第111話 明日からモンスターハンター(食料調達)
シスとアッシュが買い出しに出かけてから2時間程が経った。
普段なら夕飯の時間ではあるのだが、ペインが肉を食い尽くしてしまったため、まだパンと野菜のスープしか出来ていない状況だ。
「さて、どうするかな・・・シス達はどの位で帰ってくるんだろうか」
「今夜は満月でございますから、買い物の時間を考えてもそう遅くはならないかと・・・むしろ、早ければそろそろ帰って来る頃合いかと思います」
清宏の何気ない呟きを聞き、アルトリウスが緑茶を飲みながら答える。
「満月だと何かあるのか?」
「はい、ライカンスロープ・・・特にアッシュの様な狼人は、満月が近付くにつれて力が増し、逆に新月が近付くと弱体化します。
満月の夜の狼人は、普段からは掛け離れた身体能力を有します・・・私も、過去何度となく煮え湯を飲まされました。
ライカンスロープには、獅子や熊などの肉食獣を始め、兎など草食獣の姿を持つ者達が居りますが、狼人程月の満ち欠けに左右される者は珍しいでしょう・・・恐らくその特異な体質は、狼人が他の種族に比べ魔に近しい存在であるからだと思います」
「へぇ、月の満ち欠けねぇ・・・何か聞いた事があるような無いような。
お前は、満月の夜のアッシュと戦って勝つ自信はあるか?」
清宏に尋ねられアルトリウスは少し考え込んだが、苦笑しながら首を振った。
「奴とは何度か手合わせをいたしましたが、今戦ったとしても、恐らく勝敗を決するには至らないかと・・・。
一撃でも入れられたなら確実に勝てます・・・ですが、そもそも奴の動きを目で追える自信がありません。
吸血鬼とは人間が闇に堕ちた先の存在であり、強大な魔力により身体が強化されております・・・単純な話、他者の血と魔力を吸い上げる以外は、ただ頑強で力が強いのです。
ですが、狼人の場合は獣と人の両方の特性を合わせ持っております・・・獣の本能と身体能力、人の知識や技術などです。
彼等は、強大な魔力で人の肉体を強化している我々とは違い、限られた魔力で個々の能力を強化して戦います・・・獅子や熊なら膂力、狼人の場合は脚力と言ったところでしょうか。
狼人は、満月の夜にはさらに強化されますから、その素早さは驚異的でございます・・・それこそ、風の如く縦横無尽に駆け回ります」
「はぁー・・・狼人て地味な種族かと思ってたが、結構ヤバめなんだな」
「えぇ・・・ですが、勝つ方法が無い訳ではございません」
関心したように頷いている清宏を見て、笑いながらアルトリウスは答える。
「どうすんだよ?」
「持久戦に持ち込むのですよ。
いくら満月だったとしても、個々の魔力には限界がありますから、魔力が切れて弱体化するまでひたすら防御に適するのです。
実際、人間の冒険者達も同じ戦法を用いるようですし、効果的ではあります・・・まぁ、私は流儀に反するのでやりたくはありませんが」
珍しく戯けた表情をしたアルトリウスを見て、清宏は釣られて笑い出す。
「まぁ、その方がお前らしいな・・・冗談を言うなんて珍しいじゃないか?」
「私もここの生活に染まってしまった証拠でしょうな。
アッシュはまだ迷っているようですが、奴はあれで律儀な男です・・・何も言わず出て行く様な事はしないでしょう。
なにせ、奴は満月の夜の戦闘は、自身の力ではないと言って避けるような男ですからな」
「硬派だねぇ・・・ますます気に入った!
だが、あまり俺から誘うのはなぁ・・・押しつけがましいから避けたいんだよな」
「ならば、私からもそれとなく話しておきましょう・・・奴は戦力としても申し分ありませんから」
2人がアッシュの今後について話しをしていると、ローエンとグレンがやって来た。
「なんだか盛り上がってるな?
