第85話家族が増えるよ!やったね清ちゃん!

 清宏は気絶してしまったライカンスロープを肩に担ぐと、壁に背を預けるように座らせて軽く頬を叩いた。

 ライカンスロープは呻き声を上げながら目を覚まし、清宏を見て震えている・・・納豆がトラウマになってしまったらしい。


 「いいか、今から鎖を外すから暴れんなよ?もし暴れたら、無理矢理納豆食わせるからな?」


 清宏が笑顔で念を押すと、ライカンスロープは首が飛びそうな勢いで頷いた。


 「今から質問と俺の提案を聞いて貰うが、手荒な真似はしたくないから、大人しく聞いてくれ」


 「あ、あぁ・・・あんな臭いのは二度とゴメンだからな・・・」


 「よろしい・・・さて、まず自己紹介からだな。

 俺は清宏、お前を召喚したのは向こうにいる魔王リリスだが、この城を取り仕切っているのは俺だ。

 他の仲間は後ほど紹介するが、ここには人間の仲間もいるから争い事は起こさないでくれ・・・どうするかはお前次第だが、もしここに住むなら絶対に仲間同士での争いはご法度だ・・・では、お前の名前や年齢なんかの情報を教えて欲しい」


 ライカンスロープは清宏の話を大人しく聞き、背筋を伸ばして座り直した。


 「俺の名はアッシュ、見ての通りライカンスロープだ・・・歳は気にしてないからうろ覚えだが、物心ついてから20年くらいだと思う」


 「ふむ、歳は俺と同じくらいかローエン達くらいか・・・アッシュ、お前は今までに人を殺した事はあるか?」


 「あるよ・・・数までは覚えちゃいないがな。

 奴等は、俺が人間じゃないと知りゃあ問答無用で殺しにきやがるからな・・・殺られる前に殺らなきゃ生きて行けねーんだよ」


 アッシュと名乗ったライカンスロープは、憎々しげに舌打ちをした。

 清宏はそれを見て腕を組み、唸った・・・今までの仲間達は人族に対する怒りや恨みは薄かったが、アッシュはそうではないからだ。


 「アッシュ、お前が人族に恨みを持っているのは無理もない事だろう・・・だが、お前の主であるリリスは、人族との争いを望んではいない。

 俺達は、魔族と人族の和睦を目標に掲げて色々と動いている最中だ・・・今も人族の協力者達が、この国の王の説得のために動いてくれている。

 お前は、このままの生活で満足できるか?このままじゃ、お前もいつかは人族に殺されちまうかもしれない・・・そんな先の見えない生活を続けたいか?」


 「俺だってせっかく生まれて来たんだ・・・出来る事なら生きてーよ!でもよ、そん事言ってても奴等は手加減なんかしてくれねーんだよ!!」


 アッシュは叫んだが、どこか寂しそうに聞こえる・・・清宏はそんなアッシュの肩を軽く叩き、苦笑した。


 「アッシュ・・・これからも生きていたいなら、どちらかが先に折れなきゃならないんだよ。

 いつまでもいがみ合ってちゃ何も変えられない・・・向こうが折れないなら、こっちが折れてやりゃあ良い。

 俺達が態度で示し続ければ、必ず分かってくれる奴は現れる。

 実際、リリスの隣に居るエルフの少女は、この城を探りに来たS級の冒険者だ・・・今国王の説得に行ってくれているのは、彼女の仲間達なんだよ。

 全ての人に理解して貰うのは難しい事だが、何もしなけりゃ変えられないだろ?」


 アッシュは清宏に諭されて押し黙り、俯いている・・・だが、清宏はそのまま話を続けた。


 「お前がまだ生きたいのなら、しばらくここで暮らしてみないか?うちにいる人間達は、なんだかんだで魔族とも仲良くやってるぞ?

 もしそいつらがお前に何か嫌な事をして来たなら、遠慮なく俺に言えば良い・・・俺は例え仲間であろうとそういった行為は許さないし、必ず相応の罰を与える。

 ここの生活に慣れるまでは皆との交友を深めてくれていれば良い・・・その後、ここに住み続けるならお前にも仕事を与えようと思っている。

 どうだ、これからを変えたいと思っているなら、しばらくここで暮らしてみないか?」


 「正直、人間は信用出来ねぇ・・・だが、俺はあんたに負けたからな、しばらくはあんたに従って行動する・・・だが、信用出来ないと判断したら俺は出て行くからな?」


 「あぁ、それで構わないよ・・・まぁ、そうはならないと思うがな」


 清宏が笑うと、アッシュは訝しげに首を傾げて聞き返した。


 「何でだよ・・・」


 「だって、魔王に召喚された奴は、魔王が死なない限り死ぬ事は無いんだ・・・逆に言うと、リリスが死ねばお前も死ぬって事だ。

 もしここから出て行って、お楽しみの最中にリリスに死なれたら嫌だろ?それが嫌なら、俺達は死ぬ気でリリスを守らなきゃいけないんだよ」


 「拒否権無えじゃねーか!?」


 「ふふふ・・・召喚されたのが運の尽きだ!」


 「くっそ!今すぐ出て行きてーー!!」


 アッシュは頭を抱えて床を転げ回り、清宏はそれを見て爆笑した・・・すると、話が終わったのを見計らってリリスがやって来た。


 「アッシュよ・・・巻き込んでしまった事は申し訳なく思っておるが、出来ればお主にも妾達のやる事を見ていて貰いたい。

 お主のような思いをする者が1人でも減らせるように妾達は努力していく・・・出来る事ならお主にも協力して貰えると助かる」


 「はぁ・・・やりゃあ良いんでしょうがやりゃあよ!?俺を巻き込んだからには、絶対に実現して貰うからな!!」


 「うむ、良い返事じゃ!アッシュよ、これから宜しく頼むぞ!」


 リリスはアッシュの手を取って立ち上がらせると、満面の笑みで頷いた。

 すると、それを見ていた清宏が手を挙げてアッシュに尋ねた。


 「あのさ、ライカンスロープって人間の姿にもなれるんだよな?どんな感じなのお前?」


 「なんだよ急に・・・」


 「いや、人間の姿の方が色々とやりやすいんじゃないかと思ってな?その方がうちの連中も親しみやすいだろうし、しばらくはそのままと人間の姿とで交互に生活したらどうかね?」


 「構わねーけど・・・別に普通だぞ?」


 アッシュはため息をつくと、言われた通りに人間の姿に変身する・・・徐々に体毛が薄くなり、突き出ていた鼻と口が人間の形に変わっていく。


 「あらやだワイルド・・・なかなかのイケメンさんじゃない?」


 「おぉ!なかなかの男前じゃな!?」


 「べ・・・別に普通だって!からかうんじゃねーよ!?」


 清宏とリリスは、人間の姿になったアッシュを見てテンションが上がる・・・人間の姿になったアッシュは、黒い髪と褐色の肌を持った細マッチョでワイルドなイケメンだった。

 片付けをしていたビッチーズ達も、アッシュを見て黄色い声を上げている。

 

 「ヤバいわ・・・まさか、あんなDQNがこんなイケメンだったなんて!あちき、ときめきがメモリアルしちゃいそうよ?」


 「訳分かんねー事言ってンじゃねっぞ!?ッゾメェ!?」


 「また変な言葉が出て来おったぞ・・・妾にも理解出来る言葉で話して欲しいのじゃがなぁ」


 アッシュをからかいながら爆笑している清宏を見て、リリスは首を傾げて苦笑した。

 

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