第104話 元暗殺者
オライオン達は目立たぬように変装をしてから城を出ると、閑静な住宅街を抜けた先にある古い屋敷の近くまでやって来た。
物陰に隠れて屋敷を見ると、門の前にガラの悪い男が2人立っているのが見える。
男達は見張りのようだが、欠伸をしているところを見るとあまり乗り気ではないようだ。
現在、オライオンと共にいるのはオーリック一向にだけだ。
サンダラーは数人の部下を連れて、裏門の偵察に行っている。
「さて、サンダラーが戻るまで少し時間がある。
その間、中の様子を伺ってみようではないか?」
オライオンは笑いながら懐に手を入れると、清宏特製の小型通信機を取り出した。
「それは・・・もしや、片方は先程仰っていた内通者に渡してらっしゃるのですか?」
「うむ、それにしても良いタイミングで素晴らしい物を持って来てくれた・・・これさえあれば、マグラー達が何を企んでいるかが手に取るようにわかる。
まぁ、盗聴に使用するのはいささか趣味が悪いとは思うがな!」
オライオンはオーリックに答えながら、手に持っていた通信機に魔力を込める。
すると、若干小さな音ではあるが、人の声が聞こえてきた。
『それにしても、まさか偽の手紙を用意してすり替えるとは流石ですなマグラー卿?
いったいどの様にしてすり替えられたのですか?』
『なに、オーリック達の仲間にシーフが居たであろう?
奴の借金を肩代わりする条件ですり替えさせたのよ・・・まさか、オーリック達も仲間に裏切られるなどとは思いもしなかったであろうな。
それにしても、あのリンクスとか言う女・・・家族の命よりも仲間の方が大事なようだ。
まぁ、偽の手紙の件もある・・・どの道オーリック共々近いうちに処罰を受けるであろう。
奴の家族にはまだ使い道がある、私にとっては奴がオライオンを襲おうが襲うまいがどちらに転んでも損はせんからな』
『マグラー卿、オライオンはどうするつもりでしょうか・・・まさか、魔王討伐を断念する事などないでしょうか?』
『それについても手筈は整っておるから心配には及ばん・・・仮にオライオンが魔王の提案に乗るだのと言い出したとしても、民を焚き付けるなど造作もない事よ。
奴は、魔王の理不尽な要求を受け入れる臆病者だとでも噂を流せば、後は我々が何もせずとも勝手に広がる・・・全ての民が信じるかどうかなどどうでも良いのだ。
噂が広がりさえすれば、徐々にでも奴に対する不信感は増していく・・・我々が動くとすればそれからだ。
民を味方につけさえすれば、奴を恐れる事などないのだからな!』
マグラー達は、盗聴されているとも知らずに愉快そうに談笑している。
それを聞いていたオライオンは、小刻みに身体を震わせていた・・・ただ、その表情は怒っているのではなく、笑っているようだ。
「聞いたかオーリックよ、ここまで見事な悪役などそうは居ないとは思わんか?
奴等の悔しがる表情を想像しただけでも、今から笑いが込み上げて来る!
えぇい、サンダラーはまだ戻って来んのか!?」
「陛下、少々お静かに願えますか?
見張りにバレてしまっては元も子もないと思うのですが・・・」
テンションの上がって来たオライオンに、オーリックはため息をつきながら窘めた。
「楽しそうですわね・・・」
「あぁ・・・何だか、家族を拐われて怒っていた私が馬鹿らしく感じる程に楽しそうだな」
「・・・だからさっき言ったろ?」
今にも飛び出して行きそうなオライオンを見て、ルミネとリンクスは心底呆れ、ジルは面倒臭そうに欠伸をして呟いた。
すると、オライオン達の背後から数人の足音が聞こえそちらを見ると、サンダラーが部下を連れて戻って来たところだった。
サンダラーは戻ってくるなり、オライオンを見て顔をしかめる。
「陛下、只今戻りました・・・どうしたんです?
あ・・・また何か妙な事を考えてるんじゃないでしょうね?
