第122話 三馬鹿②

 水晶盤で三馬鹿と呼ばれる冒険者達を見ていた清宏達は、盤面に映し出された映像を見て吹き出してしまった・・・三馬鹿達は無警戒で進み出したため、吸い込まれるように落とし穴に落ちたのだ。


 「なぁ、あいつらってA級だろ?いくらなんでもあまりにも無警戒すぎないか?」

 

 「見事だったな・・・」


 「いえ!まだ落ちていないみたいです!!」


 呆れていた清宏とローエンに、レティが水晶盤を指差して指摘した。

 清宏が水晶盤を操作して映す位置を変えると、三馬鹿達は落とし穴の縁に掴まり何とか耐えていた。

 水晶盤から、三馬鹿達の声が聞こえてきたため、清宏達は話を中断する。


 『ダニエル、グレゴリー、いきてるかぁ?』


 『あぁ、なんとかな』


 三馬鹿達は鍛え上げた腕力で這い上がると、互いの無事を確認し合った。


 「生きてるも何も、死ぬような高さじゃないよな?」


 「あぁ、だいたい手を伸ばして届かないくらいだろう・・・それに、落ちたらすぐに流されるから死にはしないな」


 「まぁ、装備を見ても分かる通り脳筋だからな・・・そこまで考えが及ばないんだろ?」


 グレンの言葉を聞いた清宏は、三馬鹿達を見て手を叩く。


 「あー・・・何か見た事があると思ったら、コナン・ザ・グレートだわあの格好」


 「誰だよそれ?」


 「俺の居た世界に映画って言う娯楽があってな、その映像作品の一つの主人公だよ」


 「あんな見た目のが主人公なのか?」


 「格好が似てるってだけだな・・・その主人公はもっとムキムキだぞ。

 まぁ、あっちの世界にはスキルとか無いから戦えばお前達の方が強いだろうが、基礎体力は向こうが上だろうな・・・何たって全盛期の腕周りが女性のウエストくらいあったからな」


 「うへぇ・・・やり合いたくねーな」


 話を聞いたグレンは身震いしている。

 清宏は他の冒険者達にも注意を払いつつ、三馬鹿達を追った。

 ただ、他の冒険者達も三馬鹿の存在に気付き始めたたらしく、距離を置きつつも後を追っているようだ・・・正直、清宏にとっては好ましく無い状況だ。


 「状況を把握しやすいのは良いが、これだけ一ヶ所に固まっちまうとまとめて排除しちまうな・・・少しバラけさせるか・・・」


 清宏は三馬鹿達が通路の角を曲がったのを見計らい、壁を作り出して隔離する。

 他の冒険者達はしばらくその場で悔しがっていたが、やがて諦めてその場を離れて行った。


 『上から来るぞ、気を付けろ!』


 他の冒険者達の様子を見ていた清宏は、三馬鹿達の声を聞きそちらを見る。

 そこには、階段の上から転がって来る岩(ハリボテ)を見事にキャッチし、何故か階上に投げて轢かれている三馬鹿達が映し出されていた。


 「あいつ等は何故上に投げたんだ・・・上に投げたら意味ないとか子供でも分かるだろ普通・・・」


 「流石だな、修行で頭の中まで鍛え上げてるってのは伊達じゃねーな・・・」


 三馬鹿達は、その後も腕力に頼って罠を突破していき、脱落する事無く次のエリアに繋がる階段へと辿り着いた。


 『何だ、この階段は?』


 一見何の変哲もない階段を前に、三馬鹿達は立ち止まる。


 『行ってみようぜ?』


 「何でいちいちこいつらは芝居掛かった喋り方をするのか・・・」


 「そこが面白いだろ、馬鹿っぽくてさ」


 話を聞いていた清宏は呆れてため息をつき、グレンは笑いながら答えた。

 三馬鹿達は、 特に何も無い場所でも無駄に警戒しているのだが、それでも必ずと言っていい程罠に掛かっていたため進むペースが非常に遅い・・・それでも誰一人として脱落していないのは、彼等の運と腕力のなせる技だろう。

