第70話ギルドマスター・ネルソン

 清宏達は老人の荷車に揺られ、冒険者ギルドの前に到着した。

 ギルドの前は冒険者で溢れているが、その冒険者達の目は清宏達に・・・いや、アンネとラフタリアの美少女2人に釘付けになっている。

 アンネは白銀に輝く長く美しい髪を結い上げ、シスから借りた大人しめな服に身を包んでいるが、どこから見ても良家のお嬢様にしか見えず、ラフタリアは見た目こそ15〜16歳程に見えるが、金色に輝く髪をツインテールにし、動き易さを重視したチューブトップにジャケットを羽織り、ホットパンツにサイハイソックス、ブーツと言う服装をしているが、エルフ特有の美しさのおかげか全くあざとさを感じられない。

 だが、そんな美少女2人と一緒にいる清宏は外出用にとシス達が買ってきてくれた服を着ているのだが、身長は175cmでザ・日本人と言った顔立ちをしてはいるが、三白眼で若干目付きが悪いためかなり浮いている。


 「どれ、着いたぞ・・・それにしても、あのお嬢さん方は目立っとるの」


 「だろ?こんな美少女2人に囲まれて、俺は正直気が気じゃないよ・・・俺の方が悪目立ちしちまうからな。

 兎にも角にも助かったよ!この街にはまだ2回しか来てないけど、2回ともあんたに助けられた・・・本当に感謝してるよ」


 清宏達は荷車から降りて老人に頭を下げる。

 老人は笑いながら首を振り、清宏の頭を撫でた。

 清宏は恥ずかしそうに俯いたが、優しい表情の老人を見て大人しく撫でられている。


 「なに、気にする事はない・・・儂らには縁があったと言う事じゃろう。

 それより、兄ちゃんの名前を聞いておらんかったの?儂の名はフォルバンじゃ」


 「それもそうだな・・・本当なら前回名乗ってなきゃいけなかったのに申し訳ない。

 俺は清宏、そして銀髪の娘がアンネロッテ、エルフの娘はラフタリアだ。

 フォルバン爺さん、また後で寄らせて貰うよ」


 清宏達がもう一度頭を下げると、フォルバンは手を振りながらロバに鞭を打って荷車を走らせて行った。

 清宏はフォルバンの姿が見えなくなるまで見送り、アンネとラフタリアを振り向く・・・すると、2人は清宏をからかうような目で見ていた。


 「何だよ2人して・・・」


 「いえ、清宏様が何だか普段とは別人みたいでしたので・・・」


 「鬼の清宏様はお爺ちゃん子だったのね?」


 清宏が訝しんで尋ねると、2人は笑いを堪えながら呟いた。


 「うるせーよ・・・世話になった人に失礼があっちゃダメだろ!?さっさと中に入るぞ!!」


 「あら、照れなくても良いじゃない?」


 「そうですよ清宏様?」


 2人にからかわれたが、清宏はそれを無視してギルドの扉を開く・・・だが、清宏が耳まで真っ赤になっているのを見て、2人は笑いながら後を追った。


 「いらっしゃいませ!今日はどの様なご用件でしょうか?」


 清宏達が中に入ると、いち早く気付いた受付嬢が笑顔で挨拶をしてきた。

 その受付嬢は、先日グレン達と親しげにしていた女性だ。


 「やぁ、すまないがギルドマスターに取り次いで貰えるかな?たぶん、ローエンやグレンの雇い主が来たって言えば伝わると思うんだが・・・」.


 「あっ・・・お話は伺っております!では、今呼んで参りますので、こちらに掛けてお待ち下さい!」


 受付嬢に案内され、清宏達がロビーの一角にある椅子に座ると、その場に居た冒険者達の視線が集中した。


 「落ち着かないな・・・2人共目立ち過ぎなんだよ」


 「あら、この視線は私とアンネにじゃなくて貴方に向いてるんじゃないの?

