第102話 騎士団と冒険者と
オライオンが皆に意見を求めて10分程が経過したが、いまだに発言をする者は現れない。
隣に居る者同士でヒソヒソと話をしているようだが、明確な答えを出すには至らないようだ。
すると、センチュリオンが一際大きなため息をついてオライオンを見た。
「陛下、我々は魔王リリスの陣営について詳しくはありません・・・詳細を確認してからお答えしてもよろしいでしょうか?」
それまで目を瞑っていたオライオンは、センチュリオンに尋ねられて頷き、背後に目を向けた。
「ふむ、其方の言葉も最もだ。
だが、余も詳しくは知らんのでな・・・よって、より詳しい者に聞いてみるとするか」
オライオンが合図を出すと、背後に並んでいたオーリック達はフードを取った。
すると、オーリックを見たパラスが慌てて立ち上がった。
「なっ!?何故貴様達がここに!!」
オーリックはパラスには目もくれず、センチュリオンに頭を下げる。
センチュリオンは手を上げて応えると、笑みを浮かべた。
「部屋に入って来てからずっと顔を隠していたからもしやと思っていたが、やはりお前達だったか。
確かに、陛下のおっしゃる通りお前達に聞くのが一番だろう・・・で、向こうの戦力はどの位だ?」
オーリックは頷き、集まっている騎士団の面々に臆する事なく姿勢を正した。
「皆様、ご挨拶が遅れてしまい申し訳ありません・・・我々が知る限りの魔王リリス側の戦力についてご報告いたします。
まず魔王リリスを始め、総数は30名程と数こそ少ないのですが、その中でもサキュバスが21名と大半を占めております。
次に人間の協力者が5名、それぞれがA級の冒険者であり、荒削りではありますが腕は確かです・・・さらに、全員が高性能の魔道具や武具を装備しているため、階級以上の実力を発揮するでしょう。
そして吸血鬼が2名・・・探求者アルトリウスと、その配下の女性です」
オーリックが説明を始め、アルトリウスの名前を出した途端、皆がどよめいた。
今でこそ丸くなっているものの、やはりアルトリウスは悪名高い存在のようだ。
「魔王に加えて探求者か・・・数が少ないとは言え厄介な組み合わせだな。
向こうは確か30名程だったか、ならば他にも居るのだろう?」
「えぇ、後はスケルトン、スライム、アルラウネ、猫又がそれぞれ1体・・・いや、スライムは2体に増殖しました。
そして、魔王リリスの副官である清宏と言う人間です・・・はっきりと申し上げますと、仮に戦を仕掛けるのならば、私はこの副官こそが最も警戒すべき存在だと思っております」
アルトリウスの名を聞いた時以上のどよめきが起きる。
副官が人間である事以上に、アルトリウスよりも厄介であると言う発言に驚いたのだ。
「この副官は、あの探求者を一撃で倒す程の力を持っているだけでなく、我々の想像もつかないような高性能の魔道具を造り出します。
しかもそれだけではなく、あの鉄壁のダンケルクと同じトラップマスターのスキルまで保有しております・・・。
我々は、あのスキルの恐ろしさを身を以て体験しました・・・魔王リリスの情けを受け、彼等に救われなければ我々は全滅していたでしょう。
魔王を討たねば、召喚された配下は死ぬ事はありません・・・よって、探求者が攻め、副官が城を守っている限りは我々に勝ち目は無いと言わざるをえません」
オーリックは報告を終えて下がる。
報告を聞いた者達は皆ため息をつき、唸った。
「オーリックよ、報告ご苦労であった・・・。
さて、今の報告を踏まえて何か意見は無いか?」
オライオンは再度皆に問いかけたが、皆は先程よりも迷っているようだ。
それを見たオライオンは、椅子から立ち上がって皆を見渡した。
「余は、手紙の内容を信じる信じないは別として、無益な争いは避けるのが一番だと思っておる・・・。
討伐のために出兵すれば、いたずらに民衆の不安を煽るであろう。
それに、敵は数が少ないとは言え強大だ・・・兵にもかなりの犠牲が出る事を覚悟せねばなるまい。
そうなれば国は弱体化し、他国に攻め入る隙を与えてしまうだろう・・・。
余は、本当に守るべきは自身の地位や名誉ではなく、ここに集まっている皆を始め、この国で暮らす民であると思っておる・・・魔族だからと言って、頭から悪と決め付けこちらから攻めてしまっては、待っているのは破滅のみだ。
魔王側の提案は我々にとって利のある物だが、あちらにとってはまったく旨味のないの物だ。
だがオーリック達を救い、我々にこうして和睦を持ち掛けて来たのは、彼等にも果たすべき目的があるからであろう。
ならば、まずは彼等の真意を問う席を設けるべきだと思うのだがどうだろうか?」
オライオンが皆に自身の考えを伝えると、パラスを始め数名の騎士団長達が手を挙げ、代表してパラスが遠慮がちに尋ねた。
「陛下・・・お言葉ではありますが、報告を聞く限り、確かに敵は強大であります。
ですが我々には数の利があり、S級の魔族を討伐した経験もございます・・・我々騎士団は、オーリック達S級冒険者にも遅れを取る事はないと自負しております。
それにいくら魔王の配下とは言え、それを理由に尻込みしていては、我々は何のための騎士団かと存在意義にも関わるのではないでしょうか?
さらには、仮に和睦を結んだとして、民が簡単に納得するでしょうか・・・それこそ不安を煽り、反乱を招きかねないかと思いますが」
「うむ、其方の意見も最もだ・・・だがパラスよ、其方は騎士団と冒険者の違いと言うものを理解していないようだ」
「理解していないとはどの様な意味でございましょう・・・?」
「良かろう、ならば余自ら説明してやろうではないか・・・」
形勢不利の状況でありながらもいまだに討伐を考えているパラス達に対し、オライオンは大きく頷いて腕を組んだ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます