第69話爺さん孝行

 清宏達が城を出て3時間が経ち、街の近くにある森に到着した。

 アルトリウスの時より1時間近く短縮する事が出来たのだが、その分乗り心地は若干劣っていた。

 それでも酔う程ではなかったのだが、清宏はグッタリとしている・・・原因は清宏の後ろに乗っていたラフタリアだ。

 あまりの速さに興奮したラフタリアが、油断して落ちそうになる事計7回・・・その都度清宏がギリギリのところで捕まえては助けていたのだ。


 「おい水玉パンツ・・・お前のせいで散々だったぞ馬鹿野郎!!」


 「さっきから何回も謝ってるでしょ!?それに下着見てんじゃないわよ、このスケベ!!」


 「不可抗力だろうが!俺が捕まえてなきゃ、今頃谷底で挽き肉になってたんだぞ!?」


 清宏とラフタリアは大声で怒鳴りながら互いを罵り合い、人型に戻ったアンネは、髪と服を整えながら2人を見て苦笑した。


 「帰りは、ラフタリア様は清宏様の前に乗られた方が宜しいかと思いますね・・・それでしたら落ちる心配は無くなると思います」


 「えっ・・・胸とか揉まれそうで嫌なんだけど」


 「揉む程無い癖に何言ってんだ・・・寝言は寝てから言えよ合法ロリエルフ」


 「何ですって!?」


 折角のアンネの提案も意味をなさず、2人は取っ組み合いの喧嘩を初めてしまった。

 呆れ果てたアンネはため息をつくと、茂みから顔を覗かせて街道を確認する。

 幸い道には誰もおらず、2人の喧嘩を聞かれる心配はなさそうだ。


 「折角早く着いたのですから、街に向かいませんか?私、街に行くのは久しぶりで楽しみにしていたんです・・・」


 アンネは少し悲しそうに呟いた・・・清宏はそれを見て、慌てて喧嘩を辞めた。

 ラフタリアも悲しげなアンネを見てバツが悪そうにしている。

 アンネは機嫌を損ねると、直るまでに非常に時間がかかる・・・罠に掛かり、湖で溺れそうになったアンネの服を脱がした時には、アンネの機嫌をとるのに丸1日かかったのだ。


 「ごめんな、もう喧嘩はしないからさ・・・」


 「私も悪かったわ・・・帰りは貴女の提案通り前に乗るわ」


 2人が冷や汗を流しながら謝ると、俯いていたアンネが笑顔で顔を上げた・・・どうやら、喧嘩を辞めさせるための嘘泣きだったようだ。


 「それは良かったです!さぁ、それでは早速街に行きましょう!?」


 アンネは手を叩いて2人に笑いかける。

 清宏とラフタリアは、してやられた事に気付いて苦笑した。


 「アンネよ、やるようになったな・・・でも、可愛いから許す!!」


 「あんたの態度がムカつくわね・・・何なのよ私とアンネに対する対応の差は?」


 サムズアップをしている清宏の背中を軽く小突き、ラフタリアは茂みを出る。

 清宏とアンネも後を追って茂みを出ると、街に向かって歩き出した。


 「ふわぁ・・・人がいっぱいです!」


 「まぁ、昼前だから食材目当ての買い物客やらで賑わってるんだろう」


 門の外から街中を見て目を輝かせているアンネに、清宏は笑いながら説明する。

 アンネしきりに頷き、ニコニコと笑いながら多くの人で賑わう街中を見渡していた。


 「さてと、じゃあまずは冒険者ギルドよね?私、この街に来るの初めてなんだけど何処にあるの?」


 「さぁ?」


 「さぁ?じゃないわよ!ちゃんとローエン達に聞いて来なさいよ!!」


 首を傾げている清宏の臀部を、ラフタリアは思い切り蹴り上げる。

 スキルで強化された蹴りを喰らった清宏は、その場で蹲った。


 「このくそアマ・・・尻が割れたらどうしてくれる!?」


 「元々割れてるでしょうが!」


 「・・・それもそうか」


 清宏は臀部をさすりながら立ち上がり、腕を組んで唸る。

 ギルドの場所を誰かに尋ねようかと悩んでいるようだ。


 「また兄ちゃんか・・・そこに突っ立っておったら邪魔じゃと前に言ったじゃろう?」


 背後から聞き覚えのある声が聞こえ、清宏は振り返った・・・そこには、以前オズウェルト商会の場所を教えてくれた老人が居た。