 そりゃあそうよね・・・こんな美少女2人を侍らせてるんだから、嫉妬されてもおかしくないんじゃない?」


 「自分で美少女とか言うかね・・・まぁ、否定はせんけども。

 俺だけ浮いてるのは解ってんだよ・・・顔の作りもこっちの奴等とは違うしな」


 清宏は深いため息をつきながら冒険者達を睨む。

 すると、冒険者達は蜘蛛の子を散らしたように早足でその場を離れて行った。


 「おー怖い・・・貴方の眼力って相当よね?」


 「うるせーよ!生まれつきだ馬鹿!」


 清宏が睨むと、ラフタリアは舌を出して肩を竦める・・・アンネはそんな2人を見ながら苦笑している。

 清宏達が話をしていると、奥から先程の受付嬢と大柄な男性が歩いてきた・・・ネルソンだ。


 「やけに騒がしいと思ったら、やはりお前だったか・・・久しぶりだなラフタリア。

 そちらのお2人は初めましてですね、私がギルドマスターのネルソンです。

 本日は遠路はるばる御足労いただき、感謝しております」


 「やっほーネルソン!相変わらず図体でかいわね?」


 ネルソンが頭を下げると、ラフタリアが笑いながら話しかける。

 ネルソンは頭を上げると、顔をしかめながらラフタリアに軽く拳骨をした。


 「あのな・・・お前の方が歳上ではあるが、立場は俺の方が上なんだぞ?そこんところ弁えろ!」


 「はいはい、悪うございましたね・・・こんなところで立ち話もなんだし、早く部屋に案内してくれない?」


 「それはお前の言って良い台詞じゃないだろ!

 全く仕方ねーな・・・騒がしくて申し訳ありません、お2人もどうぞこちらへ、私の執務室でお話をさせていただきます」


 ネルソンは後頭部を掻きながらため息をつくと、清宏とアンネに再度頭を下げ、執務室まで案内をした。


 「改めて自己紹介を・・・私の名はネルソンと申します。

 そちらに居るラフタリアとは旧い知り合いでして、久しぶりの再会に少々見苦しいところをお見せしてしまいました」


 「いえ、お気になさらず・・・旧友との再会は喜ばしい事ですから。

 私の名は清宏、こちらはアンネロッテと申します・・・今回は知らなかったとは言え、ご迷惑をおかけして申し訳ありませんでした」


 「どうか頭を上げてください・・・今回は忘れてしまっていたローエン達にも非がありますので、気にする必要はございません。

 ただ、どの様な経緯で契約を結んだのか、どの様な仕事を任せているのかなどをお聞かせいただき、あとは書類を書いていただければ問題ありません」


 清宏が謝罪をするとネルソンは笑顔で頷き、手順の説明を行った。


 「私がローエン殿達と知り合ったのは、私の住居に彼等が迷い込んだのがキッカケです・・・その時は誤解もあり私が追い返してしまったのですが、その後この街で彼等と再会し、誤解を解くことが出来ましたので私から契約を持ちかけました。

 彼等の腕は一度見ておりましたし、何より彼等の人柄が気に入りましたので、破格とは思いましたがお詫びの気持ちも込めて大金貨50枚を支払いました・・・。

 彼等には私の住居の警備や魔道具やアイテム製作の補助、素材集めや街への買い出しなどをお願いしております。

 以上が契約を結んだ経緯と仕事内容になります・・・他に何か聞きたい事はございますか?」


 清宏が説明を終えると、ネルソンは腕を組んで唸った・・・何か引っかかるのだろうか?

 清宏はバレない程度に嘘を交えていた・・・それに気付いたのだろうか?


 「彼等と出会った経緯については概ね解りました・・・ただ、仕事の内容が少々気になります。

 あまりにも多額な契約金に対して、仕事内容が釣り合わないのです・・・彼等を信頼してと言うだけでは、本部へ報告する際色々と勘ぐられてしまう可能性があるんですよ。

 それに、貴方は彼等を追い返したと言われましたが、彼等は知っての通りA級のパーティだ・・・それを追い返せる程の実力がおありなら、彼等を雇う必要があるのですか?」


 「確かに仕事内容としては単純なものですが、私は一つの事に集中しだすと周りが見えなくなってしまうのです・・・それは、何日も徹夜をしてしまうほどに。

 そんな状態では住居を守る事もままなりません・・・普段の生活の手伝いも、こちらのアンネに任せきりになっているのが現状なのです。

 私は、彼等の仕事振りは十分報酬に見合うものだと考えており、仮に彼等が私の元を去った際、少しでもその後の生活に役立てて欲しいと思っているのです」


 清宏はネルソンの目を真っ直ぐに見て断言した。

 すると、ネルソンは押し切られた形で渋々頷いた。


 「はぁ・・・ラフタリアも関わってると言う事は、国も少なからず関わっているのでしょう。

 貴方が何者かは聞きませんが、少なくともローエン達に対する考え方には嘘は無いようです・・・今回の件は本部にはうまく誤魔化しますので、依頼をいくつかに分けて書類を書いていただきます。

