第78話魔性の女

 クリスを城に招いて3日目の昼、清宏はアンネと共にクリスを街に送るため、街近郊の森の中にやって来ている。

 1日目に話し合いを済ませたため、2日目は城の内部の案内や、今後共同製作する魔道具などについて意見交換を行った。

 クリスは城にいる間、珍しい物を見つけては清宏を質問攻めにし、今後自分でも活かせる物がないかを模索していた。

 

 「いやぁ、あっと言う間に時間が過ぎてしまいましたな・・・とても良い経験が出来ました。

 国からの使者を迎える時には、是非私にご連絡ください・・・私も微力ながら交渉のお手伝いをさせていただきますよ」


 クリスは街に続く街道を歩きながら清宏に話しかける・・・その表情は穏やかで、城での2日間を楽しんでいた事が伺える。

 清宏は立ち止まり、クリスに握手を求めた。


 「ありがとうございます・・・ですが、リリスが言っていた通り、クリスさんはご家族や部下の方々を第一に考えてください。

 もし交渉が難航した場合には、私達の事は気にせずご自身や皆の為になる判断をしてください」


 「わかりました・・・私としましては、そうならない事を祈るばかりです」


 「もし上手くいった時は、お祝いをしましょう!

 その時は、是非クリスさんのご家族も来ていただけたら嬉しいですよ!」


 「ははは、それは良いですな!私は普段家族を放ったらかしにしておりますから、その時くらいはゆっくりと家族サービスをするのも良いかもしれませんな!!

 その為にも、尚更国との交渉を成功させなければいけませんな!」


 クリスは清宏と固く握手をすると、笑顔で頷いた。

 清宏達はしばらく城での出来事などを語りながら街に入り、商会に到着すると、クリスは国王への手紙を用意して清宏に渡した。


 「ではクリスさん、今回は無理を言ってしまい申し訳ありませんでした。

 オーリック達からの連絡がありましたら、アンネを使いに寄越しますよ」


 清宏は商会の前でクリスに別れの挨拶をする。

 清宏達を見送るため、クリスとマイクも外に出てきている。

 

 「わかりました!では、またお会い出来る日を楽しみにしておりますよ!

 アンネ殿もありがとうございました・・・貴重な体験を出来ました」


 「いえ、色々と至らぬ点がありましたが、楽しんでいただけて嬉しく思います」


 アンネはクリスにお辞儀をし、にこやかに笑った。


 「次は、マイクさんも来れたら良いですね!」


 「ご招待いただけましたら、私も代表のように休みをねじ込んででも伺わせていただきます」


 マイクの皮肉を聞き、クリスは冷や汗を流している・・・自身の仕事を押し付けてしまったため、返す言葉もないようだ。

 気を取り直したクリスは、清宏に再度握手を求め、小さな声で語りかける。


 「しばらくは、清宏殿の素性などは他の者には伏せておきます・・・あらぬ誤解を招く可能性がありますので」


 「その辺はクリスさんにお任せします・・・信頼出来る方であれば、事前にお伝えいただいても構いません」


 2人は頷きあうと、別れを惜しみながらも普段の生活に戻って行った。

 清宏達はクリスとマイクに手を振り、冒険者ギルドを目指す・・・ラフタリアを迎えに行くためだ。


 「まだ早いかもしれないけど、受付にとりあえず街に戻って来た事を伝えておこう。

 たぶん居ないと思うから、ラフタリアが帰って来た時に伝えてもらえば大丈夫だろ」


 「そうですね・・・ラフタリア様はゆっくり出来たでしょうか?」


 「どうかね・・・あいつの事だし、大人しくしてるなんて事は無いだろうな」


 清宏達はギルドに入ると、受付嬢に話しかけた。


 「こんにちは、今日はラフタリアはどうしてるかな?」


 「これは清宏様、ようこそいらっしゃいました!

 ラフタリアさんは、今朝早くに依頼を受けていたのですが、まだ戻ってはいないですね・・・」


 受付嬢は清宏に挨拶をすると、申し訳なさそうに頭を下げた。

 清宏はそれを見て笑い、首を振った。


 「別に構いませんよ!もしラフタリアが帰って来たら、日没前にまた来ると伝えておいてくれないかな?」


 「かしこまりました、必ずお伝えいたします!」


 清宏は受付嬢にお礼を言い、ギルドを出てため息をついた。


 「やっぱり居なかったな・・・まぁ、あいつなら大丈夫だろうし、しばらく街を見て回るか?」


 「本当ですか!?では、どこから見て回りましょうか!?」


 アンネは嬉しそうに笑うと、清宏の手を取って歩き出した。


 「ははは・・・これは失敗したかな・・・」


 「何がでしょう?」


 「いや、何でもないよ・・・何処に行こうかと思っただけだよ・・・」


 清宏は、嬉しそうに笑っているアンネを気遣って言葉を濁したが、内心ではある覚悟を決めていた。

 どこの世界であろうと、女性の買い物は長いというのがお決まりだ・・・その後、結局清宏が予想していた通り、ラフタリアを迎えに行く時間まで散々買い物に付き合わされた。


 「そ・・・そろそろ良いのではないでしょうか?

 もうすぐギルドに行く時間ですわよ・・・」


 清宏は疲れ切った表情でアンネに話しかけたが、アンネはリリスやシス達女性陣のため、雑貨や小物などを選ぶのに集中していて聞こえていない。


 「女の買い物やべーわ・・・世のリア充共は、よくこんなの我慢出来るな・・・一緒にいるのがアンネじゃなかったら、絶対途中で別行動にするわ」


 清宏は諦めてため息をつき、楽しそうに選んでいるアンネを見て苦笑した。

 

 「清宏様、レティ様にはどっちが良いと思いますか?」


 「え・・・そこで俺に意見を求めるの酷くない?

