第63話出立
一夜明けてオーリック達が王都に戻る日となった。
外はまだ陽が昇りきっておらず、冒険者がやってくるにはまだ時間があるが、オーリック達を見られては都合が悪い為、皆準備のために普段よりも早い時間に起きている。
そんな中、清宏は工房で国王への贈り物・・・自分達の価値を測って貰うための魔道具や石鹸などを用意し、確認作業を行なっていた。
用意しているものは日用品が主だが、魔道具はオズウェルト商会に権利を渡した物を除外し、小型化した骨伝導の通信機など未発表の物を数点だ。
良い結果が出た場合には、製作をオズウェルト商会に任せて関係をより確かなものにするのも良いだろう。
「こんなもんかね・・・」
「おはようございます清宏殿」
清宏が物品の数をチェックしていると、出立の準備を終えたオーリックが様子を見に来た。
朝食前だが、すぐに出立出来るようにオーリックは鎧を着込んでいる。
「おっす、もう準備は出来たのか?」
「えぇ、十分に休ませて頂きましたし、おかげ様で皆既に準備を終えて広間に集まっております」
「そっか・・・なんと言うか、あんた達が2日しか居なかったってのが信じられんくらいに賑やかだったよ。王都までは気をつけて帰んなよ?」
「ありがとうございます・・・我々は調査の為に訪れたはずでしたが、まさかここまで歓迎していただけるとは夢にも思っておりませんでした・・・一宿一飯の恩義、必ず返させていただきます」
清宏はオーリックに握手を求められ、それに快く応じる。
「あまり気負いしないでくれ・・・成り行きとは言え、無茶な頼みである事は自覚してるからな。
あんた達の準備が出来たなら、そろそろ朝食にするか・・・すまないが、いくつか運んでくれたら助かるよ」
「その程度お安い御用です!」
清宏とオーリックは、品物を載せた2台の台車を押しながら広間に向かう。
広間には既に朝食の準備が出来ており、皆は清宏とオーリックを待っていたようだ。
「やっと来おったか・・・お主は集中しだすと時間を忘れるのがいかんの?」
「やかましいわ・・・文句があるなら手伝えば良いだろうが」
清宏は愚痴を言いながらニヤケているリリスの隣に座り、皆を見渡した。
オーリックがルミネの隣に座ったのを見て、清宏はリリスの脇腹を小突く・・・小さな声で、何か挨拶をしろと言っているようだ。
「あー・・・なんじゃ・・・皆腹が減っておるじゃろうが、少しだけ話を聞いてくれ。
皆も知っての通り、オーリック達は今日王都に戻る・・・彼等は国王の命を受けこの城の調査に訪れたが、我々とこの国の橋渡しを買って出てくれた。
それもこれも全ては、皆が妾の個人的な拘りに意を唱えず、協力し、彼等の理解を得るに値する働きをしてくれたおかげじゃ・・・この場を借りて礼を言わせて貰う。
それとオーリック、お主達にも礼を言わせて欲しい・・・協力を買って出てくれたと言う事は、お主達にとっては忠義を尽くすべき国との板挟みとなると言う事じゃ・・・誠に申し訳なく思っておる。
礼の代わりと言ってはなんじゃが、もし国内でのお主達の立場が危うくなった場合、妾はお主達を絶対に見捨てはせん・・・必ずや力になると約束しよう。
さて、時間もあまり無いからの・・・妾からは以上じゃが、清宏は何か言いたい事は無いかの?」
挨拶を終えたリリスが清宏を見る。
清宏はまたかと言いたげな表情をしたが、ため息をついて立ち上がった。
「騒がしいグレンやシス、レティの3人は居ないし、ラフタリアはここに残るがオーリックやルミネ達は今日で城を発つからしばらく静かになってしまう。
だが、やる事はいつも通りだ・・・皆気を引き締めて役割を果たしてくれ。
さっきリリスも言っていたが、オーリック達の協力が得られたのは、皆の日頃の努力の賜物だ・・・だが、それに慢心せずこれからも頑張って欲しい。
魔族に対する人族の印象は最悪の部類に入るだろう・・・だが諦めずに頑張っていれば、オーリック達のように理解してくれる者達も必ず現れる。
魔族と人族の和睦の道は、長く険しいものだ・・・だが、俺達がその先駆けという意識を持って努力すれば、いずれはそれも実現出来ると思っている。
最後に、国王への贈り物を準備してあるから、それをオーリック達に預ける。
