第109話 インガオホー

 オーリック達が王都で面倒ごとに巻き込まれている事など露知らず、清宏達は完成したばかりの魔王城の最終確認を終え、今は数日ぶりにゆっくりとした時間を過ごしている。


 「清宏よ、城の名前は何とかならんのか・・・げっ」


 リリスは不満気な表情をしつつ、清宏の持っている数枚のカードから1枚引き抜いて顔をしかめた。

 清宏達はつい先程風呂を済ませ、夕飯までの時間を思い思いに過ごしているのだが、清宏、リリス、アルトリウス、ラフタリアの4人はババ抜きの真っ最中だ。

 清宏は数日間働き詰めだったため、食事の支度は今日までアンネとレイスに任せているようだ。


 「良いじゃねーか風雲リリス城で・・・お前さ、すぐに顔に出す癖治せよな。

 誰が見てもババ引いたって分かっちまうだろ?」


 顔をしかめたリリスを見て、清宏は呆れながら答えた・・・アルトリウスとラフタリアも苦笑しているようだ。

 リリスは性格のせいか、勝負事には滅法弱い。

 すぐに顔に出てしまうため、他の者達にバレバレなのだ。

 今やっているババ抜きも、顔に出てしまうリリスを憐れみ、アルトリウスがワザとババを引いて場を回している状態なのだが、結局は清宏の策にハマって、ババはリリスの元に戻っていく。

 リリスが通算5回目のババを引いたその時、レイスが近づいて来た。


 「清宏様、少々お時間をいただけませんか?」


 レイスは流暢な言葉で清宏に話しかけた。

 最初こそノイズ混じりの声だったレイスだが、最近は魔道具が安定してきたらしく、澄んだ声で話せるようになっている。


 「どうした、夕飯の支度が終わったのか?」


 「その件なのですが、問題がありまして・・・」


 清宏はレイスの深刻そうな声を聞いて頷くと、テーブルにトランプを置いて席を立ち、皆から少し離れた。


 「なんかさー・・・最近、レイスに避けられてるような気がするんだよね・・・」


 清宏が抜けた事でババ抜きがお開きになり、ラフタリアは離れて話し込んでいるレイスを見て愚痴をこぼした。


 「そうか?妾にはそうは見えんが・・・」


 「えぇ、私もその様には感じません」


 リリスとアルトリウスが首を傾げると、ラフタリアは頬杖をついてむくれた。


 「皆んなと一緒の時は良いのよ・・・でも、2人きりになってくれないと言うか何と言うか、距離を感じるのよねー。

 私、彼女の気に障るような事何かしたかしら・・・」


 「元々あやつは口数も少なく、皆から距離を置いておるからな・・・直接何と言われた訳でないなら気にせんでも良いじゃろ。

 それより、何か問題かのう・・・何ぞ清宏の表情が硬いのう」


 リリスがぼんやりと清宏を見ていると、厨房からアンネとアッシュが現れ、清宏達に合流した。

 清宏は2人からも話を聞くと、頭を抱えた。


 「アッシュ、間違いないか?」


 「俺の鼻をナメんな!少なくとも、あんた達以外で一番新しい匂いはあいつだったぜ・・・」


 「そうか、お前を信じよう・・・」


 清宏が腕を組んで頷くと、アッシュは意外そうな表情をした。


 「案外すんなり信じるんだな・・・俺を疑わないのか?」


 「当然だろ?うちで一番鼻が効くのはお前だし、お前は嘘をつく奴じゃあない。

 お前はあんな事をするくらいなら、我慢するだろ」


 「そうか・・・」


 清宏の言葉を聞いたアッシュは、照れ隠しにそっぽを向いた。

 ここ数日でアッシュも慣れて来たらしく、召喚された時よりも協力的になっている。

 城の工事の間も、出された指示を忠実にこなし、貢献していた。

 清宏はそんなアッシュを見て小さく笑うと、広間の中央でローエン達と悪ふざけをしている人物を見てため息をついた。


 「アッシュ、悪いが今からシスと一緒に街に買い出しを頼む。

 このままじゃ次の買い出しまで保たないからな・・・」


 「・・・ったく、仕方ねぇなぁ」


 アッシュは清宏の頼みを渋々了承すると、アリーと遊んでいたシスに詳細を話し買い出しに向かった。

 清宏はと言うと、拳を鳴らしながら広間の中央に歩いていく。

 そして、ある人物の背後で立ち止まり、抱き着いた。


 「おっと・・・何であるかいきなり?

 何だ、貴様であったか・・・いくら我輩が魅力的なバデーだからと言って抱き着くとは、我輩も罪な存在であるな!

 む・・・何故腕を交差させるのであるか?」

 

 清宏が背後から抱き着いたのはペインだったようだ。

 ペインは訳が分からず笑っているが、周りにいたローエンとグレンは何かを察知して距離を取った。

 ペインに抱き着いた清宏は、その状態からペインの腕を交差して手で掴む。

 そして次の瞬間、清宏はペインの足の間に顔を突っ込み肩車の体勢になった。


 「なっ!?いきなり我輩の股座に顔を突っ込むとは何たる破廉恥な奴であるか!!

 我輩は、貴様に心と身体を捧げたつもりはないのでああああああああ!!?」


 清宏は怒り心頭のペインを無視すると、腕を封じたまま、肩車の状態から仰け反り、大理石の床に叩きつけた。

 それは、見事なジャパニーズオーシャン・サイクロン・スープレックスホールドだった。


 「あべし!?」


 「肉ばっかり盗み食いしてんじゃねーぞ馬鹿野朗!!食うなら好き嫌いせずに野菜も食え!!」


 ペインを床に叩きつけた清宏は、ペインが気絶しているのにも構わず怒鳴りちらして尻を蹴り上げた。

 


 


 


 

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