 老人は前回と同じく、野菜などを載せた荷車を2頭のロバに引かせているようだ。


 「おぉ、あんたはあの時の!久しぶりだな、元気だったかい!?」


 「見ての通りピンピンしとるよ・・・見たところまた道に迷っとるみたいじゃな、良かったら乗って行くか?」


 「それは助かる!今回は3人なんだが大丈夫か?」


 「構わんよ・・・今回はまた、えらい別嬪さんを2人も連れてどうしたんじゃ?」


 「いやぁ、今日は冒険者ギルドに行きたかったんだけど場所がわからなくてさ・・・あの2人は俺の家族同然の仲間だよ」


 老人の提案を聞き清宏は頭を下げると、アンネとラフタリアと一緒に荷車に乗った。


 「ありがとうございます」


 「ありがとう、助かるわ!」


 美少女2人に礼を言われ、老人は嬉しそうに頷くと、荷車を進ませた。

 清宏は老人の近くまで行くと、街中を見ながら話しかけた。


 「最近何か変わった事はあったかい?」


 「何にも無いのう・・・平穏な毎日じゃて」


 「そりゃ良かった・・・つまらなくても、平穏な日々ってのはそれだけで貴重なもんだ」


 清宏が笑いかけると、老人は優しい表情で頷く。

 取り留めのない会話ではあるが、2人は楽しそうにしている。


 「そう言えば、あの城については何か話は聞いてないか?」


 「そうじゃの、今のところ悪い噂は聞いとらんな・・・ただ、兄ちゃんが前に来た時よりも、あの城に行っておる者が増えたくらいかの?

 まぁ、あれから何も起こっとらんところを見ると、物騒な場所ではないのかもしれんの」


 老人の話を聞き、清宏は内心安堵していた。

 いくら気をつけているとは言え、ビッチーズやツクダに関する悪い噂が出ていないか心配だったのだ。


 「今日もあの場所で商売するのか?」


 「あぁ、あの場所は儂がこの街に来た時には借りられるようになっとるからの。

 他の行商人なんかも、前もって申請を出しとる者は皆同じ場所で店を出しとるよ」


 「そっか、じゃあまた寄らせてもらうよ!」


 「残っておったら全部兄ちゃんにタダでやるわい・・・この前の代金分はしっかりと渡さんといかんからの」


 「別に気にしなくて良いんだけどな・・・」


 清宏が苦笑すると、老人は首を振った。

 

 「そうもいかんて・・・正直、あの時は助かったよ・・・儂は、あの後しばらく体調を崩してしまっての、兄ちゃんから貰ったあのお金が無かったら、今もこうして野菜を作ることは出来んかったかもしれんのじゃよ。

 じゃから、あの時に貰った代金分はしっかりとお返しをせんとならん」


 「そっか、あれが役に立ってくれたなら良かったよ・・・もう体調は大丈夫なのかい?」


 「さっきも言った通り、今ではピンピンしとるよ・・・それもこれも兄ちゃんのおかげじゃよ。

 儂がこの街に来とる間は、何かあった時には遠慮なく聞いてくれ」


 「了解、身体を大事にしてくれよ?あんたに何かあったら俺は泣くからな・・・」


 老人は清宏を見て笑うと、優しく頭を撫でた。

 清宏は恥ずかしそうに顔を背ける。


 「兄ちゃんは優しいの・・・もし儂に孫がおったなら、兄ちゃんのような子じゃったら嬉しかったのう」


 「ははは、そりゃ嬉しいな・・・俺の死んだ爺さんも、あんたみたいに働き者だったよ。

 まぁ、それが祟って身体を壊しちまったけどな・・・だから、あんたも無理だけはしないでくれよ?そうすりゃあ、俺がいくらでも爺さん孝行してやるよ」


 「ほっほっほ!この歳になって初孫が出来るとはの・・・長生きはしてみるもんじゃな!」


 老人が嬉しそうに笑うと、目尻に輝く物が見える・・・清宏は、それをただ優しく見守っている。

 荷車の後ろに居たアンネとラフタリアは、楽しそうな2人の会話を邪魔する事なく聞き続けた。

 

 

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