すまないが、ちょっと話があるんだが構わないか?」
ローエンとグレンは椅子に腰掛けると、広間の隅でもじもじとしているペインを見て話し始めた。
「あのよ・・・あの後ペインと飯について話したんだが、良かったら明日から1日に1回だけで良いから狩りに行ったらダメか?
この辺にはそこまで多くはないんだが、確か城からさらに奥に入った所なら大型の魔物や魔獣なんかが居たはずなんだよ。
そいつらをペインに狩らせればこの辺の治安も良くなるし、あいつも腹を満たせるしで一石二鳥だと思うんだよ」
「俺達も、ここで侵入者達の相手をしてるだけだと鈍っちまうし、あいつが一緒なら百人力だ。
素材を持ち帰れば、ダンナも魔道具なんかに役立てられるんじゃないか?」
2人は真面目な表情で提案をし、それを聞いた清宏がアルトリウスを見ると目が合った。
「私は良い提案だと思います。
食材を購入して奴の腹を満たすとなれば、かなりの出費となりましょう。
それに飛竜などが居た場合、ローエン殿達の腕を磨くにも最適かと思います。
奴が居れば危険な目に遭う事など無いでしょうし、清宏様の武具があれば飛竜に遅れを取る事は有り得ないでしょうからな」
清宏はアルトリウスが承諾したのを見てペインを手招いた。
ペインは恐る恐る近づき、ローエン達の背後に隠れるように立った・・・先程怒られたのが余程堪えているようだ。
「ふむ・・・調理しなくて良いって条件なら別に良いぞ?
魔物や魔獣の調理法なんか知らんし、何よりお前の腹を満たすだけの量となると調味料がいくらあっても足りないからな・・・それでも良いか?」
「お、おぉ!それで良いのである!!
それに、鹿や猪などの人間が食せる獣は食わずに持ってくるのである!!」
ペインは清宏の言葉を聞いて嬉しそうに飛び跳ねた・・・たわわに実った胸が上下に揺れている。
ローエンとグレンはそれをガン見し、清宏は呆れながら苦笑した。
「あぁ、そりゃ良いな・・・だが、間違っても獲り過ぎるなよ、生態系を守るのも大事だからな。
それと、肉の調達以外にもお前に何か仕事をさせたいんだが、何か得意なことってあるか?」
清宏に尋ねられ、ペインは腕を組んでしばらく考え込む。
「うーむ・・・戦う事以外は、飛ぶ事くらいであるな!」
「大雑把だなおい・・・まず戦闘についてだが、やっぱりお前が得意な属性は火属性なのか?」
「いや、火属性なら基本的な竜種は皆使えるのである・・・まぁ、例外として水竜など他の属性に特化した者もいるのであるが。
我輩は、火よりも雷が得意なようである・・・まぁ、何故か制御が出来なくなっているのであるが・・・」
ペインは徐々に落ち込み、肩を竦めた。
「原因は分からないのか?」
「うむ・・・使えた記憶はあるのであるが、久しぶりに使おうとしたら大変な事になったので、それ以降使ってないのである」
「どうなったんだよ?」
清宏が聞き返すと、ペインは目を逸らした。
「その・・・大陸中央部は昔は緑に恵まれた土地だったのであるが、我輩が試しに使った技で消し飛び、今は砂漠になっているのである・・・」
「はぁ!?あそこは国が2つも入るくらいデカイんだぞ!!?
そこを消し飛ばしたってどんだけだよ!!」
ローエンとグレンは慌てて立ち上がり、ペインに怒鳴った。
怒鳴られたペインは縮こまり、頭を抱えている。
「ここでは絶対に使うなよ・・・」
「あれ以来使ってないので大丈夫である・・・。
流石の我輩も、あれは無いなと後悔しているのであるよ・・・」
清宏に釘を刺され、ペインは乾いた笑いをしながら呟いた。
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