今日くらいは面倒事をは勘弁してくださいよ?」
「相変わらず口の減らん男だ・・・それより、裏はどうであった?」
「表と変わりませんな・・・まぁ、塀の中がどうなっているかは入ってみないと何とも・・・。
どっちから行っても同じなら、正面からの方が私好みではありますが」
「そうか、ならば正面から行くとするか。
だがその前に、見張りを倒し門を開けねばならん・・・サンダラーよ、あの剣は持って来ているか?」
「そりゃあ勿論・・・げっ・・・嫌ですよ面倒臭い!あの剣使うと疲れるんですから!」
オライオンの言葉の意味を理解したサンダラーは慌てて首を振るが、オライオンはじっと見つめたまま動かない。
「サンダラー団長、あの剣とは・・・?」
オーリックが尋ねると、サンダラーはバツが悪そうに頭を掻いてオライオンを見た。
すると、オライオンは無言で頷いた。
「まぁ、陛下の許しも出たしぶっちゃけるとな、俺は近衛騎士になる前は暗殺を生業としたはぐれ者だったんだよ・・・。
俺は元々陛下を暗殺するためにこの国に来たんだがな、それがもうこの爺は強いのなんのって・・・サシの勝負で敗けたのなんか生まれて初めてだったからへこんだぜ・・・しかも、何故か俺の事気に入ってスカウトしてくるしな・・・。
で、こいつが暗殺者時代から使ってる剣なんだが、魔力消費が激し過ぎて長時間は使えないんだよ・・・」
サンダラーは自分の昔話を交えながら、アイテムボックスから刃の付いていない剣の柄を取り出す。
その剣を見たオーリック達は、何かに気付いたようにジルを振り向いた。
「ジル、貴方が清宏さんから貰ったナイフも似たような物でしたわよね?」
「あぁ、だけど俺が貰ったのには鞘があるぜ?」
「えっ・・・お前武器なんか貰ったのか羨ましい!俺にも見せろ!」
ジルがナイフを取り出した瞬間、サンダラーは目にも留まらぬ速さでそれを奪い取って物色し始めた。
反応出来なかったジルは悔しそうに舌打ちをしていじけている。
「ほぅほぅ・・・ふむふむ・・・鞘を持ってる人間にしか刃が見えない仕組みか・・・良いなこれ!
陛下、俺の剣よりこっちの方が良いと思いますがどうでしょう?」
「ふむ・・・ジルよ、しばらくこのナイフをサンダラーに貸してやってはくれぬか?」
オライオンに頼まれ、ジルは深いため息をつきながら涙目でそっぽを向く。
「どうせ、俺が嫌って言っても聞かないんでしょーが・・・その代わり、絶対に大事に扱ってくださいよ!壊したりしたら弁償させますからね!!」
「任せとけって、お前より刃物の扱いには自信があるんだからよ。
オーリック、すまないが俺の剣についてはまたの機会に話してやるよ。
んじゃまぁ、見張りを排除した後に中もちょっと調べてきますよ」
サンダラーはアイテムボックスからフード付きの黒いマントを取り出して羽織り、魔力を込める。
すると、徐々にサンダラーの身体が透けていき、完全に姿が見えなくなった。
「これで完全に気配まで消されたら、たまったもんじゃねーな・・・流石は元暗殺専門ってところだわ」
「あのマントもその頃の私物だろうか・・・ただでさえ剣の腕も立つのに、あの様な装備で来られたら確実に全滅するな。
正直、デスストーカーよりタチが悪い・・・」
ジルとオーリックが呆れながら門を見ていると、見張りの男達の首が音も無く切断され宙を舞った。
「本当、デスストーカー相手の方が確実に楽ですわね・・・」
「あぁ、もしあんなのに敵に回られたらと思うとゾッとするな・・・」
「其方達は相変わらず辛辣だな、いくらなんでも魔物と一緒にするでない・・・」
オライオンは、暗闇に溶け込み人間を襲う、影のような半透明の魔物を思い出しながら苦笑した。
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