第84話目撃!DQN

 半壊した広間の片付けがなかなか進まず、皆の疲れがピークに達しているのを見た清宏は、広間の隅っこの方で休憩していたリリスを手招きした。


 「なんじゃー・・・妾はまだ休憩中なんじゃがのぅ?」


 人手が足りないためリリスも頑張ってくれてはいるが、元々体力の無いリリスは既に限界が近いようだ・・・清宏の元に来るのも億劫そうにしている。


 「疲れているところすまんな・・・今から2体程召喚して欲しいんだが大丈夫か?」


 「構わんが、それをやったら妾はもう何も出来んぞ・・・」


 「あぁ、お前は召喚した後はそのまま休んでくれて構わないよ。

 出てきた奴等に片付けを手伝わせれば、他の連中も少しは楽になるだろう?」


 リリスは少しだけ迷ったが、汗だくになりながら片付けをしている皆を見て頷いた。


 「そうじゃな、皆が少しでも休めるなら召喚の1回や2回やってやろうではないか!」


 「あぁ、召喚が済んだらアンネとレイスには夕飯を作って貰おうと思っている。

 後の片付けは体力のある男連中と新入りでやって、他は風呂に入って貰おう・・・」


 話を終えたリリスは、魔召石を取り出して清宏を見た・・・その手には、配下を召喚するための魔召石が大小2つ握られていた。


 「どっちが良いかの?」


 「デカい方で良い・・・小さいので召喚して、ツクダやオスカーみたいなのが出て来ても手伝わせられないだろ?」


 「それもそうじゃな・・・」


 リリスは苦笑しながら小さな魔召石をアイテムボックスにしまい、大きな物をもう一つ取り出し床に置いた。


 「ほれ、こっちはお主が持っとれ」


 「投げんなよ・・・雑に扱ってダメになったら勿体ないだろ?」


 リリスが放り投げた片方の魔召石をキャッチし、清宏は苦笑している。

 召喚をする事に気付いたラフタリアが清宏の隣にやって来て様子を伺う。


 「お前はまだ休憩じゃないだろ・・・」


 「ちょっとくらい良いじゃない?」


 清宏は注意したが、ラフタリアが楽しそうにしているのを見てそれ以上は何も言わなかった・・・手伝わせている手前強く言えないのもあるが、何より召喚するところを見たいと思う気持ちは理解出来たからだ。


 「確か最初は光るのよね?」


 「あぁ、光が収まったら石のあった場所に召喚されてるよ・・・おっ、始まったな」


 清宏が説明をしていると、赤い光が広間を埋め尽くす・・・しばらく光を放った後、石のあった場所に人間大の何者かが立っていた。

 それは、人と同じく両足で立ってはいるが、全身が体毛で覆われており、狼の顔を持っていた。


 「あら、ライカンスロープじゃない!こんなのまで召喚出来るのね・・・まぁ、アルトリウスみたいな激レアなのも召喚出来るんだし当然と言えば当然かしら?」


 「ライカンスロープって強いのか?」


 「ギルドでのランクはB〜Aとピンキリだけど、正直素早さだけならS級より上の個体もいるわね・・・舐めてかかると、気が付いたら仲間の首が飛んでたとかはよく聞く話よ」


 ラフタリアの説明を聞き、清宏は身震いをした。

 召喚されたばかりのライカンスロープは、まだ目を閉じているため清宏達には気付いていない・・・清宏はその間に、ローエン達に武器を装備させた。


 「さて、大人しく従ってくれたら嬉しいんだけどな・・・」


 「無理だと思うわよ?だって、ライカンスロープはあの鼻並みにプライドが高いもの・・・」


 ラフタリアは弓を構えながら苦笑し、清宏はリリスを下がらせる・・・ライカンスロープはゆっくりと目を開けて周囲を見渡す。


 「んだぁ、ここは・・・?」


 ライカンスロープは不機嫌そうに呟くと、一番近くにいた清宏に近付き、下から見上げるように睨みつけた。


 「っだテメェ・・・どこのもんよ?」


 「うわぁ・・・めっちゃDQNくさいの来た!!

