第83話珍入者②

 覇竜に向けて走り出した清宏は、そのままの勢いで覇竜の右足の指にドロップキックを喰らわせた・・・スキルが発動していたため、覇竜の鱗との衝撃で空気が震える。


 「ーーーーー!!!?」


 指にドロップキックを喰らった覇竜は、予想だにしていなかった痛みに、声にならない悲鳴をあげている・・・清宏の事を所詮は人間であると見下し、先制攻撃を許したのが運のつきだったのだ。


 「どうだ痛かろう!それが机の角に指を打つけた痛みだ!!」


 清宏は、身体を屈めて足の指を押さえている覇竜に対し、勝ち誇っている・・・覇竜は涙目になりながら清宏を睨みつけた。


 「な・・・何なのだその威力は!何故指を蹴られた程度でこれ程までに痛みを感じるのだ!?」


 「ふふふ・・・それこそが俺の固有スキル・・・理不尽だ!!

 耳をかっぽじってよーく聞いておけ・・・このスキルはな、俺の感情により威力が増し、さらには相手の防御を無効化するんだよ!!

 これさえ有りゃあお前の痛みを感じにくい特性も意味無えんだよ!!」


 「な・・・何たる理不尽であるか!?ずるいのである!!」


 「はい残念ー!ズルじゃないですスキルですー!悔しかったらお前も身につけてみやがれバーカ!」


 清宏の小馬鹿にした態度に腹を立てた覇竜は、身体を反転させて力任せに尻尾を叩きつけた・・・清宏の居た場所の床が砕け、埃が舞う。


 「清宏!?」


 「ふはははは!油断大敵なのである!!我輩を愚弄した罪、死をもって償うのである!!」


 リリスが悲鳴をあげ、覇竜は勝ち誇って笑いだしたが、埃が収まるのを待って尻尾をどけた覇竜は、目を疑った・・・そこには清宏の姿が無かったのだ。


 「なんと!あのタイミングで躱したのであるか!?どこに隠れたのである!!」


 覇竜は周囲を見渡したが、清宏の姿はどこにも見当たらない・・・すると、広間に清宏の笑い声が響いた。


 「下じゃないですー!上だバーカ!!喰らえ、イナズマキック!!」


 「なんと・・・ぶほっ!!?」


 半壊した広間の天井は穴が開いており、清宏はそこから飛び降りながら強烈な蹴りを放つ・・・清宏の蹴りは、上を見上げた覇竜の鼻の辺りにヒットした。


 「ふふふ・・・油断大敵なのはお前の方だったな!」


 「ぐぬね・・・どこまでも我輩を愚弄しおって!

 手加減してやろうと思っていたが、本気で行くのである!!」


 「へへーん、バーカ!そっちじゃねーよ!!

 もっと良く狙えよー?そんなんじゃ俺には当たらないぞー?」


 覇竜の踏み付けや尻尾を、清宏は自ら穴を開けて逃げては死角から現れて攻撃をしている・・・モグラ叩きにしか見えないのは気のせいだ。

 無駄な攻撃を繰り返している覇竜は、徐々に息が上がり焦りが生じているようだ・・・それを見た清宏は、ニヤリと笑って鎖を取り出し覇竜の足に絡ませた。


 「なんと姑息な!その程度の鎖、我輩には意味が無いのである!!」


 「それはどうだろうねー?試しに千切ってみろよ!」


 清宏はさらに鎖を取り出し、覇竜の身体に絡めていく・・・その数はどんどん増えていき、最終的には9本の鎖が覇竜に巻き付いていた。


 「何故だ!何故千切れないのだ!?しかも、さらに絡まって・・・!?」


 覇竜が暴れる度に、鎖は長さを増してさらに絡みつく・・・鎖1本の最初の長さは2m程だったはずだが、今では覇竜の身体を覆う程の長さになっている。

 身動きの取れなくなった覇竜を見て、清宏は立ち止まった。


 「それはな、ミスリルと鉄の合金を使用した鎖型の魔道具なんだよ・・・しかも、暴れる相手に巻き付き、捕える為の罠として造ったものだ。

 そいつは壁や床だけでなく、あらゆる場所に設置出来る上に、最大100mの長さまで伸びる。

 1本や2本じゃ心許ないが、流石にそれだけ巻き付かれたらお前でも動けまい?」


 「ぐぬぬ・・・このような姑息な罠に捕らわれるとは何たる不覚!かくなる上は、我輩の真の力をもって焼き尽くしてくれる!!」


 覇竜は身体を捩って清宏を向くと、口を開いて力を溜めた・・・覇竜の口の前に巨大な火の玉が現れ、徐々に収束していく。


 「清宏様、お逃げください!それは炎を凝縮し、超高温の熱線を放つ技です!!」


 アルトリウスが叫んだが、清宏は避けるそぶりすら見せない・・・いや、むしろそれを笑いながら見ていた。


 「とんでもねぇ、待ってたんだ!!・・・あぁ、そういえば1つ言い忘れてたんだがな、その鎖はわざわざ自分で巻かなくても良いんだよ・・・」


 清宏はそう言って笑うと、フィンガースナップをした・・・すると、覇竜の頭上から鎖が伸び、口に巻き付いた。

 口を塞がれた事により、収束していた火の玉が霧散していく。


 「どうだ、これが人間様の力ってやつだ・・・参ったするなら解放してやる。

 今後俺達の邪魔をしないと言うなら、見逃してやろう」


 清宏の言葉を聞き、覇竜は頷き大人しく従った・・・覇竜が抵抗しなくなった事で、鎖が緩み自動的に収納されていく。


 「我輩は負けたのである・・・大人しく貴様に従うのである」


 「そりゃあ良かった・・・正直俺も疲れたから、これ以上お前の相手をしたくない。

 これに懲りたら見境なく喧嘩売るんじゃねーぞ」


 覇竜は頷き、半壊した天井から空に飛び上がる・・・そして、清宏を見てニヤリと笑った。


 「誰が貴様の言う通りにするか!誰に喧嘩を売ろうが我輩の勝手である!この借りは、必ず返しにくるのである!!」


 「何だとこの野郎!!馬鹿にしくさって良い度胸じゃねーか!?

 もう一度降りてこい!痛みが快感に変わるまでボコってやる!!」


 「嫌である!!我輩が大人しくなったと見て解放した貴様が悪いのであろう!?

 このまま貴様とやり合っても勝てる気がしないので、今日のところは帰るのである!次に戦う時は我輩が勝つのである!!」


 覇竜は捨て台詞を吐くと、あっという間に空の彼方に消えて行った・・・清宏はそれを見て歯軋りをし、僅かに残っていた壁を力任せに殴って吹き飛ばした。






 以上が清宏達が掃除をするはめになった経緯である・・・。

 覇竜が去ってから既に半日が過ぎたと言うのに、皆疲れきっているせいか、いまだに片付けが終わる気配はない。

 この日は開城前に覇竜が来たため、侵入者達に怪我人が出なかった事だけが不幸中の幸いだったといったところだろう・・・。


 「くそっ!あの馬鹿野郎、次に会った時はマジでタダじゃおかねぇぞ・・・」


 清宏は瓦礫の山に腰掛けながら、覇竜の飛び去った空をみて憎々しげに呟いた。

 


 

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