アイテムボックスを圧迫するからあまり量は用意していないが、少なくともお偉方に納得して貰えるような物を見繕ってある。
君達にも今回の礼として俺の造った武具をいくつか用意してあるから、今後役立てて欲しい。
長くなってしまったが、朝食をいただくとしよう・・・では、いただきます」
清宏が挨拶を終えると、皆一斉に朝食を食べ始めた。
オーリックとカリス、ジルの3人はローエンとウィル、アルトリウスと笑いながら話し、ルミネはアンネとレイス、ラフタリアとリンクスはリリとビッチーズ達としばしの別れを惜しみながら会話をしている。
清宏とリリスは、楽しそうにしている皆の笑顔を眺めながら朝食を摂った。
「さて、片付けは後にしてオーリック達を見送ろう。
オーリック達はそれぞれ品物をアイテムボックスに入れてくれ」
皆が朝食を食べ終わるのを見計らい、清宏がオーリック達を呼んだ。
オーリック達は手分けして全ての品物をアイテムボックスに収納すると、清宏に手を差し出した。
「お預かりした品は必ずや国王に届けます・・・次にお会いする時は、同志としてここに来れるよう努力いたします」
「あぁ、俺もまたあんた達と飲みたいからな・・・次は何のしがらみも無ければ最高だな!」
清宏はオーリック達とそれぞれ握手を交わして声を掛けた。
ルミネと握手をする時、清宏はまたも下着チェックをしようとしたが、事前に予知されていたらしく失敗してしまった。
「んじゃまぁ、俺からの謝礼だ・・・あり合わせの物を改良しただけだが、なかなか良い仕上がりになっていると思う。
まずはオーリック、あんたにはこれだ」
清宏はアイテムボックスを開くと、オーリックに腕輪を差し出した。
それは、光・闇・火・水・風・土・雷・氷を表す8つの魔石が埋め込まれたミスリル製の腕輪だ。
「ありがたく頂戴いたします・・・これはどの様な物なのですか?」
「あんたの鎧は物理防御に特化してるだろ?だから、この腕輪は魔法防御を付与してある。
魔石を見れば解るように、全属性の耐性を上げてくれるから、前衛のあんたにはもってこいだろ?
本当なら武器でもと思ったんだが、今あんたが使っている物には及ばないからな・・・」
「貴重な物を戴き、感謝致します・・・」
オーリックは腕輪を受け取って腕にはめると、清宏に頭を下げた。
清宏は笑って頷き、次にルミネにミスリル製の鎖帷子を渡した。
その鎖帷子にも、全属性の魔石が編み込まれているようだ。
「ルミネ、あんたはこのパーティの要だ・・・あんた次第で仲間は危機に陥る。
だから、少しでも身を守れるようにこれにした。
オーリックに渡した腕輪と同じく、これにも全属性に対する耐性を持たせてある・・・それと、オーリックの鎧程ではないが、物理耐性も上がる。
あんたとは、まだ喧嘩したりないからな・・・死なないように気をつけてくれ」
「あの・・・とても嬉しいのですが、どうせなら早めに戴きたかったですわ。
神官服を脱がなければ着込めないではないですか・・・ですが、お気遣い本当に嬉しく思います」
ルミネは苦笑しながら鎖帷子を受け取り、頭を下げた。
「ここで着ても良いんだぞ?それなら下着チェックも出来るからな・・・さて、次はリンクスだな」
清宏は冗談を言いながら、籠手を取り出してリンクスに渡した。
「昨日あんたの戦闘を見せてもらったが、攻撃力は十分なようだ・・・だから、こいつも防御特化にしてあるが、一つだけ試験的な仕掛けを施した。
こいつで防御をした場合、籠手にその衝撃を蓄えられる・・・一定量貯まったら、それを解放する事で強力な一撃を放つ事が出来るようになっている」
「またとんでもない物を・・・だが、ありがたく使わせて貰うよ」
リンクスは籠手を装備して使用感を確認し、笑って清宏と握手をした。
初めは清宏の事を疑っていたリンクスだが、話をするにつれ態度を改め、今では作務衣や褌について語り合う仲になっている。
「あ、それとこれな!俺の予備だが使ってくれ!本当なら、あんたの子供達にも何かあればと思ったんだが、流石に間に合わなかったよ・・・次会う時には何か用意しておく」
「おぉ、ありがたい!あんたが着てるのを見て欲しいと思っていんだ!!
