第67話清宏の思惑
城内玉座の間・・・早めの夕食を済ませた清宏達は、テーブルを囲んで何やらはしゃいでいるようだ。
「清宏、後生じゃ!その金を取られてしまっては、妾はもう生きては行けんのじゃ!!」
「残念だが、これはルールだ・・・お前が馬鹿みたいにギャンブルで散財したのが悪い!」
清宏はリリスが握りしめていた玩具の貨幣をむしり取って高笑いをしている。
清宏は今、リリス、ラフタリア、リリの4人で、自作の人生ゲームの真っ最中だ。
地球の職業などは他の者が解らないため、こちらの職業に置き換えたりと手の込んだ物になっているのだが、冒険者は通常の人生ゲームでいうフリーターのような職業だがハイリスクハイリターンとなり、ギャンブルに至っては一攫千金のチャンスとは名ばかりの青天井方式だ・・・勝てば極楽、負ければ地獄を見る事になる。
「お前、絶対にリアルでギャンブルに手を出すなよ?マジで破産するぞ・・・」
玩具の貨幣を数えながら清宏はリリスに釘を刺したが、リリスは不貞腐れて椅子の上で体育座りをしている。
「あんた少しは手加減してやんなさいよ・・・リリス様ずっと最下位よ?」
「勝負事では手加減をしないってのが信条なんでね!てか、毎回毎回ギャンブルし過ぎなんだよこいつは・・・」
「一攫千金は浪漫なんじゃ・・・」
清宏が嗜めてきたリリに答えていると、リリスが虚ろな目で乾いた笑いをしながら呟いた。
「まぁ、その気持ちはわからなくも無いけどね・・・それで負けてたら意味無いと思うわよ?」
「次こそはと思うと辞められんのじゃ・・・」
「完全にギャンブル依存性じゃねーか・・・ん?こんな時間に誰か来たか?」
ラフタリアと清宏がリリスに呆れていると、広間に表示させているマップに、生体反応を表すマーカーが点滅した。
水晶盤を見ると、グレン達が帰ってきたところのようだ。
「そうか、あいつら今日帰ってくるんだったな・・・忘れてたわ」
「あんたが休暇出しといてそれは無いんじゃない?」
「あいつら飯食ったかな?とりあえず、何か有り合わせで用意しとくかな・・・おーいアンネ、何かグレン達に食事を用意してやってくれ!」
清宏はラフタリアに呆れられている事を気にも留めず、広間の隅で黄昏ているアンネに声を掛けた。
アンネは先程までアリーとオセロをして遊んでいたのだが、50連敗というあまりの実力差に打ちひしがれているようだ。
今はローエンとウィルが2人がかりで挑んでいるが、ほぼ全ての駒をひっくり返されて泣きそうになっている。
「あの子強すぎじゃない?」
「あぁ・・・俺も多少は腕に覚えはあるが、あいつには勝率4割行けば良い方だからな。
正直、あれでまだ子供ってのが信じられん・・・成長したらどうなる事やら」
ラフタリアと清宏がアリーを見て唸っていると、扉が開いてグレン達が入って来た。
「戻ったぜ・・・流石にしんどかった」
「おう、お疲れさん!その様子じゃあまり休めなかったか?」
「色々とあり過ぎて殆ど休めなかったよ・・・」
「今アンネに軽い夕食を用意して貰ってるから、話は食べながら聞かせてくれ」
清宏はテーブルの上を片付け、グレン達に椅子を用意する。
シスはリリスに駆け寄って抱き着いたが、まだ不貞腐れているリリスは抵抗せずにされるがままだ。
「ご主人様、街でオーリックさん達と会いましたよ!なんかギルドマスターと知り合いだったらしくて立ち寄ったみたいです!」
「あの街のギルドマスターって確かネルソンよね?元気にしてるの?」
レティが清宏に駆け寄って報告をすると、ラフタリアが懐かしそうに笑いながら尋ねた。
「オーリックのダンナ曰く、相変わらずだってさ・・・俺も、ギルドに寄ったらこっ酷く絞られたよ」
「何か問題でもあったのか?」
清宏はアンネが用意してきた料理をグレン達に渡しながら首を傾げる。
すると、グレン達3人は申し訳なさそうに頭を下げた。
「すまねぇダンナ・・・俺達、ギルドに長期契約の申請出し忘れてたんだよ。
その事でギルマスに説教喰らってさ、取り敢えず規定で定められた契約金の2割は俺達で納めたんだが、ダンナには一度ギルドに出向いて貰わないといけなくなっちまった・・・」
「なんだそんな事か・・・お前達は気にするな。
知らずに契約を結んだ俺にも責任はあるからな・・・クリスさんに会いに行く時についでに寄ってくるよ」
清宏が平然と答えると、グレン達は拍子抜けした表情で顔を見合わせた。
「怒られると思って覚悟してたんだけどな・・・」
「何で怒るんだよ、別にわざとじゃないんだろ?
