第116話 口から産まれたような男、その名は清宏
「あー驚いた・・・」
「一瞬、死を覚悟したわよ・・・」
「申し訳ないのである・・・」
ラフタリアとリリは、ペインの背にもたれ掛かりながらグッタリとしている。
城を発った直後、2人はペインから振り落とされ、危うく湖に叩きつけられる寸前だったのだ。
ペインは、自分のせいで2人が落ちてしまった事で意気消沈し、ゆっくりと飛んでいる。
「あんたは気にしなくて良いわよ。
まさか、いきなりあんな風になるなんて思ってなかったもの・・・でも、今思えばああなっても不思議じゃないのよね」
「何故かしら?」
ラフタリアの言葉を聞き、リリは首を傾げた。
ペインも気になって振り向いている。
「私達は空が飛べないから、移動手段は徒歩か馬になるでしょ?
馬に乗ってると、走り始めでは身体が後ろに引っ張られるような感覚があるのよ・・・で、逆に止まる時には前に引っ張られる感覚があるの。
まぁ、走り出したら大丈夫なんだけどね・・・」
ラフタリアは身振り手振りを加えながら説明をする。
慣性の法則を知っている訳ではないようだが、今までの経験から、どの様な原理か理解はしているようだ。
「あぁ、確かにそんな感覚はあったわね・・・。
私の場合は移動する時は自分で飛べたから気付かなかったけど、これからは気をつけないとまた同じことが起こりかねないわね」
リリが肩を竦めると、ラフタリアは腕を組んでため息をついた。
「ねえリリ、この事を清宏は知ってたと思う?」
「さぁ?知ってたんじゃない?」
「確かに清宏なら知ってそうであるな・・・だが、仮に知っていたなら何故黙っていたのである?」
「あいつの事だから、たんに忘れてたか慌てふためく私達を笑う為かしらね・・・」
ラフタリアが苦笑しながら答えると、リリは首を振ってそれを否定した。
「忘れてた可能性はあるけど、清宏はわざわざ笑うためだけに教えないような奴じゃないわよ?
少なくとも、あいつは私達の事を気にかけてるわ・・・危険な目に遭わせてまで笑いたいって考えるような奴じゃないのは確かよ」
リリが真面目に答えると、ラフタリアは小さく笑い、リリの肩を軽く叩いた。
「分かってるって、冗談よ!私はあいつとの付き合いは長くないけど、それでも少しは理解してるつもりよ?」
「まぁ、確かに奴が怒るのは仲間に関わる事が多い気がするのである・・・我輩の盗み食いもしかりであるな」
リリは2人の言葉を聞いて安心すると、全身を伸ばして寝転んだ。
「まぁ、言い忘れてたって事にしときましょ?
あいつだって失敗はするわよ・・・むしろ、見えないところで私達よりも失敗してるもの」
「やけにあいつの肩を持つわね・・・まさか惚れてる?」
ラフタリアの問いに対し、リリは無言で顔をしかめて答える。
ラフタリアはそれで理解したらしく、リリと同じように寝転んだ。
「アンネは、あんなのの何が良くて好きになったのかしらねー・・・本当、理解に苦しむわ。
それより、帰ったら清宏を問い詰めてやらないと・・・仮に忘れてたとしても、危ない目にあったんだから謝罪を要求してやるわ!」
ラフタリアは拳を振り上げて宣言してリリを見た。
「ねぇ、清宏が私達に謝るか賭けをしない?私は、あいつがシラを切る方に全財産を賭けるわ!!」
「おっ、我輩もシラを切るに金塊を賭けるのである!!」
「そんなの賭けが成立しないじゃない・・・仕方ないわね、私は謝る方に賭けてあげるわ。
でも、私が負けてもあげられる物なんて持ってないわよ?」
「そんなの別に良いわよ!謝るか謝らないかが問題なのよ!!」
「はいはい・・・でも、あいつを問い詰めるなら覚悟しときなさいよ?あいつは口から産まれたんじゃないかってくらいに口がよく回るし、何より機転が利くから、気をつけておかないと最終的に言い包められるわよ」
ラフタリアはリリの忠告を聞き、その光景を思い浮かべて肩を落とした。
現状、リリス達の中で、清宏に口で勝てる者は誰も居ない・・・直情的なラフタリアではまず勝てないだろう。
「あーぁ、何かあいつを見返してやりたいわねー・・・負けっぱなしは癪だわ。
ねぇペイン、さっきから思ってたんだけどさ、もうちょっと速く飛んでみたら?」
「むぅ・・・だが、それではまた2人が落ちるかもしれないのである」
ラフタリアの提案を受けたペインは渋った。
ペインも、2人を気遣う程には親しみを感じているようだ。
だが、空を飛んでいるとは言え、今の速度は全力の半分にも満たない・・・これでは時間がかかるのも確かだ。
ペインが唸っていると、リリが身体を起こして顔を覗き込んだ。
「ねぇ、貴女は獲物を捕らえた時にはどうやって運んでいたのかしら?
いくら魔法で重量を軽減していたとしても、運んでいる最中に揺れていたら飛ぶのに邪魔じゃないかしら?」
「ん?そう言えば、確かに邪魔だったのであるな・・・だから、揺れを軽減するように工夫はしていたのである」
「なら、それを応用出来ないかしら?」
ペインはリリに振り返り、少し迷って頷いた。
「分かったのである・・・だが、もしもの時の為にしっかりと掴まっているのであるぞ?」
リリが頷いたのを確認したペインは、徐々に速度を上げていく。
風の魔法で抵抗を抑えているため、速度を上げてもリリ達は大丈夫なようだ。
どんどん加速していくペインの背の上で、リリ達は頷き合う。
これならば、身体が後ろに持って行かれる心配は無さそうだ。
「ペイン、こっちは大丈夫よ!あとは止まる時に気を付けて!!」
「おお!ならば、さらに速度を上げて行くのである!!」
ペインは得意げに笑うと、先程までの遅れを取り戻すため、さらに加速した。
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