第81話手紙
魔王城から遠く離れた夕暮れの空を、1羽の大きな鷹の魔物が凄まじい速度で飛んでいる。
その鷹はここ2日ほどの間、迷うことなく同じ方角に向かって飛び続けているが、その速度を落とすことなく餌も食べてはいない・・・だが、全くと言って良いほど疲れは見られない。
鷹の背中には小さなカバンが括り付けられており、中には主人から託された手紙が入っている。
言葉が理解出来るその鷹は、託された手紙がいかに重要であるかを知っているため、少しでも早く目的の人物に渡そうと必死になっているのだ。
鷹はそのまま飛び続け、陽が完全に沈みきった頃に目的の人物を発見して近くに着地した・・・すると、それに気付いた人物が鷹に駆け寄って抱き締めた。
「よく来て下さいました・・・間に合ってくれて良かったですわ。
お腹は空いていませんか?せっかくですし、貴方も一緒に食べましょう?」
鷹に優しく話しかけたのは、神官服を着込んだ美女・・・ルミネだった。
鷹は嬉しそうにルミネに頬ずりをすると、軽い足取りでその後をついて行き、ルミネの仲間達の元で与えられた肉を食べ始めた。
「ははは、余程お腹が空いていたらしい・・・急いで飛んで来てくれたんだろう?」
「こいつが居てくれるおかげで、連絡が随分と楽になってありがたい事だ・・・あの跳ねっ返りより役に立ってるんじゃないか?」
肉にがっついている鷹を見て、オーリックとリンクスが笑っている。
ジルとカリスは、酒を飲みながらツマミを鷹に与えている。
ルミネは鷹の食事の邪魔にならないように気を付けながらカバンを開け、手紙を取り出す・・・中にはクリスの手紙の他にも、清宏からの手紙も入っていた。
「あら、清宏さんはマメですわね・・・クリス様からの手紙の内容と、近況を簡単に書いてくれていますわ」
「あの方らしいな・・・清宏殿は何と書いてあるんだ?」
笑っているルミネに対し、オーリックが尋ねた。
クリスの手紙は国王に宛てた物であるため、オーリック達が勝手に内容を確認する訳にはいかない・・・情報共有のため、清宏はその内容を簡潔にまとめてくれていたのだ。
ルミネは清宏からの手紙を確認して笑顔になる。
「ははは!その表情から推測すると、余程良い内容だったようだね?」
「えぇ、クリス様との交渉は上手く行ったそうです!交渉の場を設けた時には、クリス様も是非参加させて欲しいと言われたと書いてあります!」
「これで我々の負担も減ったな・・・流石に我々だけで説得するのは骨が折れるからな。
何にしろ、クリス殿の協力が得られたなら心強いな・・・」
内容を聞いた皆は安堵して笑った。
ルミネはそのまま手紙を読み進め、全てを読み終えて苦笑した・・・それを見ていたオーリックが首を傾げる。
「どうしたんだ?」
「ふふふっ・・・読めば解りますよ」
ルミネから手紙を受け取ったオーリックは、読み終えると同じく苦笑した。
「これは参ったな・・・本格的に我々のやる事はほとんど無くなったかもしれないな。
これだけの譲歩をするのであれば、国としても断わり辛いだろう」
「私にも読ませてくれ・・・ははは!こりゃ良いな!!」
リンクスはオーリックから手紙を奪って読み、カリスとジルも横から読んで笑い出した。
「はっきりと言って、清宏殿達の戦力を考えればこの国の軍だけではまず勝てないだろう。
清宏殿達は数こそ少ないが、魔王であるリリス様とアルトリウス殿がS級・・・そのアルトリウス殿を一撃で気絶させた清宏殿に至っては、S級かS S級に相当するだろうな。
私が実際に戦ってみて、二度と戦いたく無いと思ったのは清宏殿が初めてだからな・・・私の鎧とスキルがあっても気絶するほどの攻撃だったし、何を仕掛けてくるかが読みにくいから骨が折れる。
そんな相手にもし国が軍を動かした場合、いくら清宏殿達に戦う意思がないとは言え、守りに徹されれば確実にこちらは手も足も出ないだろう・・・そんな格上の相手が自らこれだけの譲歩をするのだから、国としては断る理由は無いだろう」
「確かにそうですわね・・・ですが、それでも安心はしてはいられないのではなくて?」
「まぁな・・・やる事がほとんど無くなったとは言え、我々に残された仕事が一番面倒だからな」
ルミネの言葉を聞き、オーリックは腕を組んで項垂れた・・・珍しく心底嫌そうな表情だ。
「あの男と取り巻き連中さえ居なければ楽になるんだがなぁ・・・」
「うむ・・・」
「だな・・・俺もあいつは大嫌いだわ」
リンクスとカリス、ジルまでも深くため息をついて項垂れた・・・先程から話に出て来ている男を想像して憎々しげに舌打ちをしている。
「国王陛下も、何であんないけ好かない男を国の要職に起用してるのかね・・・」
「あの男の家は、この国が建国された当初からの由緒正しい家柄らしいからな・・・いくら陛下が英雄の1人とは言え、平民の出である上にお年を召されているから強く出れないようだ。
我々は陛下を慕ってこの国に移って来たが、あの男は昔から冒険者や身分の低い者達を消耗品としか思っていない・・・魔族に対してはもっと酷い。
清宏殿や我々にとって、一番の障害になるのは陛下や軍ではなく、あの男だろうな・・・」
リンクスの愚痴にオーリックがため息混じりに答える・・・すると鎧を何者かが突き、オーリックはそちらを見て苦笑した。
そこには、餌をねだるように鷹が立っていた。
「なんだ、まだ食べ足りないのか?」
「あら、ではもう少し用意して差し上げますわ!」
オーリック達は、悩み事など無さそうな鷹を見て笑うと、暗い話を切り上げて食事を再開した。
王都まではあと少し・・・オーリック達は食事を済ませた後、明日からペースを上げるため、ゆっくりと身体を休めた。
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