第79話被害者同盟
3人は料理屋に入って席に着くと、料理と飲み物を注文して一息ついた。
先日街に来てからと言うもの清宏達は必ず利用しているため、既に顔を覚えられている・・・特にラフタリアは4回目だ。
店員の少年が持ってきた飲み物を受け取り、清宏はラフタリアを見た。
「で、話ってなんなんだ?」
「まず一つ目はこの弓についてよ・・・」
ラフタリアは、清宏から貰った弓を突き返して腕を組んだ・・・受け取らないと言う意思表示のようだ。
「なんだ、納得いく性能じゃなかったのか?」
清宏はその弓をテーブルに置いたままラフタリアに尋ねると、自身も負けじと腕を組んで拒否している。
「性能はね・・・ヤバすぎたわよ。
正直な話、私では到底扱いきれない性能だったのよ・・・知り合った奴が言うには、神代の武具に相当する程の物らしいわ。
全力で弓を放った瞬間、私の周囲や射線上にあった物が吹き飛ばされて、矢が砕けたら破片でさらに被害が出たの・・・もし街の近くだったらと想像するだけでも恐ろしいわ」
清宏とアンネは、テーブルに置かれたままになっている弓を見て苦笑している。
「まぁ、でも助かったわ・・・この弓のせいで散々な目に遭ったけど、助けられもしたからこれ以上は言わないでおいてあげる。
でも、今後はこの類いの武具は造らない方が良いみたいよ・・・」
「それも知り合った奴が言ってたのか?」
清宏に尋ねられ、ラフタリアは無言で頷く。
すると丁度料理が運ばれて来たため、清宏は仕方なく弓を手に取ってアイテムボックスに収納した。
ラフタリアは店員の少年が離れるのを待って、続きを話し始めた。
「そいつは、下手をすると勇者が現れかねないって言ってたわ・・・神代の武具は、神々が製作したからこそ強力なのに、それを魔族が造りだしたとなれば理を狂わせてしまい、勇者が現れる可能性があるってさ。
あんたは人間だけど、魔王の副官でしょ?もし勇者が現れたらヤバいんじゃない?」
「あ、あの・・・ここのように人が多い場所で話すのは控えた方が良いと思うのですが」
ラフタリアの話を聞いたアンネが慌てて注意をしたが、清宏は首を振った。
「いや、ここだから良いんだよ・・・周りを見てみな、皆んな自分達の話に集中していて俺達の事なんか気にしてないだろ?周りの音や声もあるから、俺達の話は聞こえていないんだよ。
木を隠すには森の中・・・内緒話をするならこう言った騒がしい場所の方が自然に出来るんだよ。
多分、ラフタリアもそれを見越してここにしたんだと思う・・・違うか?」
「あら、理解して貰えて嬉しい限りだわ・・・まぁ、貴方なら気付いてくれるとは思ってたわよ。
さて、話を戻すけどさ・・・今後は気を付けた方が良いと思うわよ?少なくとも、武具に関しては自重した方が良いでしょうね」
「わかった、そうするよ・・・なら、あの弓は軽くデチューンしてから渡そう。
今はグリップ内に魔召石を入れているんだが、それを普通の魔石に変えれば、それだけでかなり出力が落ちるだろう・・・何か希望はあるか?残して欲しい仕様や、逆に無くして欲しい仕様とかさ」
清宏が尋ねると、ラフタリアはしばらく悩んで顔希望をまとめた。
「出力が落ちるなら、弓としての性能はそのままで良いかもしれないわね・・・ただ、魔法の補助機能は調整して欲しいわね。
まず、私のスキルと合わせると詠唱破棄になるんだけど、魔法の名称を口にするだけで発動すると危険極まりないから、魔力を込めてから発動するようにして欲しいわ。
次に魔法の威力を高めるのは、今のから8割カットでも問題無いわ・・・試しに使った魔法が馬鹿みたいな威力になったからね」
「ふむふむ・・・了解、それくらいなら魔術回路を軽くいじれば問題無いよ!