 今時漫画でも珍しいわ・・・拓の世界から抜け出て来たのかな?」


 「!?」


 清宏が笑いを堪えていると、ライカンスロープの顔がみるみる怒りに染まり、牙をむき出しにして胸倉を掴んだ。


 「ンダァオ!?ンノカッコら!?」


 「ぶはははは!ヤベェ、マジで腹痛い!!お返しに、ッゾオラ!とか言った方が良いかな!?」


 我慢出来ずに清宏が笑いだすと、後ろにいたリリスが首を傾げた。


 「ンダァオ?ンノカッコら?ッゾオラ?呪文か何かかのう・・・」


 「初めて聞く言葉よね・・・」


 リリスとラフタリアは腕を組んで悩んでいるが、なかなか答えが見つからないようだ。

 それを見ていたライカンスロープは、肩を震わせて恥ずかしそうに俯いている。


 「いやぁ、すまんすまん!天然記念物級のメンチの切り方だったから関心したわ・・・俺、お前みたいなキャラ好きよ?」


 「っせえ!なめてンのか、メエ。ァア?」


 「ぷぷぷ!やめて・・・マジやばたにえん!!」


 ライカンスロープは、涙を流しながら笑う清宏を力任せに投げる・・・だが、清宏は床を転がって受け身を取ると、そのまま何事も無かったかのように立ち上がった。


 「謝っただろー?良くないよそういうのは・・・せっかく召喚されたんだし、仲良くしよーぜ?俺はお前みたいなのウェルカムよ?」


 「ケンカ売ってんのか。おぉ?てめぇ、血祭りに上げてやンよ!」


 清宏の視界からライカンスロープが消える・・・その瞬間、清宏が後方に吹き飛んだ。


 「ちょっ、早くね!?マジで見えなかったんだけど!?」


 「今更後悔しても遅ーンだよ!!」


 ライカンスロープは目にも留まらぬ速さで縦横無尽に走り回り、清宏はその度に吹き飛ばされている・・・だが、何故か清宏は余裕の表情で笑っていた。

 2人を遠くで見ていたアルトリウスは、特に気にする事もなく黙々と片付けを再開している。

 最初こそ心配そうにしていた他の者達も、今では作業に戻っているようだ。


 「んー・・・確かに目に見えないくらい早いけど、威力は低いかな?これならオーリックの方が確実に強いな」

 

 「はぁ・・・はぁ・・・ンで倒れねェ・・・」


 ライカンスロープは平然としている清宏を見て、肩で息をしながら舌打ちをしている・・・清宏は服が裂け、何ヶ所か血が流れているが、特にダメージは無いようだ。


 「あれ、もう終わり?」


 「!?」


 怒りに燃えたライカンスロープは、再び高速で移動を始めた。

 清宏はその場から動かずにただ笑みを浮かべている・・・そして、広間に衝突音が響いた。


 「%¥〆/€+#○|:$☆÷♪!!?」


 「ふふふ・・・どうだ、目に見えない空気の壁の味は?」


 広間の中をライカンスロープが跳ね回る・・・高速で空気の壁に衝突したせいで、何か叫びながら連続で衝突し、跳ね回っているようだ。


 「・・・ッメエ・・・卑怯だゾ・・・」


 「卑怯じゃありませーん!これも立派な戦い方ですー!!」


 「ッ・・・クソッ!!」


 何とか床に降りる事が出来たライカンスロープは、満身創痍でふらふらと立ち上がって清宏に殴りかかったが、空気の壁に阻まれて拳が届かずに崩れ落ちた。

 清宏はポーションを取り出して頭からかけてやる・・・すると、みるみるうちに傷が癒えてライカンスロープが立ち上がった。


 「礼は言わねーゾ・・・」


 「礼はいらんが、戦いは俺の勝ちだよな・・・これからは俺に従ってもらうぞ?

 忠誠を誓うなら、あそこにいる魔王にするんだな」


 「ケッ!誰がテメェなんかに従うかよ!!」


 「あらら、そう言う事言っちゃう?関心しないなぁ・・・」


 清宏はため息をついてアイテムボックスを開くと、ワラに包まれた巻物のようや物体を取り出した・・・それを見たラフタリアの目が輝く。


 「ねぇ清宏・・・まさかそれって」


 「おっ、流石はラフタリア!気付いた?」


 清宏はラフタリアを見て、笑いながらワラをむしり、中身をライカンスロープの鼻先にぶちまけた・・・ライカンスロープは声にならない絶叫を上げながら悶え始めた。


 「な、なんじゃこの蒸れた足の臭いは!!?」


 「くっせー!!なんなんだよ一体!?」


 リリスが顔をしかめ、離れて片付けをしていたグレンがたまらず清宏に尋ねた。


 「こいつは納豆って言ってな、大豆を煮てワラに包んで発酵させた健康食品だ!!臭いかもしれないが、めちゃくちゃ美味いぞ?」


 「やっぱり!ねぇ、あとで食べさせてよ!」


 「あぁ、醤油は無いが食わせてやろう!」


 「ふふふ・・・今まで黙っていたけど、醤油なら私が非常用に隠し持っているのがあるから、それを使いましょう!」

 

 「な、何だってー!?そいつは良いな!!」


 「いや、そいつをどうにかしてやれよ・・・」


 テンションだだ上がりの清宏とラフタリアに対し、ローエンがため息混じりに呟いた・・・静かになったと思ったが、ライカンスロープは白目を剥いて気絶してしまったようだ。


 「これで完全に俺の勝ちだろう・・・また逆らったら納豆を無理矢理食わせてやる」


 「あいも変わらず鬼畜な男じゃな・・・」


 清宏はライカンスロープを鎖で縛り上げ、水をぶっ掛けて納豆を洗い流し、リリスは鼻をつまみながら呆れてため息をついた。


 


 

 

 

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