第110話 信賞必罰

 ペインが気絶している間に、清宏はオリハルコン製の鎖で亀甲縛りにして天井から吊るし、口には鎖同様にオリハルコン製のギャグボール、さらには鼻フックを着けて目覚めるのを待っていた。

 周りにいた者達は皆、ペインの受けている仕打ちを憐れみの表情で見ている。


 「ヤベェな・・・ここまでされちゃあ、折角の美女が台無しだ」


 「まぁ、やり過ぎなくらいじゃなきゃ、こいつは聞かないだろうからな・・・」


 ローエンとグレンは、苦笑しながらペインを突いた。

 すると、それに気付いたのか、ペインが目を覚まして自分の状況を把握し暴れ出した。

 鎖に繋がれたペインは、ブランコのように勢いよく空中で揺れていたが、清宏によって強制的に止められた。

 清宏と目が合い、ペインは冷や汗を流す。


 「おい・・・自分が何故こんな目に遭っているかわかるか?」


 「んぐむむむむ!」


 ペインは何か言っているようだが、ギャグボールを着けられているため何を言っているのかは分からない。

 ただ、その表情からは言い訳をしているようにも見える。


 「豚が豚以外の言葉で鳴くんじゃねぇよ豚!!」


 清宏はペインに平手打ちをし、もう一度ペインの顔を覗いた。

 清宏の目を見たペインは、涙目で震えているようだ。


 「お主が何故と聞いた癖に、理不尽極まりないのう・・・清宏よ、ちっとばかしやり過ぎじゃ。

 ペインも今後はせんじゃろうし許してやったらどうじゃ?

 其奴には、大きな借りがあるしの・・・」


 リリスに窘められた清宏は、舌打ちをして憎々しげにペインを見ている。


 「2度も3度もあってたまるかよ!それに、借りがあったら許すのか!?

 俺はな、人の上に立つには信賞必罰が最も重要だと思ってんだよ!

 確かにこいつには城の建て替えで世話になった・・・だがな、それを理由に何でも許してちゃあ、今後こいつが何をやろうと罰せなくなんだろうが!

 それで他の奴等が納得するのか?幼いせいでたいした貢献が出来ていないアリーや、猫のオスカーがそれを見たらどう思う!?

 こいつに借りがあるからと言って罰せず、あいつ等が何かやらかした時には罰を与えろとでも言うのか!!」


 清宏に怒鳴られリリスは身体を強張らせたが、ため息をついて腕を組んだ。


 「お主が言っておることは最もじゃ・・・だが、やり過ぎは良くない。

 そんな怯えた奴に何を言ったとて、まともに耳には入らんじゃろう?

 まずはペインを落ち着かせ、話を聞ける状態にしてからじゃ!ほれ、鎖を解いてやれ!」


 「ちっ・・・わかったよ。

 おい、逃げようとするなよ?もし逃げたら、これまで以上の屈辱を味あわせてやるからな・・・」


 リリスに従って鎖を解いた清宏は、ペインの耳元で囁いた。

 ペインは首がもげそうな勢いで頷き、ギャグボールを外されると、安堵のため息をついた。


 「清宏よ、一から説明してやれ・・・」


 「あぁ・・・おいペイン、お前は今回やったらいけない事をした・・・それが何か分かるか?」


 「分からんのである・・・貴様に投げられ、気が付いたら縛られていたのである・・・」


 「ほれ、全く理解しておらんかったではないか・・・」

 

 リリスがそれ見たことかと呟くと、清宏は大きなため息をついて頭を掻いた。


 「盗み食いだよ・・・しかも、肉ばかりだ。

 腹が減ったなら、俺やレイス、アンネに言えば良いものを、何故盗み食いなんかしたんだ・・・。

 別に、腹が減る事を責めやしない・・・お前は元がデカイから燃費が悪いのも分かる。

 だがな、お前が肉ばかり盗み食いしたせいで、他の奴等にまで迷惑かかってんだよ。

 人間は飯を食わにゃ生きていけない・・・アルトリウスやアンネ、リリ達にとっても、本来の栄養摂取方法じゃないから、魔石と飯が無けりゃ死活問題だ。

 俺は別に良いんだよ・・・多少食わなくても死にゃあしないし、我慢も出来る。

 だが、ローエンとグレンには真っ先に食わしてやらなきゃならないんだよ・・・うちで一番疲れる仕事をやってくれてるのは、あの2人だからな。

 城に入ってきた冒険者達を引き付けて罠に誘導し、必要とあれば戦闘もこなさなきゃならない・・・食事が野菜ばかりじゃ力が出ないだろ?

 お前には城の礼として、他の奴等の倍以上の飯を用意している・・・だが、足りないなら言ってくれなきゃ分からねーんだよ。

 もしお前が盗み食いを続けて、あの2人に何かあったらどうする・・・何かあってからじゃ遅んだ。

 さっきみたいに馬鹿やってられなくなるかも知れないぞ?」


 清宏の話を大人しく聞いていたペインは、自分の仕出かした事の意味を理解して項垂れる。


 「ダンナ、意外と俺達の事を気にかけてたんだな・・・」


 「あぁ・・・正直これだけ持ち上げられると、どう落とされるのか不安になるな」


 「やかましいぞお前等・・・お望みなら今から徹底的に落としてやろうか?」


 ローエンとグレンの呟きを聞き、清宏が笑顔で尋ねると、2人は素早くアルトリウスの背後に隠れた。

 盾にされたアルトリウスは苦笑すると、清宏を見た。


 「清宏様、ペインも今後は気を付ける事でございましょう・・・私も、人間との共同生活には慣れるのに時間を要しました。

 理解はしていても、やはり内心では落ち着かぬのです・・・其奴も私も、元々は馴れ合いを好まぬ身、しばらく時間を与えてはどうでしょう?」


 アルトリウスに提案され、清宏は渋々と頷いてペインを見る。


 「お前にそう言われると断りにくいな・・・分かったよ。

 おいペイン、皆んなに感謝しろよ?

 俺だってあからさまに怒りたくはねーんだ・・・お前が与えられた仕事で失敗しようが、それが一生懸命やった結果なら、俺は別にあそこまで怒りはしない。

 失敗は誰にでもあるし、その時にフォローするのが俺の役目だ。

 俺は、全力が10の奴が8頑張ったなら評価するが、20の奴が10しかやらないのは絶対に許さん。

 それぞれ今出来る自分の限界の中で頑張っているなら、俺は個人差を考慮して評価する。

 だが、今回のはお前の盗み食いが原因で皆に迷惑がかかった・・・お前の空腹を満たすためだけに他に迷惑かけちゃいかんだろ?それが、例え城の建て替えに貢献したとしてもだ。

 取り敢えずお前の食料事情に関しても今後の課題としておくから、それで納得するならこれから頑張れ」


 「我輩・・・許されたのであるか?」


 ペインはキョトンとした表情で周りを見渡す。


 「アッシュとシスにも後で謝れよ。

 今回一番迷惑かけたんだからな・・・」


 「お、おぉ!承知したのである!!

 だが、こうも簡単に許されてしまうと、何かあるのではと思ってしまうのである・・・我輩をからかっている訳ではないのであるか?」


 「拳骨を喰らいたいなら別に続けても良いぞ?」


 「ぜ、全力で辞退するのである・・・今後は気をつけるので許して欲しいのである!!」


 「全く、余計な事を言うから怒られると言うのに・・・」


 全力で逃げ出したペインを見てリリスは呆れて呟いたが、周りの者達は皆、内心では『それをお前が言うな』と思っていた。

 

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