第75話博識なレイス

 話し合いもひと段落し、清宏は夕飯の準備が整うまでの間に、クリスに工房を案内する事にした。

 工房に入ると、中ではシスとウィルの2人が丁度新しい魔道具の製作中だった。


 「おぉ、実に素晴らしい!広過ぎず狭過ぎず、手の届く範囲に工具などが並んでいるところが、いかにも魔道具マニアの工房と言った感じですな!!」


 「ご理解いただけますか!近くに工具が並んでいないと、いちいち取りに行っていては集中力が途切れてしまいますから、この状態こそがベストなんですよ!!」


 工房に入るなり、クリスと清宏は楽しそうに会話をし始めた。

 2人に気付いたシスとウィルが立ち上がってお辞儀をする。


 「クリス様、お会い出来て光栄でございます・・・清宏様の助手を務めておりますシスと申します」


 「おぉ、貴女がシス殿でしたか!先日は当商会をご利用いただき、誠にありがとうございました!

 マイクからお話を伺いましたが、彼も素晴らしい方でしたと貴女を褒めておりました・・・こちらこそお会い出来て嬉しく思いますよ!」


 クリスはシスと握手を交わし、ウィルにも握手を求めた。

 ウィルは緊張しているらしく、慌てて服で手を拭き、クリスの手を取る。


 「私はウィルと申します!私も魔道具が好きで、いつかクリス様にお会いしたいと思っていました!

 今日はお会い出来て光栄でございます!よろしければ、お時間のある時にお話を聞かせてください!」


 「そうでしたか!いやぁ、魔道具好きの仲間が増えるのは嬉しいものですな!今回は時間に余裕がありますので、是非清宏殿と3人で話をしたいものですな!!」


 クリスとウィルは、今にも腰を据えて魔道具談義に花を咲かせそうな勢いだ。

 清宏はそれを見て嬉しそうに笑うと、通信機でレイスを呼び出した。


 「クリスさん、今から貴方に見て欲しい魔道具があるんです・・・今後、商会で製品化していただきたいのですが、仕様が特殊な物なのでご意見を賜りたいのです」


 「ほぉ、それは楽しみですな・・・特殊と言う事は、用途が限られていると言う事ですかな?」


 清宏とクリスが話をしていると、工房の扉がノックされた。

 清宏が返事をすると、扉を開けてレイスが入ってきた。


 「失礼いたします・・・何かご用でしょうか?」


 「なっ!スケルトンが言葉を!?」


 レイスが言葉を発したのを見て、クリスは驚いて尻餅をついた。

 だが、クリスはすぐに立ち上がってレイスを観察し始めた。


 「すまんなレイス、お前の魔道具についてクリス殿に意見を貰おうと思ってな・・・どうだ、あれから調子は良いか?」


 「はい、負担が減りましたので楽に言葉が発せます」


 「これは驚きました・・・これは胸の魔道具から、頭部の魔道具に言葉を飛ばしているのですかな?」


 観察を終えたクリスが尋ね、清宏は頷いた。


 「胸の魔道具は、伝えたい言葉を魔力に変換してこめかみの魔道具に飛ばし、こめかみの魔道具はそれを音に変換します。

 音は振動として頭蓋骨内で反響し、それを顎の魔道具を使って声として発するようにしているんです。

 ウィルはこれを商品化してはどうかと言っていたのですが、今の構造のままでは生身の人間は使えないんです・・・仮に骨を振動させたとしても、筋肉や脂肪がそれを吸収してしまうので難しいんです。

 向こうの世界にあるスピーカーと言う道具を小型化して使うのも良いんですが、振動板と言うパーツがなかなか上手く作れないんですよね・・・」


 「ふむ・・・確かに今のままでは製品化には向きませんな。

 その振動板と言うパーツは、どの様な素材で作られているのですか?」


 「すり鉢状に加工した薄い軽金属や、プラスチックと言う合成樹脂などですね・・・最初は魔力伝導率の高いミスリルで作ろうと思ったのですが、それではコストがかかり過ぎるのでボツにしました。