 そうだな・・・正直、あいつの好みとか謎過ぎて予想もつかないんだよな。

 俺の罠に掛かってる時が一番幸せそうって印象しかないわ・・・」


 清宏の答えを聞いたアンネは頬を膨らませて拗ねると、ジト目で睨んだ。


 「ダメですよ清宏様・・・レティ様だって女性なんですから、ちゃんと見てあげないといけませんよ?確かに特殊な方ではありますけど、清宏様の言い付けを守って頑張ってくださってるんですから」


 「うーん・・・ちゃんと見るも何も、仕事に関しては俺はしっかりと評価してるからなぁ。

 あいつは気にかけてもらうより、放置された方が喜ぶんだよな・・・正直どうすれば良いのか困ってるよ。

 まぁ、この際せっかくだし真面目に選んでやるか・・・」


 清宏はアンネが手に持っている紅茶用のカップを見て唸った・・・アンネの右手にあるのは黒を基調てしている落ち着いた雰囲気のカップで、左手にあるのは逆に白を基調とした花柄のカップだ。


 「あのさ、あまりにも真逆過ぎて困るんだけど・・・まぁ、あいつは普段派手なのは好まないし、たまには花柄で良いんじゃないか?

 そっちの方が、多少は女らしく見えるからな・・・」

 

 「わかりました、では黒い方にしますね!」


 「おい!?俺に聞いた意味無かったじゃん!!」


 「こういった日用品は、自分の好みに合った物でないと落ち着きませんからね!

 清宏様はそういったところが無頓着でいけないと思います!

 花柄の方が女性らしく見えるなんて言われたと知った時の、レティ様を想像してみてください!」


 ダメ出しをされた清宏は大人しく言う通りに想像し、盛大に吹き出した・・・。


 「ご主人様に馬鹿にされた!ありがとうございます!・・・とか言って悶える姿しか想像出来なかったわ」


 「・・・実際に言いそうなので何もフォロー出来ないのが悲しいです」


 アンネはため息をつくと、カップを2つ共籠に入れて会計を済ませる・・・清宏はそれを見て首を傾げた。


 「結局どっちも買うのね・・・俺が選んだ意味・・・」


 清宏が項垂れると、アンネは恥ずかしそうに笑って耳打ちをした。


 「花柄の方は私のですよ・・・だって、清宏様が選んだんですもの!」


 「さいですか・・・結構ズルいんだなアンネは・・・」


 清宏は照れ隠しにそっぽを向くが、耳まで真っ赤になっている。

 照れている2人が店を出て通りに出ると、店の前に見覚えのある女性がニヤケながら立っていた。


 「見せつけてくれるわね2人共?よく恥ずかしげも無くあんなにイチャイチャ出来るものだわ!

 周りを見てみなさいよ・・・あんた達のせいで妙な雰囲気になってるわよ?」


 「げえっ、ラフタリア!?」


 清宏の脳内では、予期せぬ奇襲を受けてジャーンジャーンジャーンと銅鑼の鳴る音が響いている・・・2人の目の前に居たのは、依頼を受けて街には居ないはずのラフタリアだったのだ。

 ラフタリアに注意されて周囲を見渡すと、道行く人々が清宏とアンネを暖かい目で見ていた。


 「み・・・見世物じゃないやい!どっか行け!」


 「あら、あなたが照れるなんて可愛いところもあるじゃない?」


 「アンネ、ちょっと良いか・・・」


 清宏は、からかわれて真っ赤になっていたアンネに耳打ちし、何か指示を出す・・・それを聞いたアンネは一瞬躊躇したが、意を決して頷くと、ラフタリアに近づいて手を取り、胸の前まで持っていくと、キスをしそうな距離で艶っぽい声を出して語りかけた。


 「私、ラフタリア様の事も好きですよ?」


 『おおっ!!』


 周囲にいた人々がどよめき、ラフタリアは清宏同様真っ赤になって慌て出した。


 「ち、ちょっと待ちなさい!これは清宏の罠よ!私をからかって面白がってるだけなんだからね!!」


 「どうだラフタリア・・・アンネの囁きには抗えまい!アンネは魔性の女なのですよ?」


 「わかった!わかったから離れて!恥ずかしいっての!!」


 ラフタリアはアンネを引き離し、肩で息をしている・・・それを見た清宏とアンネは、勝ち誇った顔でハイタッチをした。


 「俺達をからかった罰だ!」


 「ラフタリア様、今後はあの様に茶化してはいけませんよ?」


 「はいはい悪うございましたね・・・まったく、2人揃ってノリノリじゃないの・・・。

 それより、これからどうすんの?帰る前に話しておきたい事があるんだけど」


 ラフタリアに尋ねられ、清宏は首を傾げる。


 「これと言って何もないが、なんなら早めの夕食でもしていくか?クリスさんから預かった手紙は、帰る前でも大丈夫だろ」


 「オーリック達が王都に着くまでまだ掛かるはずだし、3日もあれば十分間に合うわ。

 じゃあ、この前の店に行きましょ?」


 ラフタリアは歩き出すと、先日利用した料理屋に向かう。

 清宏とアンネは、ラフタリアの話が何であるか想像も出来ず、首を傾げて後を追った。

 

 


 

 

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