なら怒る必要はないだろ・・・それより、お前達が立て替えた契約金の2割な」
「そんなの受け取れねーよ!ただでさえ迷惑掛けちまったし、それに報酬で貰った武具を売った金もあるからさ!!」
グレン達は、差し出された大金貨10枚を返そうとしたが、清宏はそれを受け取らなかった。
「いや、それは違う・・・契約金は、元々は俺がギルドに納めなきゃならなかった物だ。
それに、お前達が俺の満足できる仕事をしていると判断したからこそ報酬を出したんだ・・・なのに、それを立て替えて貰ってそのままなんてのは、雇い主としてあってはならない事だと思っている。
これから先、何があるかは解らない・・・国との交渉が上手くいく保証も無い。
そうなれば、お前達を巻き込む訳にいかないから解雇もあり得る・・・金は有って困るもんじゃ無いだろう?
だから、お前達は気にせず受け取ってくれると助かる」
「何から何まですまねぇ・・・もしヤバい事になったとしても、俺はあんた達を絶対に裏切らねぇよ。
あんたが俺達を追い出したとしても、俺は絶対にあんた達を見捨てて逃げるなんて真似はしねぇ!」
「それに関しちゃあ俺も同意見だな・・・俺は知っての通りケチでがめついが、受けた恩は絶対に返すつもりだ。
例えあんたに追い出されようが、俺は正面切って戦うぜ?」
グレンの言葉を聞き、アリーに惨敗したローエンが清宏を見て誓った。
シス、レティ、ウィルの3人も頷いている。
「気持ちだけは有難く受け取っておくよ・・・」
「揃いも揃って馬鹿な奴等じゃの・・・じゃが、有難い事じゃ」
清宏とリリスは、ローエン達に頭を下げた。
ラフタリアは笑いながら見守っている。
お人好しな魔王と、それに手を貸す人間・・・彼等を見ていると、魔族と人族の和睦も夢では無いと思える。
「そう言えば、クリスさんの返事はどうだった?」
「あぁ、そっちが本題だな・・・取り敢えず、昨日聞いた限りでは1週間後と言ってたから、6日後にはこっちに来てくれるらしい。
5日間程予定を空けて来てくれるらしいから、ゆっくり話が出来ると思う」
グレンの報告を受け、清宏は表情が明るくなった。
清宏にとっても、仕事を抜きにしてもクリスに会えるのが嬉しいのだろう。
「そうか、それは良かった・・・忙しいはずなのに、あの人には感謝しきれないな」
「そう言えば、設計図に関してお礼を言っていましたよ・・・おかげで良い勉強になりましたといわれていました。
なぜ清宏さんはわざと仕様を少なくされたんですか?」
リリスを抱きしめたままのシスに尋ねられ、清宏はニヤリと笑って頷いた。
「流石、気付いてくれたか・・・確かにあれはわざとだよ。
技術の進歩ってのは、1人だけじゃ成し得ないものなんだよ・・・競い合う相手がいなければ、それ以上先には進めない。
自分以外の者が造った物を見て、使って、それに改良を加えるからこそ進歩するんだ。
極端な話、人類の歴史は争いとは切っても切れない関係だ・・・だが、争うからこそ今の技術があるとも言える。
皮肉な話だが、戦争で編み出された技術が今では生活において必要になっている物もあるからな」
清宏はしみじみと語っている。
確かに清宏の言葉の通り、戦争などで利用されていた技術が、現在では生活に役立っている物もある。
例えば、瞬間接着剤はベトナム戦争時に応急処置として利用されていた過去があり、携帯や時計、車の位置情報などに使われているGPSも元来は軍事用だ。
戦争とは命を奪い合う凄惨なものでありながら、技術を進歩させる要因となり得るのだ。
「清宏さんは、オズウェルト商会と競い合いたいのですか?」
「競い合いたい訳じゃないさ・・・ただ、俺が造った物を広めるためには、彼等に理解して貰わないと始まらない。
俺が造った物をそのまま模倣したって、お客さんが満足してくれるかは解らないだろ?
だから彼等の力を借りるには、まず俺の考えを理解して貰いたかったのさ・・・あの魔術回路を使えばどう言った仕様を追加出来るかとか、自分達で考えて欲しかったんだよ。
まぁ、偉そうな事を言ってはいるが、俺だって向こうの物を模倣している贋作屋でしかないんだけどな・・・」
シスの質問に答えた清宏は、自嘲気味に笑う。
だが、シスは首を振ってそれを否定した。
「贋作屋なんてとんでもありません・・・確かに、清宏さんが造っているのはオリジナルではないのかもしれません。
ですが、私達この世界の人々にとってはそんな事関係ないんです・・・私達にとって貴方の造る物はどれも素晴らしく、生活を豊かにしてくれます。
何も知らない私達にとっては、貴方が造るものこそがオリジナルなんです・・・だから、贋作屋なんて卑下しないでください」
きょとんとした表情で清宏に見つめられ、シスは恥ずかしそうに俯く。
清宏は意外な答えに徐々に笑いが込み上げ、シスに頭を下げた。
「ははは、まさかそんな風に言われるなんて思ってなかったよ・・・ありがとう」
「い、いえ・・・偉そうな事を言ってすみません」
「さてと・・・話も聞けたし、3人共風呂に浸かって疲れを取ってくれ。
アンネとラフタリアは街に行く時の予定を決めたいからこっちに来てくれ・・・それとリリスも参加してくれ、色々と話をしておきたい」
グレン達は清宏とリリスに一礼して風呂場に向かう。
清宏はリリス達と共に、夜遅くまで予定を話し合った。
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