第123話 三馬鹿③

 水晶盤で三馬鹿達を監視していた清宏の顔が、徐々に曇り始める。

 それを見たローエン達は、清宏からすかさず距離を取った。


 「何で逃げんだよ・・・」


 「いや、八つ当たりされそうだったから・・・」


 「お前達が悪い事した訳じゃねーだろーが」


 「それはそうなんだけどよ・・・」


 清宏は、及び腰になっているローエン達を見てため息をつくと、再び水晶盤を覗き込んだ。


 「こんな簡単にクリア出来る設定じゃないはずなんだけどなぁ・・・」


 3つ目のエリアに入ってからも快進撃を続ける三馬鹿達を見ながら、清宏は頭を抱えた。

 すると、近づいて来たグレンが清宏の肩ごしから水晶盤を見て苦笑した。


 「だよな・・・実際試しにやったときは、第1エリアはレティのおかげで何とかなったけどよ、それ以降の第2エリアは運、第3エリアは何度も練習してコツを掴まなきゃクリア出来ないようなのばっかりだったのに、こいつら第1エリア以外殆どノンストップだもんなぁ・・・」


 グレンの言った通り、三馬鹿達は罠以外の仕掛けでは勢いを止める事なく突き進んでいたが、次に入った小部屋のテーブルに置かれてある物を見て首を傾げた。


 『何だぁ、このコップとサイコロは・・・?』


 『壁に説明がかいてあるぞ・・・』


 三馬鹿達は壁に書いてある説明文を読み終えると、グレゴリーがコップを手に取った。


 『コップで素早くサイコロを掬って縦に重ねれば良いんだな・・・行くぞ!!』


 グレゴリーは、テーブルの上を滑らせるように素早くコップを動かす・・・目にも留まらぬ速さだ。

 テーブルに並んでいたサイコロが無くなったところを見ると、全てコップの中に入ったのだろう。


 『どうだ!!』


 『なんということらぁ!!』


 グレゴリーが勢いよくコップを持ち上げると、そこにサイコロは無く、それを見た三馬鹿達は揃って驚いた。


 『何だぁ?何が起きやがったぁ!?』


 『いや、向こうの壁を見ろ!!』


 ダニエルが指差した壁には、小さな穴が開いている・・・グレゴリーが壁に近づいて穴を探ると、中からサイコロが落ちてきた。


 「サイコロが壁に刺さるとか何ちゅう馬鹿力だよ・・・」


 「あれ食らったら怪我じゃすまねーな・・・」


 水晶盤でその光景を見ていた清宏達は、血の気の失せた表情をしながら呟いた。

 三馬鹿達は全てのサイコロを回収すると、次は唯一名前の判明していなかったリーダーらしき男がコップを手に取って構えた。


 「こいつの名前知ってるか?」


 「確か、コウスキーだったと思うぞ?」


 「マジか・・・」


 「どうした?」


 「いや、何でもない・・・聞かなかった事にしよう」


 何気なく尋ねた清宏は、返って来た答えを聞いて顔を引きつらせたが、首を振って頬を叩くと水晶盤を覗き込んだ。

 ローエン達は首を傾げたが、コウスキーがコップを振りかぶったのを見て水晶盤に注目した。


 『これでどうだ!!』


 コウスキーがサイコロを全て掬ってコップを持ち上げると、そこには見事に縦に重なったサイコロが立っていた。


 「これもクリアかよ!マジふざけんな!!

 俺がダイススタッキング出来るようになるまで何回練習したと思ってんだ!?」


 「落ち着けってダンナ!アリーだって一発で成功してただろ!?」


 「アリーはああいうのは得意だから今更驚かねーんだよ!!でも、あいつらはマグレだぞ!?しかも、これまでのも全部運かマグレじゃねーか!!」


 怒鳴り散らした清宏は肩で息をしながら立ち上がると、広間を見渡してリリスを見つけ、手招きをした。


 「何じゃ清宏、荒れとるの・・・」


 「新装開店初っ端から全クリさせる訳にはいかねぇ・・・リリス、あれをやるぞ」


 「えぇっ・・・嫌じゃなぁ」


 「嫌じゃねーよ!あんな脳筋達にクリアされるなんて我慢出来るか!!」


 「わかった!わかったから落ち着かんか!!」


 清宏の剣幕に負け、リリスは渋々了承して項垂れる。


 「あれって何なんだ?」


 「いざという時の為の奥の手だ・・・正直使いたくはないが、あいつらを調子付かせるよりはマシだからな」


 清宏は手短にローエン達に説明すると、リリスの首根っこを掴んで引きずりながら広間を出て行った。

 






