第124話 実家のような安心感
日が傾き始め、清宏が三馬鹿達を撃退して一息ついていると、何かが城向かってに高速で接近してくるのに気が付いた。
清宏がそれを水晶盤で確認すると、見慣れた者達の姿が映し出されていた。
「ふむ・・・もう少し掛かるかと思ってたが、予想してたより早かったな」
「いやいや早過ぎだろ!王都に行ってオーリック達の情報集めて帰って来たんだろ?だとしたら、いくらなんでも早過ぎんだろ!!」
「まぁ、情報収集が順調だったならこんなもんだと思うけどな・・・オーリック達は目立つし有名人だっていうなら、良くも悪くも情報は集めやすいだろ。
ただ、問題はオーリック達が捕らえられてた場合だが、これだけ早く帰って来たならそれも無かったんだろ」
「うーん・・・そんなもんなのか?」
清宏は裏口の扉を広間に繋げながらグレンに説明したが、グレンはまだ納得出来ていないようだ。
少し待っていると、広間の扉が開いてペイン達が入って来た。
「戻ったのである・・・」
「お疲れさん、どうだった?」
清宏は3人にお茶を用意し、グレンにリリスを呼びに行かせて席に着く。
だが、3人は迷ったような表情で立ったままだ。
「どうしたんだよ?」
「いや、その・・・まぁ、ちょっとね・・・」
清宏に尋ねられ、ラフタリアとリリは揃ってペインを見る。
すると、ペインは素早くその場で土下座した。
「すまんのである!我輩のせいでバレてしまったのである!!」
「はぁ・・・取り敢えず席に着いて説明しろ」
「わかったのである・・・」
3人は席に着くと、リリスが来るのを待ち、王都での出来事を説明する。
その間、清宏は一言も喋らず黙って話を聞いていた・・・3人は、何の反応も無い清宏を伺っている。
「王都での出来事は以上である・・・我輩の配慮が足りなかったために、向こうにバレてしまい申し訳ないのである・・・」
報告を聞いた清宏は、ため息をついて背もたれにもたれかかる。
3人は清宏が動いたのを見て身体を強張らせたが、何も起こらない。
「わかった、次からは気をつけろ」
「えっ・・・それだけであるか?」
怒られる覚悟をしていたペインは、狐につままれたような表情で清宏を見た。
「なんだ、怒られたいのか?・・・黙ってたならゲンコツの一つでも喰らわそうと思ったが、今回は自分から非を認めて謝ったからな。
それに、話を聞いた限りじゃあ向こうには争う気は無いんだろ?まぁ、こっちにお前が増えたとなりゃあ争うだけ損だからな。
オーリック達の無事も確認出来たし、次からはもっと自分の行動がどういう結果に繋がるかを考えて行動しろ」
「良かったのうペイン、清宏の言う通りじゃ。
己が非を認めるのは難しいが、とても大事な事じゃ・・・ただ、同じことを繰り返さず次に活かせば良いのじゃ」
「わかったのである・・・次からは気をつけて行動するのである!」
ペインは途端に明るい表情になり、胸をなでおろした。
清宏はペインの様子を見て小さくため息をつくと、次にラフタリアとリリを見た。
「お前達もご苦労だったな・・・何事も無くて良かったよ。
悪い結果にはならなかったし、今回の事は気にするな」
「まぁ、私は久しぶりに皆んなに会えたし別に良いわよ」
「そう言って貰えたら助かるわ・・・で、こっちは何も無かったかしら?」
「あー・・・あったと言えばあったんだが」
「何かあったの?」
腕を組んで項垂れた清宏を見て、リリは眉をひそめた。
ラフタリアとペインも首を傾げて清宏を見ている。
「三馬鹿とか言われてる冒険者達が来たのは良かったんだが、新装開店初日に全クリされかけたんだよ・・・まさか、あんなのが居るとはな」
「三馬鹿ってあの三馬鹿!?」
「どの三馬鹿かは知らんが、たぶんお前の考えてる奴等だろう、グレン達もテンション上がってたし・・・」
「残念・・・ここに残っとけば良かったわ」
ラフタリアは見るからに残念そうに肩を落とし、恨みがましく清宏を見た。
「そんな目で見んなよ・・・誰がいつ来るかなんて予想出来る訳ないだろ?それに、こっちは奥の手まで使ってようやく追い返したんだからな。
しかも、追い返したと思ったら、シスからリリスの変装を見たかったってゴネられるわ散々だったよ」
「二度とせんぞあんな格好・・・」
清宏とリリスは揃って深く長いため息をつき、ラフタリア達はそれ以上三馬鹿達について聞こうとはしなかった。
「で、どうするの?会談はいつ何処にするかとか早めに向こうに報せた方が良いんじゃないかしら・・・」
リリは話を今後の予定に切り替える。
清宏は助かったとばかりに小さく笑うと、お茶を飲んで気を取り直した。
「うーん・・・正直、城に来てもらうって訳にはいかないだろうな・・・向こうからすれば俺達は憎っくき魔王の陣営だから、いくらこっちに争う意図がないとは言え、いきなり招待しても、はいそうですかとはならんだろ?