 階段を登り切った三馬鹿達の前に、長い吊り橋が現れる・・・それを見た彼等は、呆然とした。


 『何で城の中に吊り橋があるんだぁ!?』


 『向こうに扉が見えるぞ!』


 『行くしかないのかぁ!?』


 意を決して吊り橋を渡り始めた彼等は、ボールに容赦無く狙い撃ちされているが、ヨロけながらも着実に進んでいく。


 『くっそー、やりやがったな!』


 『おーのー!』


 三馬鹿達は何とか無事に吊り橋を渡り終え、深呼吸をして扉の前に立った。

 吊り橋を渡る前には見えなかったが、彼等の前には正面だけでなく、左右にも扉があるようだ。


 『せっかくだから、俺は赤の扉を選ぶぜ!』


 「せっかくって何だよ・・・文法って何なんだろうな?」


 清宏は既にウンザリしているのか、ツッコミに元気が無い。

 三馬鹿達は扉を開けて中に入ると、室内の光景に圧倒されたようだ・・・それもそのはず、室内は一面鏡張りだったのだ。

 こちらの世界では鏡は比較的高価であり、鏡を使って迷路を作るなど、例え王族だろうと考えもしないだろう。


 『何だぁ、この部屋は・・・なになに?鏡を攻撃した場合、身の安全の保証は出来かねますだと?どういう意味だぁ?』


 『試してみるかぁ?・・・痛えっ!?』


 『大丈夫かぁ!?』


 注意書きがあるにも関わらず、1人が鏡を殴って蹲った。

 この部屋の鏡には、迷路を抜けられずに八つ当たりされても大丈夫なように、攻撃を反射するように術式を組み込んであるのだ。


 「やるなって書いてあるのに何でやるかな・・・馬鹿なの?死ぬの?」


 「いや、やるなって言われたらやりたくなるだろ普通は?」

 

 「お前は押したら死ぬかもしれないスイッチを押したいと思うか?」


 「それは押さんだろ・・・死ぬかもしれねーじゃねーか」


 「そうだぜダンナ・・・」


 「矛盾してんぞ馬鹿共」


 清宏は履いていたスリッパでローエンとグレンの頭を引っ叩いて水晶盤に向き直る。

 三馬鹿達はミラーハウスの中を、あーでもないこーでもないと言い合いながらも進んでいるようだ。

 だが、清宏はそこで何かに気付いて水晶盤を凝視した。


 「凄いぞあいつ等・・・言い合ってはいるが、常に正解の道を選んでやがるぞ。

 このペースなら、制限時間にかなり余裕を持ってクリアするかもしれないな・・・右手法とか使ってもクリア出来ない時間にしたんだがなぁ」


 「右手法って何です?」


 レティに尋ねられ、清宏は右手を横にのばした。


 「迷路ってのは切れ目が入口か出口しかないから、壁に手を当てながら歩けば必ずどちらかに辿り着くようになってるんだよ・・・まぁ、必ず出口に辿り着くと言う訳ではないが、これの場合は時間は掛かっても壁の長さの分だけ歩けば済む。

 だが、入口や出口が迷路の中にあったり、立体的だった場合には入口に戻る場合もあるけどな」


 「左手ではダメなんですか?」


 「そん時は左手法って言うんだよ・・・まぁ、どっちも間違いじゃないぞ?使いたい方の手でやりゃあ良いんだ」


 「ほえー・・・今度ダンジョンでやってみよ!」


 「待て待て、ダンジョンでんな事やって罠はどうすんだよ・・・壁に仕掛けられてたら意味ないだろうが」


 「おおっ!それは盲点でした!!」


 「やめてくれよ・・・絶対に俺達と一緒の時にはすんなよ!?」


 「わかってますー!」


 「やっぱりお前等も三馬鹿だろ・・・」


 清宏はお腹いっぱいと言いたげな表情でローエン達を見ている。

 清宏達が騒いでいる事など知らない三馬鹿達は、ミラーハウスを最速でクリアし、隣の部屋に設置されていた宙に浮くキノコ型のオブジェに捕まって離れた場所にある足場に移動しているところだった。


 

 


 

 


 

 


 

 


 


 

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る