第115話 慣性の法則
朝食を終えた清宏は、王都への偵察に行かせるためラフタリア、リリ、ペインの3人を呼んだ。
「朝食の後にすまんな・・・実は、お前達に頼みがある」
清宏が真面目な表情で切り出すと、3人は顔を見合わせて首を傾げた。
「面倒事ではあるまいな・・・」
「何で俺の頼みだと面倒事になるんだよ」
「日頃の行いでしょ?」
「湖に叩き落とすぞお前等・・・」
ペインとラフタリアは顔をしかめたが、清宏が苛立ったのを見て慌てて姿勢を正す。
リリは2人を見て、ただ呆れてため息をついている。
「お前達は今から王都に向かい、オーリック達が無事か確認して来て欲しい。
あいつ等が窮地に立たされていた場合、手助けしてやってくれ。
何事も無いようなら、あいつ等から向こうの反応を聞き出してくれたら助かる。
連絡を待つのも良いんだが、前もって情報を得ておけば対策も立てやすいからな・・・何か質問はあるか?」
清宏は手短に説明して3人に問いかけると、リリが手を挙げた。
リリは不服そうな表情を浮かべている。
「ラフタリアとペインは分かるけど、何で私まで行かなきゃならないのかしら・・・オーリック達の仲間であるラフタリアと、移動手段のペインがいれば十分でしょう?」
「あぁ、お前には2人の監視役を頼みたいんだ・・・こいつらだけだと、絶対に何かやらかすからな」
「ちょっと待ちなさいよ!!」
「酷い言われようであるな・・・」
リリの質問に答えた清宏に対し、ラフタリアとペインは抗議した。
だが、清宏は2人を無視してリリを見つめている。
「はぁ・・・分かったわよ・・・。
でも、私の仕事はどうするの?誰か代わりにやりたいって人が居るかしら?」
「それはレイスに任せようと思ってるよ。
あいつなら大抵の仕事は卒なくこなすし、ビッチーズ達もあいつの言う事は聞くからな」
リリは少し考えたが、小さく頷いて清宏を見た。
「確かに、レイスなら大丈夫そうね。
でも、私でこの2人を止められるかしら・・・」
不安そうなリリを見て、清宏はラフタリアとペインを振り向いた。
「お前等、リリの言う事をちゃんと聞けよ?
問題起こしたらタダじゃおかねーからな!!」
「頼み事してる人間の言葉とは思えないわね・・・まぁ、私も皆んなが心配なのは同じだから別に良いけどさ・・・」
「我輩は、王都で何か食べても良いなら行くのである・・・」
「リリとラフタリアには金を渡すから、好きな物買って来い。
ペインは好きなだけ食ってくりゃ良い・・・だが、節度は守れよ?」
清宏はアイテムボックスからポケットマネーを取り出してリリに渡す。
「あぁそうだ、あとリリとペインには服も渡しとく・・・2人共ドレスしか持ってないだろ?
必要になると思って、何着か作っといたんだ」
「あらありがと」
「ふむふむ、なかなか良さそうであるな!」
2人は服を受け取ると、それを広げて嬉しそうに笑らい、すぐに試着する。
リリに渡した物はラベンダー色のカントリードレスと編み上げのブーツ。
そして、ペインに渡した物は男性向けのカントリースタイルの服なのだが、シャツとベストの胸元は締まり切らずに大きく開いており、男らしさよりも女性らしさが際立っている。
「ペインのは動きやすそうね・・・」
「お前が着たら、ちゃんと胸元は締まるだろうけどな」
「うっさい馬鹿!!」
からかわれたラフタリアは清宏の尻を蹴り上げたが、逆に足を痛めて蹲った。
「来ると思ったから、尻筋を固めておいたぜ!」
「本当に卑怯な男ね・・・あー痛かった・・・」
「まぁ、気になるならお前の分も用意しといてやるよ。
んじゃあ、お前等頼んだぞ?くれぐれも魔族だってバレないように気を付けろよ!?」
『はいはい』
「返事は一回で良いんだよ馬鹿共!!」
清宏に怒鳴られた3人は、逃げるように城を飛び出した。
それを見送った清宏は何かに気付いて冷や汗を流す。
「あ・・・もう一つ注意するの忘れてたな」
『ちょっ!待っ・・・きゃぁぁぁぁぁぁっ!!』
城の外からリリとラフタリアの叫び声が聞こえ、清宏は窓からそれを確認する。
城の上空では、竜の姿で飛び立ったペインの背中から振り落とされた2人が落下していく姿が見える。
「あいつ等に、慣性の法則を教えるの忘れてたわ・・・」
湖に着水する寸前でペインに拾われた2人を見ながら、清宏はため息をついた。
「後で文句言われたら嫌だし黙っとこ・・・」
清宏は大きく伸びをして見て見ぬ振りを決め込むと、自分の仕事に戻って行った。
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