第113話 ちょろイン

 清宏達は夕飯を食べつつ、ペインに任せる仕事について話しを始めた。

 先程まで揉みくちゃにされていたリリスは会話には参加せず、シスの膝の上に抱かれながら手ずから夕飯を食べさせて貰っている。

 側から見れば羨ましい状況ではあるのだが、リリスは死んだ魚のような虚ろな目をしており、ただ機械のように口に運ばれてくる料理を食している。

 ご満悦なシスを見てため息をついた清宏は、アルトリウスとペインに向き直る。


 「空を飛ぶのが得意だと言ってたよな、速度はどの位で、距離はどの程度の範囲まで行けるんだ?」


 「むぅ・・・速度は正直分からんのであるが、距離は体力の続く限り何処まででも大丈夫であるな。

 少し前までなら、休みながら飛んでこの国から東端の国まで2日程であったが、今なら半日もあれば十分であるな・・・その代わり腹の減り方が尋常では無いため、正直やりたくは無いのである。

 まぁ、それが出来るようになったのは最近になってからであるが・・・」


 「どういう意味だ?」


 意味深に答えたペインを見て、清宏は首を傾げた。

 ペインは小さく笑うと、ラフタリアを指差す。


 「ラフタリアが使っておった貴様の弓の能力を見てな、その仕組みを我輩なりに流用したのである。

 貴様は風の魔石を組み込む事で、矢を放つ際に風を纏わせていたであろう?

 その結果、あの弓で放つ矢は恐ろしく速く、そして飛距離を格段に伸ばしているのである。

 我輩はラフタリアと別れた後、試しに風を纏って飛んでみたのであるが、今までとは比較にならぬ程に速くなり、更に距離も伸びたのである」


 「空気抵抗が無くなったから速くなったって事か・・・。

 確か、馬で東端の国に行くにはだいたい1年位だとラフタリアが言ってたな・・・それを約半日で行けるって事は速さ的にはどの位だ?

 陸路は道に沿って行かなきゃならない分時間が掛かるし、馬は常歩で1日にだいたい50〜60km、調子が良くて80km位進むらしいから、60kmを基準として考えれば、1年なら約22000kmだな。

 空を飛べば最短距離を行けるから目的地まで早く着くのは当然だが、それを約半日か・・・直線距離が分からんからなんとも言えないが、半分の距離で計算したとすれば、速いと言っても飛行機の最高速度より上って位かな・・・って、どうした?俺の手元に何かあるのか?」

 

 清宏がメモ用紙で計算をしていると、アルトリウスとペインが興味深気にそれを見て呆れていた。


 「いえ、清宏様の計算が早かったもので・・・」


 「であるな・・・」


 「いや、この位は普通だろ・・・掛け算で馬で1年間に進める距離を計算して、導き出した距離を半分にしてから半日で割っただけなんだからさ。

 まぁ、実際に直線距離が分からないとなんとも言えないけどな・・・それさえ分かれば、ちゃんとした速度も割り出せるぞ?

 計算なんて、ちゃんとした数字が解れば、あとは公式に当てはめりゃあ基本なんでも解けるからな。

 向こうの世界なんざ因数分解やら何やらさらに面倒だったけど、こっちじゃそんなもん使わんし楽な方だよ」


 「因数分解とは?」


 「足し算・引き算で表されている数式を、掛け算の形に変形する事だよ・・・」


 「何故その様な面倒な事を・・・」


 「それが俺にとっても最大の謎なんだわ・・・基本的に、社会に出たら使わんのにな!」


 清宏達は肩を竦めると、両の手の平で頬を叩いて気持ちを切り替えた。


 「さてと、次はどの位の重さや大きさまで運べるか聞きたいんだが、どんな感じだ?」


 「我輩と同程度ならば、飛行を阻害せずに運べるのであるぞ?」


 「そりゃあ凄いな・・・何か理由があるのか?」


 「うむ、食料を運ぶ時などには咥えて飛ばねばならぬのだが、獲物の重量を軽減するための魔法を使う事で飛行可能にするのである。

 まぁ、自身の重量より重い物は不可能であるが、かなり便利であるぞ!」


 「ふむふむ・・・馬で1年かかる距離を半日で移動出来て、さらに自分と同じ重さまで運べるのか・・・よし、だいたいは決まったな!」


 清宏は手を叩いて笑顔でペインを見る。

 すると、ペインは何かに気付いて顔を痙攣らせた。


 「我輩に何をさせようと考えているのか、だいたいの想像は出来るのであるが、一応聞いておくのである・・・」


 「・・・運び屋」


 「やっぱりね!だと思ったのである!!」


 ペインがあからさまに嫌そうな顔をして席を立とうとしたため、清宏はすかさず鎖で縛り付けた。


 「まぁまぁ、話は最後まで聞いてくれよ・・・別にな、俺は毎日遠くまで行ってくれって言う訳じゃないんだよ。

 例えば離れた場所に居る人に急用が出来てすぐに会わなきゃならない時とか、団体の客を招く時なんかにお前に運んで欲しいんだ。

 それ以外にも、この国では手に入りにくい食材・・・例えば砂糖とか米、調味料なんかの買い出しに行く時にも、お前が一緒に行ってくれれば今まで以上に美味い飯を食わせてやれるんだぞ?」


 ペインは食べ物の話になった途端に目を輝かせた。

 清宏は、それを見て不敵に笑った・・・チョロいとでも思っているのだろう。


 「お前がこの仕事を受けてくれるなら、行った先で美味いものを食わせてやる・・・腹一杯までとは言えないが、うちで出す量よりは多く食わせてやるぞ・・・どうだ、良い話だとは思わないか?

 多人数を収容出来る乗り物は俺が造るし、お前の魔力消費を抑えられる設計にするから、今まで以上に楽に運べるはずだ。

 お前は魔力や体力の消費を抑えられ、さらに美味い飯まで食える。

 そして、俺達は行きたい場所にすぐに行けるし、欲しい食材なんかが簡単に手に入る。

 どうだ、お互いwin-winの関係で行こうじゃないか!!」


 「清宏・・・何と恐ろしくも頼もしい男であるか!?

 我輩、貴様の性格があんなんでなければ、身も心も捧げていたかも知れないのである!!」


 「はっはっは!お前もようやく俺の事を理解してきたようだな!

 安心しろ、お前がしっかりと働く限り約束は必ず守ってやる!!」


 2人は固く握手を交わし、声を上げて笑い出した。

 それを見ていたアルトリウスは、ペインの今後を想像して憐れむようにため息をついた。

 


 


 

 


 

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