俺としては、クリスさんに仲介役になってもらわないといけないから、商会の応接室を借りるか何処か店を貸し切る方が良いと思う」
「それが良いじゃろうな、あちらには距離もある故申し訳無く思うが、我々魔族が長距離を移動するとなれば目立つからの・・・。
確か、王都からこっちまでは半月程じゃったな?向こうにも色々と準備があるじゃろうし、あまり急いてもいかんじゃろうから2ヶ月後などどうじゃろう?」
「それだけあれば大丈夫だと思うわ。
ただ、一つ不安があるとすれば反対派の貴族連中に時間を与えてしまう事ね・・・まぁ、こっちの戦力は理解したと思うから下手な事はしないと思うけどね」
清宏とリリスの提案に賛同したラフタリアを見て、リリが吹き出した。
「ぷっ・・・あははは!ラフタリア、今こっちの戦力って言ったけど、貴方は本来なら向こう側でしょ?」
「え?あ、そうだったわね・・・何というか、ここって居心地が良いのよね。
ローエン達が違和感なく完全に溶け込んでしまってるから、ここって魔王城って感じが全くしないのよ・・・。
今までは依頼や冒険なんかで一つの場所に長く留まるなんてしてこなかったし、私にとって実家のような安心感があるのよね」
ラフタリアは気恥ずかしそうに笑って小さくなった・・・それを聞いていたリリスはとても嬉しそうだ。
「まさかS級冒険者様のお墨付きを得るとはな・・・まぁ、お前が気に入ったなら好きなだけ居れば良いだろ」
「私が居座るということは、ルミネも来るけど良いの?」
「やっぱり帰れ」
ルミネの名前を聞いた途端に清宏は顔をしかめ、ペインが首を傾げた。
「ルミネと言うのは、あの清宏に似た女であったな・・・貴様達は仲が悪いのであるか?」
「あいつと似てるとか言うんじゃねーよ・・・あんな腹黒と一緒にすんな」
『えっ?』
清宏の言葉を聞いた4人の声がハモる。
「何だ・・・言いたい事があるなら、遠慮なくハッキリと言え」
清宏の圧に負け、4人は縮こまる。
「まぁ良い・・・腹黒い奴の定義は色々あるが、少なくとも俺は腹黒いつもりはない。
例え相手が魔王だろうが一国の王だろうが、互いに利があるのなら相手が利用されてると理解していようが、俺は相手の立場関係なく利用する・・・win-winの関係が俺の流儀だ。
それに、誰であろうと俺は平等に接するし、仕事じゃなけりゃ相手を押さえつけようとは思わんよ・・・ペインの盗み食いは話が別だが、俺がお前達のプライベートに口出しした事あるか?」
清宏の言葉を聞き、4人は唸った。
「まぁ、言われてみれば確かにお主は自分だけ得をしようとはしとらんな・・・じゃが、なんか納得出来ん」
「そうであるな、貴様の場合はやり方云々は別として、能力が理不尽である・・・逆らおうにも逆らえないのであるからな!」
「常に悪ノリが過ぎるわね」
「私は後が怖いからノーコメントよ」
「・・・リリの反応は少し引っかかるが、リリ以外はじっくり話し合おうか?」
清宏は笑顔でリリ以外の3人を見る。
3人の顔から血の気が引き、リリはそそくさと退散して行った。
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