 「最近何かと噂を聞いていた場所だが、大した事無いな・・・」


 「あぁ、確かにな」


 「だが、こんな順調な日には後から面倒な事が多いぃ!!」


 「やめておけ、そんな事を言うと、不幸が襲う!!その言葉は、俺達を不幸に導ビクッ!!!」


 三馬鹿達はその後も数々の部屋を難なくクリアして行ったが、油断はしていないようだ。

 だが、三馬鹿達は廊下の奥の扉を開き立ち止まった。


 「なんだこの森はぁ!?」


 「なんで城の中に森があるんだぁ!?」


 「くそぅ、扉が消えやがった!」


 部屋に足を踏み入れた三馬鹿達は、周囲を見渡して呆気にとられていたが、最後に部屋に入ったグレゴリーが扉を閉めた途端、扉が消えてしまいパニックに陥った。


 「な、言っただろ!!あんな事を言うと不幸が襲うと!!」


 「すまん・・・たが、扉も消えちまったしどうする?」


 「せっかくだから、先に進もうぜ!!」


 三馬鹿達は言い争いをやめて仕方なく森を進むと、しばらくして一軒の小屋にたどり着いた。


 「なんだこの小屋はぁ!?」


 「せっかくだから入ってみようぜ!!」


 先程の出来事など忘れたのか、三馬鹿達は扉を開けて中に入った。


 「だあれ?」


 小屋の中に入った三馬鹿の前には、テーブルについた少女が首を傾げて座っていた。

 その少女は目を怪我しているのか額から目にかけて包帯を巻いているが、整った顔立ちをしているのが分かる。


 「お兄ちゃん、誰か来たよー!」


 「はいはい、ちょっと待ってくれ!」


 少女が小屋の奥に呼びかけると、若い男の声が聞こえてきた。

 三馬鹿達は状況が飲み込めず小屋の中を見渡している。


 「どうなってるんだぁ?城から森に出たと思ったら、こんな森の中の小屋に少女だとぉ!?」


 「あなた達はだあれ?」


 「俺達は冒険者だ・・・」


 コウスキーが少女の問いに答えると、少女は包帯て隠れてはいるが満面の笑みを浮かべた。


 「凄い!冒険者なの!?」


 「冒険者に興味があるのか?」


 「うん!」


 少女の嬉しそうな笑顔を見た三馬鹿達は、警戒を解いた。

 すると、奥から青年が手を拭きながらやって来た。


 「お待たせして申し訳ありません・・・どうかなさいましたか?」


 青年はにこやかに笑って三馬鹿達に頭を下げる。


 「いや、急に訪ねてしまって申し訳ない・・・ここは、城の近くかぁ?」


 「城ですか?・・・いえ、うちの近くに城はありませんが」


 青年は申し訳なさそうに答えた。

 三馬鹿達は青年の表情を見て嘘ではないと判断したのか、肩をすくめた。


 「そうか、今の質問は忘れてくれ・・・お前達はここに住んでるのかぁ?」


 「えぇ、僕と妹の2人暮らしです・・・」


 「親は居ないのかぁ?」


 「はい・・・妹が小さい時に亡くなりました」


 青年の言葉を聞いた三馬鹿達は言葉に詰まり、申し訳なさそうに頭を下げた。


 「気になさらないでください、もう慣れましたから・・・それより、迷われたなら今日はうちで休まれてください。

 今から街に向かったのでは、夜になってしまって危険ですから」


 「すまない、ならそうさせて貰えると助かる」


 「では、すぐに食事を用意しますね!良かったら、妹に冒険の話を聞かせてやってください」


 「あ、あぁ・・・何から何まですまない」


 三馬鹿達は青年の背中を見送り、少女にこれまでの冒険の話を聞かせる。

 少女は楽しそうに聞き入り、三馬鹿達はその反応が嬉しくなり時間を忘れて話をした。


 「お待たせしました!久しぶりのお客様ですし、今日は腕によりを掛けてご用意しました!」


 「おお!これは美味そうだ!!」


 「お兄ちゃんの料理は世界一美味しいんだよ!」


 「それは楽しみだなぁ!!」


 青年が料理を運び終わるのを待ち、皆が揃ってから食べ始める。

