第121話 三馬鹿①

 ここで話を清宏達に戻そう。

 清宏はラフタリア達を見送った後、広間中央に水晶盤と椅子を用意して陣取った・・・マップ上にはちらほらと冒険者達の姿が確認出来る。


 「ふふふ・・・新たに増築したリリス城を見て驚いてやがる。

 さて、新装開店初日から飛ばして行くと可哀想だし、少しは手加減してやりますかね!

 グレン、そろそろ開門するから位置につけ」


 「あいよ!広くなったおかげで隠れる場所も増えたし、気合い入れていくぜ!!」


 清宏は、水晶盤を見ながらグレンに伝え、門を開ける。

 冒険者達はまだ唖然としているが、開門と同時に1人また1人と中に入って来る。


 「どうじゃ清宏、冒険者達は来ておるか?」


 「おう、久しぶりだからか結構来てるぞ!朝からこれなら、宝を多目に持ち帰らせても赤字にはならないだろう・・・やっぱり、イベントの時くらいは稼がせてやらないと客足は遠のくからな!」


 「ならば良し、皆にも無理しないように伝えておいてくれ」


 「おう!まぁ、今日は様子見も兼ねてるから無理はさせねーよ!」


 様子を見に来たリリスに対し、清宏は嬉しそうに答えた。

 今回、城を増築するにあたって仲間達の持ち場をいくつか変更しているため、今日は様子見も兼ねている。

 ローエンとグレン、リリの持ち場は変更していないのだが、アンネとレイスは罠設置の担当を離れ、レティにはローエン達の補助をさせている。

 その理由は、城内を大幅に変更しているからだ。

 まず城の内部を3つのエリアに分けており、第1エリアはこれまでと同じく罠を張り巡らせている・・・そのため今までよりも罠の数を減らし、清宏だけで回せるようにしたのだ。

 第2エリアは、先日製作したボール射出装置やミラーハウスなどのアトラクションにしてあり、アンネとレイスはボールの補充などの為に第2エリアに常駐する事になる。

 レイスは今リリの代わりにビッチーズの監視をしているため、今日は代役としてシスとウィルが第2エリアを担当している。

 第3エリアは打って変わって若干地味な物になっている・・・第1や第2エリアは状況判断や身体能力などが試される物が多いのだが、第3エリアは技術や運などが絡んでくるのだ。

 黒ひげ危◯一髪や番◯ガオガオ、ワニワニパニ◯クに始まり、ツイスターゲームやダイススタッキング、神経衰弱などなど・・・指定回数以内にクリア出来なければ部屋の床が抜けると言った仕様になっている。

 そして全てのエリアをクリアした者には、リリスから直々に豪華賞品をプレゼントされると言った流れだ。


 「いやぁ、なんだかんだで久しぶりにまともに罠を設置してる気がするな!今まではアンネやレイス、レティに頼りきりだったからな・・・これからは俺が頑張らねば!今までみたいに甘くはねーぞお前ら!はいポチッとな!!」


 清宏は笑いながら手元のスイッチを押した・・・本来清宏のスキルならばスイッチなど必要ないのだが、面白味に欠けるためわざわざ造ったのだ。

 罠が作動し、冒険者達が登っていた階段の段差が変形して滑り台になる・・・冒険者達はそのまま階下へと滑り落ち、その先に用意されていた落とし穴に吸い込まれていった。


 「よし、この調子で適度に罠に掛けていこう・・・」


 ニタニタといやらしい笑いを漏らしながら、清宏は容赦なく冒険者達を罠に掛けていった・・・もはや、当初の目的を忘れて楽しんでいるようだ。


 「ダンナ、ヤバイぜ!一度戻って良いか!?」


 清宏が罠に夢中になっていると、冒険者達の誘導をしていたグレンから連絡が入る。


 「おう、どうした?何か問題が起きたか?」


 「超ヤベーのが来た!!」


 「わかった、今すぐ戻って来い。

 ローエンとレティも一度こっちに戻って来てくれ」


 グレンの只ならぬ雰囲気を感じた清宏は、すぐに3人を呼び戻した。

 程なくして、笑いを堪えた表情のグレンと、呆れた表情のローエンとレティが戻って来た。


 「どうしたんだよ一体・・・まさか、オーリック達みたいなのが来たのか?」


 「いや、ある意味あいつ等よりヤベーよ!見てくれよこの3人組を!!」


 グレンは水晶盤を操作すると、3人組の男達を映し出した・・・それを見た途端、ローエンとレティが水晶盤に噛り付く。


 「おいおい、マジかよ!まさか、ありゃあ三馬鹿じゃねーのか!?」


 「初めて生で見ました・・・実在してたんですねー」


 「だろ!?俺も最初見た時は二度見したぜ!!」


 テンションの上がっている3人に取り残され、清宏はただ水晶盤を見つめている。

 三馬鹿と呼ばれた3人はパーティを組んでいるようだが、何故か前衛のみでヒーラーなどの後衛がいないようだ。


 「あのさ・・・盛り上がってるとこ悪いんだけど、三馬鹿なら俺の目の前にも居るよ?」


 「失礼な事を言うな!誰が三馬鹿だ!!」


 「いや、間違ってはいねーけども・・・」


 「で、あいつ等が何なの?強いの?」


 清宏が尋ねると、3人は揃えて首を傾げた。


 「実力はあると思うぞ、あいつらは俺達と同じA級だからな・・・だが、あいつ等は殆ど依頼を受けねーんだよ。

 基本的に山に籠って修行をしてるらしくて、ギルドで見る事自体稀なんだよ」


 「それの何がヤベーんだ?」


 「実を言うと俺達冒険者の中では験担ぎみたいになってるんだが、あいつ等を見た日は良い事が起きるって言われてるんだよ・・・実際、あいつ等を見た日に九死に一生を得たって奴がいたり、子供が出来たとか宝を見つけたとかの報告が多いんだ。

 それに、あいつ等って前衛しか居ないだろ?今まで他の奴等と組んだ事も無いようだし、それでこれまで生き抜いてんだ・・・その時点でヤベーよ。

 そして何より、とてつもなく頭が悪い・・・いわゆる脳筋だ」


 「運と実力と勢いとその場のノリだけでA級になったとも言われてますねー・・・」


 ローエン達は代わる代わる説明した・・・だが、清宏は理解出来ずにぽかんとしている。


 「冒険者ってさ、人が良ければ馬鹿でもなれるんだね・・・」


 「それを言うなよ、悲しくなんだろ・・・」


 「おっ、動き出したぞ!」


 「まぁ良いや・・・お手並み拝見といきますか」


 楽しげな3人とは裏腹に、清宏はさして興味なさそうに水晶盤を眺めた。

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