 代わりに鉄を使おうかとも思っていたのですが、鉄は手入れをしなければ錆びが来ますし、振動させるために薄くすると割れやすくなるんです・・・製品化するとなると、壊れやすい物は売るわけにいきませんからね」


 清宏の説明を聞き、クリスが唸る・・・清宏やシス達も何か無いものかと頭を抱えた。

 すると、レイスが何か思いついたかのように手を叩いた。


 「清宏様、竜族の皮などはどうでしょうか?

 竜族の皮は、皮特有の柔軟さに加え、鞣せば鉄よりも強度があります・・・飛竜の皮であれば、1頭から採取できる皮の量が多いので比較的安価ですし、ミスリル程ではありませんが魔力伝導率も高かったはずです。

 使用用途が限られた魔道具ですし、大きな物でなければ皮の消費量も少なくてコストの削減にもなると思います」


 レイスの提案を聞き、その場にいた全員が目を丸くしている・・・金属に拘り過ぎていたため、完全に見落としていたのだ。


 「す・・・素晴らしい!まさか、レイス殿がスケルトンでありながらここまで博識とは!!」


 クリスはレイスに飛び付いて激しく握手をした・・・レイスは照れているのか、頬骨の辺りを指で掻きながら挙動不審になっている。


 「清宏様にいただいた書物を読んだ甲斐がありました・・・」


 「良し!クリスさんを街に送ったら、今日のご褒美としてまた大量に本を買ってやろう!!

 いやぁ、嬉しいなぁ・・・こんなに頑張ってくれてるなんて、目から漢汁出ちゃう!」


 清宏は鼻をすすりながらレイスの肩を叩き、サムズアップをした。

 クリスはそんな2人を見て、何度も頷いている。


 「清宏殿・・・この魔道具の製作、是非我々にお任せ下さい!飛竜の皮でしたら在庫がありますので、試作品が出来次第ご報告いたしますよ!」


 「助かります!他にも色々と製作途中の物がありまして、どれから手をつけようか迷っていたんですよ・・・設計図は出来ているんですが、何ぶん我々は人手が足りなくて、城内に設置する罠や宝物の製作も並行しないといけないので、なかなか進まないんです」


 「では、もし今回の交渉が上手くいかなかった場合は、設計図を買い取らせていただきます。

 上手くいった場合には先程の提案通り、売り上げの5%をお持ちしましょう!」


 クリスに握手を求められ、清宏は快く応じる。

 気の合う者同士たがらか、スムーズに話が進んでいく。


 「そうだ!つい最近完成した魔道具もお見せしますよ!これがあれば暑い日には涼しく、寒い日には暖かく過ごせます・・・その名もエアコンです!

 こいつは氷、火、風の魔石を使っていまして、スイッチ1つで冷房と暖房を切り替え可能です!温度調節も出来るようにしてありますよ!!」


 「あっ!まだダメです!!」


 シスの静止を聞かず、清宏が調子に乗ってエアコンのスイッチを入れた瞬間、吹き出し口から吹雪が発生した。


 「ちょっ!何で!?」


 「清宏さんが街に行ってる間に、リリス様が勝手にいじって壊したんです!」


 「あの馬鹿黙ってやがったな!くそっ、寒いーっ!!」


 「はっはっは!こういう失敗も魔道具製作の醍醐味ですな!それにしても寒い!!これなら巨大な冷凍庫も作れそうですな!?」


 クリスはガクガクと震えながらも、エアコンについて色々と考察しているようだ・・・商魂たくましいとは正にこのことだろう。

 吹雪を発生させたエアコンは結局清宏の手で破壊され、その後リリスは清宏から強烈な拳骨を食らう羽目になった・・・。

 

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