 三馬鹿達は余程腹を空かせていたのか、青年の料理を凄い勢いで食べている・・・青年と少女は、それを見て笑っていた。


 「いやぁ、本当に美味かった!これなら、街で店を開いても暮らしていけるんじゃないのぁ!?」


 「それも考えましたが、ここには父と母との思い出がありますので・・・」


 「おい、コウスキー!」


 「・・・申し訳ない」


 グレゴリーに注意されたコウスキーは、バツの悪そうな表情で青年に謝罪した。

 青年は笑って頷き、コウスキーは胸を撫で下ろした。


 「そうだ、これをお前達にやろう・・・一宿一飯の恩は返さなきゃな。

 街で換金すればそれなりの金額になるだろう」


 三馬鹿達は、アイテムボックスからいくつかの魔石を取り出して青年に差し出す。


 「いえ、それは受け取れません・・・それに、僕達は貴方達に恩を売った覚えはありませんから」


 青年がそう言ってニヤリと笑うと、三馬鹿達は急に床に倒れた。


 「な、何だこれはぁ・・・!まさか、毒か!?」


 「ダメだなぁ君達、もっと疑おうよ?」


 「・・・やりやがったな!?」


 青年は、笑いながら床の上で身動きの取れなくなった三馬鹿達を縛り上げる。


 「あのままクリアされたら癪だったからな・・・悪いが、お前達にはお引き取り願おうか。

 安心しろ、手に入れた宝なんかは全部くれてやる」


 三馬鹿達は薄れゆく意識の中、最後まで青年を睨んでいた。


 「ふう・・・任務完了!!」


 「何だか申し訳ないのう・・・」


 青年が装着していた腕輪を取ると、姿が歪んで清宏が現れる。

 少女は顔に巻いていた包帯とカツラを取る・・・少女の正体はリリスだったようだ。


 「なかなか良い演技だったぞ、やれば出来るんじゃねーか」


 「馬鹿にするでないわ!妾だってこのくらい出来るわい!!それにしても、本当に死んではおらんのじゃろうな?」


 リリスは棒で軽くつついたが、三馬鹿達は全く動かない。

 清宏はコウスキーの隣にしゃがみ込むと、首に手を当てて脈を診る。


 「死亡確認!」


 「なんじゃと!?あの薬では死なぬと言っておったではないか!!」


 リリスは慌てて清宏に詰め寄るが、清宏は笑っている。


 「冗談だよ!王大人ってキャラの真似だから心配すんなって・・・こう言った時は生きてるんだよ」


 「紛らわしい事をするでないわ馬鹿者!焦ったじゃろうが!!」


 「ハンセイシテマース」


 「まったく・・・して、この3人はどうするのじゃ?」


 「ここは城の地下だから迷う事は無いだろうが、念のため城内の一室に放置しときゃあ他の冒険者が見つけてくれるだろ」


 清宏はマップを確認しながら小屋の扉を城内の部屋に繋ぐと、三馬鹿を引きずって室内に放置した。


 「まさか、上だけじゃなくて地下にも森が広がってるとは思いもしないだろうな」


 「じゃな・・・広い地下室に、アリーの能力で木を生やして森に見せかけるなぞ普通は考えんぞ」


 呆れたリリスは、ため息をつきながら服を着替える。


 「さてと、これでスッキリしたし戻るか」


 「変装なぞ二度とごめんじゃ・・・」


 リリスは愚痴りながら部屋の扉を開ける。

 扉の先は広間に繋がっており、水晶盤の前にはジト目で睨むローエンとグレンが立っていた。


 「やり方がえげつねーわ・・・」


 「あんなんクリアさせる気無いだろマジで」


 「あん?奥の手ってのは、こうやって使うから良いんじゃねーか。

 まさか、魔王と副官が変装して芝居を打つとは思わねーだろ?」


 清宏が悪びれもせず椅子に座って水晶盤を見ると、早速気絶した三馬鹿達が他の冒険者達に回収されていた。


 


 


 




 


 


 




 






 


 




 

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