーむ・・・致し方ないとは言え、やはり心配じゃな」


 リリスは唸りながら清宏を見た。


 「こっちの心配はせんでいい・・・むしろ、お前に何かあった方が大問題だろ?

 それに向こうは王様が来んのに、こっちは代理なんてのは誠意が感じられんだろ。

 さっきも説明したが、アルトリウスはお前の護衛、ペインにも護衛を任せるが移動手段としての役割の方がメインだ。

 アンネとアッシュには、お前の補佐と裏方をやって貰わなきゃならん・・・アンネは元王族で礼儀正しいから向こうに悪い印象は持たれないだろうし、アッシュには、こっちとの連絡役をやって貰う。

 こっちは城の運営には俺が必要だろ?ただ街に買出しに行くのとは違って、念の為警戒もしなきゃならんからな・・・向こうの反対派が何もしてこないって保証がない以上、俺が城から離れる訳にはいかんだろ」


 「むう・・・わかったのじゃ」


 リリスはいまだに心配なようだが、対案を出す事が出来ずに仕方なく了承した。


 「さてと、今日はもう遅いしラフタリアとペインは明日また王都に行って、決まった事を伝えて来てくれ」


 「我輩で良いのであるか?」


 「お前が一番速いんだし仕方ないだろ?それに一度向こうとは会ってんだし、面識の無い他の奴を行かせるよりは警戒しないと思うからな」


 「わかったのである・・・なあ清宏よ、もう一度行くついでに一つ頼みがあるだが良いであるか?」


 「何だ?無茶な頼みでなければ構わんぞ?」


 ペインはダメ元で頼んだのだろう・・・清宏の言葉を聞いて嬉しそうに笑い、サンダラーと物々交換した剣を取り出してテーブルに置いた。


 「それは剣の柄か?・・・ちょっと見させて貰っても良いか?」


 「うむ、構わないのである。

 頼みと言うのは、それを我輩の亡き友の墓前に供えたいのである」


 興味深げに剣を見ていた清宏は、ペインの言葉に顔を上げた。


 「この剣の製作者か何かか?

 へぇ、面白い造りしてんなこれ・・・」


 「うむ、それを造ったのはヴェスタルと名乗っていたエルフとドワーフの夫婦だったのであるが、それを造った事を後悔していたのでな・・・回収を頼まれていたのもあるが、我輩としても返してやりたいのである」


 「そうか、それなら構わん・・・リリスも良いだろ?」


 「うむ、友の頼みならば仕方あるまい!」


 2人が了承したのを見て、ペインは頭を下げた。

 友人との約束を反故にしてしまった清宏にとっては、ペインの頼みは断れなかったのだろう。


 「感謝するのである・・・これで奴等の悲願を叶えてやれるのであるよ」


 「友人の頼みなら仕方ないだろう・・・で、その墓ってのは遠いのか?」


 「そうであるな・・・王都からであれば、普通に飛んで東に3日か4日もあれば行ける場所であるな。

 まぁ、先日も話した通り今ならばもっと早く飛べるが、無理なく行くならば1日か2日であろうな」


 「東?ねえ、それって中央の砂漠も超えるのかしら!?」


 「そ・・・そうであるが、いきなりどうしたのであるか?」


 それまでつまらなそうに話しを聞いていたラフタリアが急に身を乗り出し、ペインは驚きつつも頷いた。


 「私もついて行って良いかしら!?」


 「我輩は構わないのであるが・・・」


 ペインは困ったように清宏を見て助けを求めた。

 清宏はため息をつくと、腕を組んでラフタリアを見た。


 「あのな、お前は一応国との連絡役兼人質みたいなもんだろ?いくらペインと一緒とは言え、ちゃんとした理由が無いなら駄目だ」


 「理由ならあるわよ!しかも、あんたが納得するしかない理由がね!!」


 ラフタリアは椅子から立ち上がると、薄い胸を張って勝ち誇っている。


 「で、その理由は?」


 「砂漠を超えたら、私の故郷まで馬に乗って1ヵ月の距離よ・・・あんたなら、後は聞かなくてもわかるんじゃないかしら?」


 「まさか・・・味噌と醤油か!?」


 「ふっふっふ・・・」


 「そうなんだな!?」


 不敵に笑うラフタリアに、清宏は金貨を差し出した。


 「こんな時はどうするんだったかしら?」


 「ラフタリア様、どうか卑しいわたくしめに味噌と醤油を・・・味噌と醤油を買って来てはいただけないでしょうか!?」


 「おほほほほほ!あんたに頭を下げられるなんて気分が良いわ!!」


 頭をテーブルに打つけんばかりに頭を下げた清宏を見て、ラフタリアは高笑いをした。

 広間に居た他の者達は何事かと首を傾げている。


 「あの理不尽な清宏が頭を下げて懇願しているのである・・・」


 「ばっきゃろう!日本人にとってはな、味噌と醤油はプライドより価値があんだよ!!海外旅行に行って帰って来た時の味噌汁なんてな、涙が出るほど美味いんだぞ!?

 それがやっと食べられるんだ・・・俺の頭くらいいくらでも下げてやるわ!!」


 「味噌と醤油恐るべしじゃな・・・」


 リリスとペインは呆れ果てて何も言わず、その後は夕食時も就寝時もウキウキとした清宏がラフタリアをちやほやしていたため、それを見ていたアンネは終始ご機嫌斜めであった・・・。


 


 


 


 

 


 

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