第103話 それぞれの役割
「パラスよ・・・其方は騎士団と冒険者、どちらがより優れていると思う?」
「それは騎士団でございます!」
オライオンの質問にパラスは自信満々に答えた。
だが、その答えを聞いたオライオンは首を振り、改めてパラスを見る。
「ふむ・・・其方が騎士団に誇りを持っているのは実に喜ばしい事ではあるが、余はどちらがより優れているという事は無いと思っておる。
騎士団が優れているというならば、何故冒険者という職業が長い間存在し、必要とされているのかの説明がつかぬであろう?
パラスよ、それについて其方は明確な答えを出すことが出来るか?」
「いえ・・・明確にとなると・・・」
「気付いてしまえばそう難しいものではないのだがな・・・まぁ良い、ならば余の至った答えを聞かせてやろう。
騎士団と冒険者の違い、それは需要であると考えておる。
余はその答えに至るまで、双方の違いについて色々と調べ、考えていた・・・。
まず歴史でいうならば、冒険者の方が遥かに長い・・・それは、騎士団という存在が国が無くては成り立たないからだ。
国とは、一定の地域に人が集まり、そこに定住し、統治機構があってこそ成り立っておる。
騎士団とは、国が出来た後、他の国々や内部の反乱などから領土や民を守る役割を担う軍事組織だ・・・まぁ、近年では魔法や遠距離武器など技術の進歩に伴い、身分を表す為の勲章の様なものに成り下がってはおるが、それでも国の規律を守り、他国からの侵略を防ぐ為にはいまだに必要不可欠な存在だ」
オライオンが一度話を区切ってマグラー側と思われる騎士団長達を見ると、皆複雑そうな表情で俯いている。
それを見たオライオンは、髭を撫でる仕草の陰でニヤリと愉快そうに笑った。
「うわっ、ここぞとばかりに皮肉ブチ込みやがった・・・ほんとに良い性格してるぜまったく」
「ん?何か言ったかね?」
「いーえ、何に言ってませんよ陛下・・・地獄耳かよ・・・」
ボソリと呟いたジルに対しオライオンは笑顔で聞き返したが、ジルは何食わぬ顔でしらを切った。
オライオンはそれを見てため息をつくと、改めてパラスに視線を戻す。
「さて、話の続きをしようか・・・。
次に冒険者についてだが、冒険者とは本来ならばどの組織にも所属せず、誰にでもなる事が出来た。
だが、武器を携帯している者が往来を闊歩し、刃傷沙汰などの騒が起きたためにギルドを設立し、規則を定めた事で現在の形になったのだ。
ただ、それが冒険者が騎士団よりも劣っているという理由にはらぬ・・・それは騎士団と違い、規則はあれど自由があるからだ。
騎士団の場合、厳しい規則や上下の関係など多くのものに縛られる・・・だが、その分国から装備や生活などは保証される。
冒険者の場合、ギルドの定めた規則に従う義務があり、武器や生活に必要な物は全て自身で用意せねばならん・・・だが、実力さえあればオーリック達のように騎士団で支給される装備よりも遥かに優れた物を手に入れる事も可能だ。
騎士団は所属人数が多く費用もかかり、国が装備を支給するからには意識的・実務的・対内外的にも統一する必要がある。
そのため、剣術や槍術に長けた者もそうでない者も皆同じ装備となってしまう・・・まぁ、其方達団長ともなれば一般の団員に比べ良い装備ではあるが、それでもオーリック達上位の冒険者の使用する装備に比べれば格段に劣るのが現実だ・・・。
だが、冒険者は騎士団とは違い少数でパーティを組む事が多く、統率は取りやすいが、装備の充実とは裏腹に個々の負担が増えてしまう。
そして、その違いこそが騎士団と冒険者の需要の違いに繋がっているのだ」
「・・・その違いとはいったい何なのですか?
陛下、勿体ぶらずにお教え下さい!」
痺れを切らしたパラスに急かされたオライオンはオーリックを見る。
「オーリックよ、仮にアルトリウスが魔王に召喚される前だった場合、其方達は勝つ自信はあるか?」
オライオンに尋ねられオーリックはしばらく考え混んだが、仲間の表情を見て複雑な表情で頷いた。
「勝つ事は可能です・・・ただし、それは大きな犠牲を払ってでの事です・・・。
それが前衛である私かカリスか、あるいは脅威となるスキルを持つルミネになるかは分かりませんが・・・」
「では、騎士団ならばどうなると思う?」
「難しいかと・・・装備は勿論のことですが、何より数が多ければ士気にムラが生じます。
そして、最も弱い者から犠牲となり、甚大な被害を受け、一度戦意を失った者の立て直しには時間が掛かります・・・。
我々冒険者は少ない人数ではありますが、その分自分に課せられた役目だけではなく、その他の技能も幅広く習得する必要がありますから、仮に仲間を喪ったとしても人数が少ない分士気の立て直しも容易ですし、何より失った戦力を補う事も可能です。
ただ、我々冒険者にも苦手とするものがございます・・・それは、大多数の敵との戦闘です。
騎士団の場合、逆に単独の相手に対しては相性が悪い・・・特にアルトリウスのように個の戦闘力が高い上位の魔族は、攻撃力も防御力も異常な程に高く、こちらが多人数で攻めるにしても的が小さい事もあり、近接戦闘となればせいぜい5〜6人が限度です・・・それではまず勝ち目が無いでしょう。
騎士団が最も活躍する戦闘・・・それは、他国の軍隊との戦闘、そして大量に発生した下級魔族や魔物との戦闘です。
我々冒険者の場合は、大多数の敵との戦闘は非常に相性が悪いのです・・・確かに装備は充実していますが、圧倒的な物量の前ではそれも長くは保ちません。
それに、他の冒険者達と共に戦うにしても、容易に連携が取れないのです。
これが私なりに考えつく騎士団と冒険者の違いでしょうか・・・」
オーリックがオライオンの目を見ると、オライオンは満足そうに頷いた。
「うむ、その通り・・・余も其方と同じ考えだ。
実際、余がフェンリルを討ち倒したあの戦いの時にも、騎士団はあっという間に壊滅し、冒険者達だけが生き残った・・・。
だが、その後に起きた領土争奪戦では各国の騎士団が猛威を奮い、フェンリルによって滅んだ国は分割された・・・我々冒険者の出る幕など無かったのだ。
よいかパラスよ、報告の内容によれば魔王リリス側の戦力は圧倒的だ・・・余の見立てでは、あのフェンリルにも劣らないであろう。
我々の国は、間違ってもあの国と同じ末路を辿る訳にはいかぬのだ・・・。
今回、余は其方達がマグラーに何と言われてあちらについたかは詮索せぬ・・・だが、これ以上妙な動きを見せる場合は、それ相応の処罰があるものと心得よ」
「なっ・・・!?ぐっ・・・お心遣い感謝いたします・・・」
オライオンに釘を刺され、パラスは歯軋りをしながら渋々と従う。
他の者達も同様に黙って従う他なかった。
「さて、そろそろ良い頃合いであろう?
次はいよいよメインディッシュをいただくとしようか」
「陛下、一体どちらへ行かれるのですか?」
「なぁに、少しばかりな・・・センチュリオンよ、パラス達を見張っておいてはくれぬか?
まぁ、これ以上何かするとは思わぬが、念のためだ・・・」
「仰せのままに」
センチュリオンは恭しく頭を下げると、オライオンとオーリック達を見送った。
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