第68話ラフタリアの弓

 グレン達の報告を受けて5日が経ち、クリスに会いに行く前日となった。

 前日の昼前だと言うのに、清宏達は既に殆どの準備を終え、出発前の最終確認するところのをようだ。

 それは、清宏達はこの数日間リリスやアンネ、ラフタリアと予定を話し合い、前日に街に入る事にしたからだ・・・冒険者ギルドに立ち寄る必要があるため、時間が掛かる可能性も考慮しての判断だ。


 「ラフタリア、出発前にこれを渡しておく・・・約束していたお前への謝礼だ。

 遅くなってしまったが、その分出来は最高の物に仕上がっている」


 出発前の確認をしている最中、清宏はラフタリアを呼び止めてアイテムボックスから弓と矢を一具取り出して渡す。

 ラフタリアはそれを見て目を輝かせると、受け取った弓を構えて笑った。


 「見た事の無い形をしているけど、性能はどうなのかしら?」


 「それはコンパウンドボウと言う物だ。

 滑車、ケーブル、てこの原理などの力学と機械的な要素で組み上げた弓だ・・・本当は複合材料があれば良かったんだが、そいつは竜骨のフレームをミスリルに少量のオリハルコンを加えた物で補強してある。

 コンパウンドボウは普通の弓より引く力が強いが、滑車と連動する事で効率良く引く事が出来、狙っている時の保持力が少なく安定する・・・さらに、初速が向上して高い命中精度が期待できる」


 ラフタリアは矢を番えずに弦を引く・・・細かい動作の確認をしているようだ。


 「風の魔石がいくつかはめ込まれているけど、何か特殊な力があるの?」


 「あぁ、いくつか魔術回路を組み込んでいるんだが、まずは弓としての性能を向上させる能力だ。

 グリップに魔力を込めるだけで発動するんだが、番えた矢を風で覆い、抵抗を少なくする事で飛距離や貫通力を向上してくれる・・・だが、硬いものに当たった場合は矢が保たない可能性があるから、さっき俺が渡したミスリル製の矢の時にのみ使ってくれ。

 次に、お前は魔法での攻撃もするようだから、風属性の魔法の威力向上、詠唱短縮も出来るようにしてある。

 お前が持っているスキルと組み合わせれば、さらに能力向上が見込めると思う」


 清宏が説明を終えると、ラフタリアはため息をついて弓と矢を返す。

 清宏が首を傾げると、ラフタリアは呆れた表情で笑らった。


 「あのね、流石にそんなヤバい物は受け取れないわよ・・・正直、私が今使ってる弓より遥かに性能が上よ?そりゃもう段違いな程にね・・・。

 私が使ってる弓ですら大金貨10枚はする最上級の一品なのに、この弓にはそれを上回る価値があるわ・・・いくらなんでも、そんな高級品を貰う訳にはいかないわよ」


 「何遠慮してんだよ・・・俺はこの前言っただろ?こいつは試験的な物なんだよ。

 実際に弓使いに使って貰わなきゃ、物の良し悪しなんて解らないだろ?

 正直、そいつは趣味で造った物だから詰め込めるだけ詰め込んだ・・・採算度外視だ。

 だが、それはお前用に造った物だから、お前が使わないなら破棄せざるを得ないんだよ・・・折角だし使ってみてくれないか?実際使ってみてもヤバくて使い道が無いって言うなら、その時返してくれたら良いからさ」


 清宏に頼み込まれ、ラフタリアは渋々と弓を受け取った。

 

 「まぁ、そう言う事なら受け取るけどさ・・・もしもの時の為に、他のも用意しといてよ?」


 「了解!あぁ、それともう一つ・・・こいつも渡しとくよ」


 清宏は再度アイテムボックスを開き、柄の無いナイフの様な物を取り出した。

 ラフタリアの持っている弓にそれを装着すると、清宏は満足して頷いた。


 「これで弭槍の完成だ!」


 「弭槍?」


 「弭槍って言うのは弓弭に槍穂を取り付けた物なんだが、こいつがあれば武器を持ち替えずに近接戦闘も可能だろ?

 お前はルミネと一緒で後衛だが、いざと言う時にはルミネを守って戦わなきゃならない・・・少しでも隙が減らせるように急遽造ったんだよ。

 オーリックの剣程ではないが、斬れ味は鋭いから気を付けてくれよ?」


 弭槍は、実際に戦国時代に使われていた武器だ。

 足軽に武器を貸し与える際、弓と槍の両方を支給しなくて済むため重宝されていた。

 本来は弓弭に紐で結わえ付ける物だが、清宏が用意した物はボルトで固定する物になっている。


 「はぁ・・・よくこんなの思いつくわね?

 弓の構造もそうだけど、どこからこんな知識を得てくるのよ・・・」


 「弓には昔から興味があったんだよ・・・。

 俺は罠が得意だろ?罠と言えば元々は狩猟に使われていた物だが、弓だって狩猟に使われる物だし、以前から色々と調べてたんだよ。

 まぁ、まさか自分で造る事になるとは思ってなかったけどな!」


 清宏は腕を組み、得意げに笑っている。

 興味がある物は徹底的に調べ理解しようとするのは、清宏の長所であり短所でもある。

 集中し過ぎて他がおざなりになっている事が多々あるのだ・・・。


 「さっきから聞いておったが、相変わらず加減を知らんなお主は・・・」


 「何事もほどほどが一番ですよ?」


 清宏とラフタリアが話をしていると、近くで準備をしていたアンネと、その手伝いをしていたリリスが笑いながら清宏を見ていた。

 アンネは既に準備を終え、あとは清宏とラフタリアを待つのみのようだ。


 「知識は最も重荷にならない財産だぞ?金がなくとも、稼ぎ方を知ってりゃ手に入るからな!

 それに、やらずに後悔するくらいなら、最初から好きなようにやって後悔したいんだよ俺は!」


 胸を張っている清宏に3人は呆れているようだが、当の本人は全く気にしていないようだ。


 「さて、そろそろ出発した方が良いのではないか?」


 リリスの言葉を聞き、清宏はラフタリアを見る。

 段取りの最終確認をするためだ。


 「ラフタリア、クリスさんを城に招く時には街に残って貰わないといけない・・・宿泊費なんかは別に渡すから我慢しててくれ」


 「了解!まぁ、折角だしこの弓を使ってギルドの依頼をこなしとくわ!」


 「アンネには色々と苦労を掛けて申し訳ないが、クリスさんには気を付けて接してくれ・・・本格的に話をする前に正体を知られたらマズイからな。

 まぁ、アンネはその辺は心配いらないか・・・吸血鬼とは思えないくらい純粋だしね」


 「からかわないでください・・・」


 アンネは清宏にからかわれ、恥ずかしそうに俯いた。

 

 「リリス・・・すまないが、クリスさんを連れて来た時にはお前にも話をしてもらわないとならない。

 俺だけじゃなく、お前の言葉で彼の心を掴んで欲しい・・・」


 「解っておる・・・お主が頑張ってくれるんじゃ、妾もそのくらいはこなして見せよう。

 近いとは言え、道中は気を付けるんじゃぞ?」


 「あぁ、それじゃあ行ってくるよ」


 清宏とラフタリアは手を振り、アンネは頭を下げてリリスに挨拶をする。

 3人は城門を出ると、銀狼に変身したアンネに跨り街に向かって駆け出した。

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