それにしても、お前が知り合った奴って何者なんだ?やけに勇者に詳しいし、魔族かなんかだったのか?」
メモを取っていた清宏が何気なく尋ねると、ラフタリアは深いため息をついてテーブルに突っ伏した。
「覇竜よ・・・」
「は・・・覇りゅもがっ!?」
ラフタリアの呟きを聞いたアンネが叫ぼうとした瞬間、すんでのところで清宏が手で口を塞いだ。
「アンネ、デカい声を出したら流石にバレるから・・・!」
清宏は声を潜めながらアンネに注意すると、周囲を見渡して問題がない事を確認する。
その間、アンネは口を塞がれて息が出来ずに悶えていた。
「うおっ!大丈夫かアンネ!?」
「ぷはっ!・・・はい、大丈夫です・・・私こそ申し訳ありませんでした」
アンネは深呼吸をして息を整えると、苦笑しながら謝った・・・だが、アンネは何故か周囲を確認しながら挙動不審になっている。
「覇竜か・・・強いのかそいつ?」
「強いとかそんな次元の話じゃなかったわよ・・・」
ラフタリアは身振り手振りを加えながらことの顛末を説明し、話を聞き終えた清宏は押し黙ってしまった・・・ただ、清宏は覇竜の強さに驚いたのではなく、呆れて物も言えないと言った感じだ。
「覇竜は猫か何かか?」
「竜だって言ってんでしょーが・・・」
「いや、だってさ・・・我輩は覇竜であるって言ってたんだろ?」
「それと猫に何の関係があるのよ・・・」
「そりゃあお前、我輩は〜であるって言ったら夏目漱石だろ・・・」
「誰よそれ、偉いの?」
ラフタリアが首を傾げたのを見て、清宏は首を振った・・・自分で馬鹿なやり取りをした事に気付いたようだ。
「すまん、俺の知ってる文学の偉人だよ・・・てか、お前が生きていてくれて良かったよ。
それにしても、覇竜に魔王ガングートね・・・今まで興味なかったから聞かなかったが、今後の為にも調べた方が良いな。
話を聞いた限りだと、お前は覇竜を知らなかったんだよな・・・討伐対象にはなっていないのか?」
「私はS級以上の討伐対象は全部記憶してるけど、不思議な事に覇竜は指定されてないのよ・・・普通、あれだけの力を持っているなら指定されていてもおかしくないはずなんだけどね」
「それは、覇竜は人に興味を示さないからです・・・」
ラフタリアが首を傾げて唸っていると、いまだに挙動不審なアンネが呟くように口を開いた・・・どうやら、アンネは覇竜の事を知っているらしい。
「どういう事なんだ、覇竜と知り合いなのか?」
「知り合いと言うか、アルトリウス様とちょっとありまして・・・私も苦手な方なのです」
アンネはボソボソと呟くように話を始めた。
「覇竜は、ラフタリア様がおっしゃっていたように痛みを感じません・・・なので、覇竜が狙うのは力ある者、要するにアルトリウス様や他の魔王様などです。
痛みと言う感覚を知るため、手当たり次第に戦いを挑んでいる戦闘狂と言ったら良いでしょうか・・・アルトリウス様も覇竜に何度となく戦いを挑まれましたが、痛みを感じない覇竜の相手をするのはキリがないので、私を配下にして以降は無視をしていたのです・・・ですが、それでも諦めずに何度も現れ、あのテンションでひたすら話しかけてきまして、私を口説いてきたりと散々な目に遭わされました」
「あぁ、それはウザいわね・・・貴女も大変だったわね」
2人は覇竜の被害者同士、共感できるところがあったのだろう・・・手を取り合って頷いている。
今ここに、覇竜による被害者同盟が結成された。
「覇竜はアルトリウスと同じくらいの強さって事か・・・居場所がバレたら厄介だな」
「いえ・・・少なくとも、アルトリウス様は覇竜には勝った事がないと言っていました。
攻撃は大振りなので避けるのは簡単と言っていましたが、力では及ばないらしいです・・・さらには無尽蔵の体力と痛みを感じない体質のため、一度戦いが始まると勝負が決まらないとも言っていましたよ」
「マジかよ・・・体力のある馬鹿程厄介なのはないんだよな・・・城に来ない事を祈ろう」
清宏がため息をつくと、アンネとラフタリアは苦笑して頷いた。
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