第80話ホームシック
清宏達は夕飯を食べ終え、すぐに街を出て森に入った・・・陽は殆ど沈んでしまっているが、月や星の光のおかげでランタンが無くとも十分明るく感じる。
ある程度街から離れた場所で3人は茂みの中に入ると、清宏はラフタリアに手紙を差し出した。
「これがクリスさんの手紙だ・・・無くさないようにしっかりと渡してくれよ?」
「安心なさい!無くすなんて万が一にもあり得ないわ!!」
ラフタリアは手紙を受け取ると、グローブを外して右手を空に向かって高々と掲げた・・・ラフタリアの右手の中指には、小さな魔石のはめ込まれた指輪が輝いている。
「何してんだ?」
「まぁ、今にわかるわよ・・・」
ラフタリアが清宏に向かって得意げに笑うと、空の彼方から何かが飛んで来るのが見えた。
清宏とアンネが首を傾げていると、その何かは上空で旋回した後、ラフタリアの前に降り立った。
「やけにデカい鷹だな・・・お前のペットか?」
「どう、可愛いでしょ?この子は私が育てた鷹の魔物よ!私の住んでた村では、子供が物心ついた頃からこの子達を育てる習慣があってね、連絡なんかをする時に役立ってくれるのよ!
雛から育てれば人に懐くし、頭も良いから言う事だってちゃんと聞いてくれるわ!この子なら馬よりも断然早いし、確実にオーリック達に手紙を届けてくれるわよ!」
ラフタリアは鷹の魔物を撫でながら得意げに笑う・・・鷹の魔物は、撫でられて気持ち良さそうにラフタリアに頭を擦り寄せている。
「アンネはこの魔物を見た事あるか?」
「いえ、エルフ族が飼い慣らしていると聞いた事はありますが、実際に見るのは初めてです・・・」
アンネが恐る恐る鷹に手を伸ばすと、鷹は大人しく撫でられている・・・人に懐いているのは本当のようだ。
「こいつが居るなら、城に呼んでやれば良かったのに・・・飯はどうしてたんだ?」
「自分で狩って食べてるわよ?人に慣れてるとは言っても、知らない人ばかりだとストレスが溜まるから基本的には自由にさせてるわ。
用事がある時には、さっきみたいに呼べば直ぐに来れる距離には居てくれるのよ」
「はぁー・・・マジで賢いな?でも、オーリック達の位置はどうやって探すんだ?」
清宏が尋ねると、ラフタリアは右手を差し出して指輪を見せる。
「ルミネにもこの指輪と同じ物を渡してあるから、この子は指輪の微弱な魔力を探知しながら飛んで行ってくれるのよ。
この子は魔物とは言っても習性は鳥類に近いから、この指輪の位置を巣に見立てて、帰巣本能を利用しているって言ったら良いかしら?だから、相手がどの位置に居ても必ずたどり着く事が出来るのよ」
「なんか、良いように利用してるな・・・まぁ、こいつが納得してるなら良いんだが。
んじゃまぁ、こいつが帰って来たら何か褒美をやらないとな」
「あら、優しいじゃない?この子も喜ぶわ」
ラフタリアは鷹の背中に装備させている小さなカバンに手紙を入れて鍵をかけると、もう一度撫でて手を上にかざした・・・すると、それを合図に鷹が飛び立つ。
鷹は凄まじい速度で飛翔し、あっという間に見えなくなってしまった。
「やべーなあの速度・・・アンネはあれと比べたらどの位の速さで飛べるんだ?」
「流石にあの速度で飛ぶのは無理です・・・」
「ですよねー・・・」
清宏とアンネは、鷹の飛び去った方角をしばらく眺めた後、城に帰るための準備をし始めた。
「ほれ、ラフタリアは前に乗れ」
「ねぇ、本当に変なところ触らないでよ?触ったら突き落とすからね?」
「落ちないように腰に手を回すのは勘弁してくれよ?それ以外は触らないと約束する」
「・・・それは仕方ないから許可するわ。
じゃあ、よろしくねアンネ!」
2人が背に乗るのを待って、狼に変化したアンネは走り出す。
昼間に走るよりは速度は出ていないが、それでも馬の何倍も速度が出ている。
「この辺りは月と星が綺麗で良いわよね・・・故郷を思い出すわ。
王都なんて、夜遅くまで灯りがついてるから星があまり見えないのよね・・・」
「やっぱり故郷に帰りたい時とかあるのか?」
「そりゃあね・・・もう何十年も帰ってないし、辛い事があった時は家族の顔を見たいとは思うわよ。
でも、距離もあるからなかなか帰れないのよね・・・この国からだと、片道で1年はかかる距離だもの」
ラフタリアは若干寂しそうに苦笑した。
清宏からは見えていないが、空気を読んで茶化さずに聞いている・・・家族に会えない辛さは、誰よりも知っているからだ。
「ひと段落したら顔でも見せてやると良い・・・会えるうちに会っておかないと、後悔する事だってあるからな」
「そうね・・・まぁ、移動手段さえなんとかなれば、気が向いた時に帰れるんだけどね。
ねぇ、貴方が何か便利な魔道具造ってよ!」
「さっき控えた方が良いとか言っといてそれかよ・・・まぁ、考えておくよ。
実際、街に行く分にはアンネに頼めばいいけど、それ以上の距離となると厳しいからな・・・せめて2〜3日である程度の距離を移動出来る手段は欲しいとは思ってるよ」
清宏はラフタリアに呆れながらも何か無いものかと思案したが、結局その答えを出すのは諦めた・・・仮に飛行機の様な魔道具を造ったとしても、操縦する技術が無ければ意味が無いからだ。
「まぁ、貴方なら何でも造り出しそうだから期待してるわよ?
それにしても、アンネは凄いわね・・・いくら月明かりで比較的明るく見えるとは言っても、よくこの速度で走れるわよね?」
「あの・・・私が吸血鬼だということを忘れてらっしゃいませんか?」
ラフタリアの発言に、アンネは呆れたように聞き返した。
「そうだったわね・・・」
「馬鹿だ馬鹿だとは思っていたが、まさか手遅れだったとはな・・・あ痛っ!肘打ちすんな馬鹿!」
ラフタリアをからかった清宏は、肘打ちを食らって落ち掛ける。
「馬鹿馬鹿言い過ぎよ!本当に無神経よねあんたは!!」
「危ねーって!落ちたらどうすんだ・・・あっ・・・」
肘打ちの連打を食らった清宏は、慌てて何かを掴んだ・・・手の平に、控え目ながらも柔らかな感触を感じて冷や汗を流した。
清宏が掴んだのは、ラフタリアの胸だった・・・ラフタリアは肩を震わせながら、肩越しに清宏を睨みつける。
「お・・・俺は悪くないぞ!お前が暴れるから仕方なくだな!?」
「・・・死ね!!」
ラフタリアは強烈な頭突きを放ち、清宏の顔面に炸裂する・・・あまりの衝撃に、清宏は脳が揺さぶられて意識が朦朧とし、アンネの背からずり落ちる。
「マジか!?覚えてろよーーーーっ!!」
「清宏様ーーー!?」
アンネから落ちた清宏は、そのまま崖下の川に落ちて流されて行った・・・その後アンネの必至の捜索の末、全身が冷え切って震えている清宏を見つけたのは、約2時間後のことだった・・・。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます