第62話ご近所付き合い

 陽が傾き始め、清宏達が存在すら忘れてしまっていた頃、やつれ切ったジルが広間に戻ってきた。

 その後ろには、呆れた表情を浮かべているリリと、満足そうに笑っているビッチーズ達もいる。

 状況が理解出来なかった清宏はリリを呼び、何があったのか尋ねた。


 「おい、ジルは一体どうしたんだ・・・ポーションとヒロ○ンは飲んでたんだろ?」


 「えぇ、5本ずつは飲んでたわ・・・でも、それ以上に頑張ったのよ彼は」


 「なぁ、まさかとは思うが・・・」


 「そのまさかよ・・・サキュバス相手に20人抜きとか正気を疑うわ」


 ウンザリした表情でリリが項垂れると、清宏は冷や汗をかきながらジルを見た。

 体格的にはローエンやグレンの方が優れているというのに、ジルは彼等の3倍の人数を相手にしたのだ・・・流石の清宏も言葉が出てこないようだ。

 そんな事はつゆ知らず、ジルは清宏に気付いて弱々しく手を上げた。


 「よぉ・・・やってやったぜ?」


 「お、おう・・・お前、凄いと言うよりヤバイな?で、どうだった?うちのビッチーズ達は楽しめたか?」


 清宏はプルプルと小刻みに震えているジルにポーションを渡して感想を聞いた。

 ジルはそれを飲み干し一息つくと、笑って清宏を見た・・・やり切った漢の表情だ。


 「めちゃくちゃ良かったぜ・・・正直、あそこまで満足させられたら文句の言いようも無え。

 だが、俺はちっとばかし問題ありだと思うぜ・・・」


 笑っていたジルは声をひそめて清宏に耳打ちする。

 それを聞いた清宏は、意外な答えに眉をひそめてジルを見た。


 「あんたなら気付くはずだ・・・このまま国の許可が降りた場合に起こる面倒ごとにな」


 清宏はしばらく考え込み、やがて何かに気付いてジルを見た。


 「他の娼婦や娼館、それの元締めか・・・?」


 「ご名答・・・あれだけの美人揃いで床上手、さらにはタダ同然とくりゃあ他は商売上がったりだ。

 俺は念のため全員とやらせて貰ったが、あれはハマったら抜け出せ無えぞ・・・ここ目当てに男が集まれば、他から妨害がくる可能性が高い。

 国の許可が降りずとも、魔王相手に面と向かって何かやるとは思えないが、それ以外なら手段は選ばないだろうな・・・」


 「良くも悪くも噂が広がるのは早いからな・・・良からぬ噂を流されたら面倒だ。さて、どうしたもんかね?」


 清宏は腕を組んで唸り、ビッチーズ達を見る。

 話が聞こえていないビッチーズ達は、清宏と目が合って首を傾げた。


 「あんたは、他の街でも同じことをするつもりなのか?」


 「いや、ここだけのつもりだよ・・・いずれは城と地下で繋げた別館を作るつもりだが、街に進出するつもりは無い。

 管理が面倒になるし、何より城から離れちまうと魔石が取れないからな」


 「なら、その別館を会員制にするとかした方が良いかもな。

 いつでも誰でも利用可能にするんじゃなくて、城内の宝箱なんかに会員証を作って入れておけば良いんじゃないか?今利用している奴等には、前もって渡しとけば反感を買う心配も無いだろう。

 あんたの計画からはズレちまうかもしれないが、人との争いを避けたいなら妥協するべきだと思う・・・あんたが条件付きで妥協するなら、他の奴等だって強くは出れないだろうしな。

 娼館なんかの裏稼業ってのは、ご近所付き合いは大事だぜ?基本的に縦社会だが、横の繋がりも大事にしなきゃ足元をすくわれちまうからな」


 「確かに計画からはズレちまうが、面倒ごとになるよりはマシだからな・・・解った、あんたの言う通りにするよ。

 ただ、何かあった時には間を取り持ってくれたら助かる」


 「まぁ、言い出しっぺだしな・・・俺は仕事柄そっちにも顔が利くからそん時にゃあ喜んで協力するよ。報酬は会員証でよろしくな!」


 清宏はため息をついて頷き、ジルの提案を飲んで握手を交わした。

 会員制となれば利用者は減るかもしれないが、下手に他を刺激するよりは賢い選択だろう。


 「許可が降りた場合、出来れば人間の娼婦も何人か雇いたいんだけどな・・・フリーの娼婦を雇うかどうするか」


 「どうするつもりなんだ?」


 「いや、実際にやって見なきゃビッチーズ達の良さは解らないだろ?でも、流石にサキュバスとはって感じる奴等もいると思うんだよ。

 そう言った奴等向けに、人間の娼婦も居た方が良いのかなと思ってるんだよな・・・」

 

 清宏の言葉を聞いて、ジルはニヤリと笑う・・・何か妙案があるのだろう。


 「ならよ、他の所から借りて来たらどうだ?金を払って女を借りれば、向こうは何もしなくても金が手に入るから嫌とは言わないはずだ。

 それに、借りて来た女にはこっちで決めた額を支払ってやりゃ良い・・・ここは結構儲かってるみたいだし、魔道具なんかを売れば良い金になるだろ?さらに、石鹸の利益なんかも入ればそのくらい余裕じゃないか?」


 「ふむ、それなら向こうにとっても利になる話か・・・フリーの娼婦も仕事が無くちゃ困るだろうし、働きたい奴がいないか探してみるのも良いかもしれないな」


 清宏が頷きながら今後の計画を練っていると、ジルが首を振ってそれを止めた。


 「フリーの娼婦はやめといた方が良いぞ・・・娼館に居る女は店側が病気なんかに気を使っているが、フリーの奴等は正直質が悪いんだよ。病気やら何やら後々面倒になるぞ?

 それにフリーの娼婦ってのは基本的に生活に困って仕方なくウリをやってるのが多いから、もし雇うなら清掃係とか雑用にした方が良いだろう。

 それでも娼婦として働きたいって言ったなら、検査なんかは定期的にしてやった方が良いな」


 「流石に詳しいな・・・勉強になるよ。

 他に気を付けた方が良い事はあるか?」


 「あとは、風呂なんかもあると良いかもな・・・やる前と後に身体を綺麗にして貰うのはウケると思うぞ?」


 「ほほう!ソープランドってやつですな!?

 なら、ローションの開発もせねばならんな!!」


 清宏はジルのアドバイスをメモしながら、ニヤニヤと笑っている。

 離れた場所からそれを見ていたルミネやリリ達は、また良からぬ計画を立てているのだろうと思いながら、深いため息をついていた。

 

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