 警備をメインに素材の収集、魔物の討伐など小分けにすればある程度は誤魔化せるでしょう」


 「ご配慮に感謝いたします・・・ただ、何ぶん初めてなもので、書類作成の仕方を教えていただけますか?」


 「えぇ、ではこちらに記入をお願いします」


 清宏はネルソンに記入例などを聞きながら書類を書いていく。

 覚えの良い清宏はすぐにコツを掴んで書類を書いていくが、その枚数が尋常じゃない・・・。


 「こ、これで終わりでしょうか・・・」


 「えぇ、記入漏れも無いようですし問題ないでしょう!お疲れ様でした!」


 ネルソンが書類チェックをしている間、清宏は不安そうに待っていた・・・それもそのはず、清宏は計30枚にも及ぶ書類を書いたのだ。

 もしもやり直しなどがあったら、清宏はキレていただろう・・・。

 清宏が安堵していると、ネルソンは深く頭を下げた。


 「彼等の事、よろしくお願いします・・・貴方もですが、彼等もまだ若く未来があります。

 冒険者という職業には危険が付き物である事は皆知っております・・・ですが、死んでしまっては次は無いのです。

 私は、貴方も含め彼等未来ある若者達には、これからも生きて世界の広さを知って欲しいのです」


 優しい笑顔を見せるネルソンに、清宏はしっかりと頷く。


 「貴方のお気持ちは、私も十分に理解しております・・・私は決して彼等を蔑ろにするつもりはありません。

 彼等は私にとって友であり家族なのです・・・私は、家族を危険に晒すような真似はしたくはありませんから」


 「ありがとうございます・・・」


 「ねぇ、終わったんならお昼にしない?」


 清宏とネルソンが握手を交わしていると、今まで邪魔をしないように黙っていたラフタリアが、腹をさすりながら提案した。


 「あのな、空気よもうよ・・・」


 「仕方ないじゃない・・・何もしないのは暇でお腹がすくのよ。

 それにしても、貴方って真面目な会話出来たのね・・・ルミネが聞いてたら驚くわよ?」


 「うるせーよ!お前みたいな奴が相手じゃなきゃ真面目に会話するんだよ!!」


 清宏がラフタリアに怒鳴ると、それを見ていたネルソンが笑顔になった。


 「ははは!やけに大人びた若者だと思っていましたが、実際は年相応といった感じですな!

 いや、その方が良いのかもしれません・・・飾らずに接する事が出来る相手が居るのは良い事です。

 今日はお時間をいただきありがとうございました・・・また何か依頼などありましたら、ローエン達以外にも回してやってください」


 「えぇ、今後は忘れずに申請させていただきますよ・・・では、私達はこれで失礼します。

 早く昼飯にしてやらないとうるさいのが居ますから・・・」


 「ネルソンも行く?」


 「俺は仕事だ馬鹿者!この大量の書類の処理をしなきゃならんのだ!!」


 ネルソンはラフタリアを部屋から追い出すと、清宏とアンネに頭を下げて部屋に戻って行った。

 ラフタリアは何か叫んでいたようだが、腹の虫には勝てずすぐに大人しくなった。


 「ローエン達はおっかないって言ってたが、部下思いの良い人だったじゃないか?」


 「そりゃそうよ、そうじゃなきゃギルドマスターにはなれないもの・・・ネルソンは、誰よりも熱くて仲間思いの良い奴なのよ。

 さて、それじゃあお昼は何食べようかしら?」


 「ラフタリア様はブレませんね・・・」


 「良い事言っても自分から台無しにするよな・・・」


 清宏とアンネは呆れていたが、ラフタリアは全く気にする事無く飲食店の並ぶ通りを目指して歩いて行った。


 

 

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