次会うのを楽しみにしてるよ・・・あんたが作った物なら、子供達も喜んでくれるだろう」
リンクスは作務衣を2着受け取り、頭を下げた。
清宏は笑って頷き、カリスに装飾の施された大盾を渡した。
「少々デカくなったが、あんたには丁度良いと思う・・・こいつはダメージ反射効果を付与してあるから、皆の盾として更なる活躍が出来るだろう。
これなら、防御しながらでも敵にダメージを与えられるだろう・・・ただ、いくら反射効果があるとは言っても、盾の強度を上回る攻撃には耐えられないから気を付けてくれよ?
あんたとはまた飲み比べをしたいからな・・・次は負けないからな?」
「感謝する・・・またあんたと飲めるのを楽しみにしている」
カリスは言葉こそ少なかったが、しっかりと頷き握手を交わした。
酒好きのカリスは、清宏と飲み比べをしたのがよほど楽しかったらしく、口を開けば酒を飲もうと誘うほどには仲良くなった。
清宏も、酒が入ると饒舌になるカリスの事が気に入っているらしい。
「さてと、次はジルだな」
「何だよ、俺にもくれるのか?」
「当然だろ?ほれ、あんたにはこのナイフをやるよ」
清宏は、刃渡り30cm程の鞘に納まっているナイフを取り出し、ジルに渡した。
ジルは鞘からナイフを抜くと、惚れ惚れしたように刃を眺めた。
「こりゃ凄え・・・こんな見事な物は今まで見た事ないぜ!?」
「そりゃ良かったよ」
ジルがナイフを見て笑っていると、オーリック達が困惑した表情を浮かべた。
それは、ジルの持っているナイフに刃が付いていなかったからだ・・・。
それに気づいた清宏は、笑いながらオーリック達に向き直る。
「あんた達には刃が見えないだろ?このナイフは、鞘を持ってる奴にしか刃が見えないようになってるんだよ。
これは完全に俺の趣味で造った物なんだが、ジルはあまり戦闘は得意じゃないだろ?だが、これなら相手を翻弄出来るからな・・・裏稼業は危険だろうし、俺はジルを気に入った。
まだまだ娼館についてのアドバイスも欲しいし、そのナイフが助けになってくれたら嬉しいよ」
「いや、こんな物貰ったら死ぬ訳に行かねぇよ・・・またここを利用したいし、次も生きて帰ってくるぜ!」
ジルはナイフを鞘に納め、清宏に抱きついた。
清宏もそれに応え、笑いながら頷く。
「んじゃ、これで皆んなに渡し終わったな!」
「ちょっと待ちなさいよ!私だけ貰ってないんだけど!!?」
清宏が手を叩いて締めると、ラフタリアが詰め寄った。
ラフタリアは自分だけ何も貰えなかったのが不満らしい。
「だって、お前はまだここに居るんだろ?」
「居るって言っても、あんた達のためなんだからね!!」
納得の出来ないラフタリアは、涙目で叫んだ。
流石に可哀想に思ったのか、清宏は背の低いラフタリアの頭を撫でて笑った。
「ちょっと、私の方が歳上なんだから子供扱いしないでよ!!」
ラフタリアは清宏の手を払いのけて睨む。
「はいはい、申し訳ありませんね・・・とりあえず、お前のはまだ準備中だから待っててくれよ。
ぶっちゃけ、お前のは一番手が込んでるからな?
色々と面倒な仕掛けを施してるから、完成にはもう少し時間がかかるんだ・・・だが、お前なら必ず気に入ると思う」
清宏に真面目な表情で見つめられ、ラフタリアは真っ赤になって俯いた。
「あ・・・あるなら最初から言いなさいよね!
私だけ除け者かと思ったじゃない・・・」
「ツンデレ乙!」
「な、何よツンデレって!?」
清宏はラフタリアの拳を軽く避け、真面目な表情で再度オーリック達を見る。
オーリック達もそれに習い、並んで姿勢を正した。
「すまないが、ラフタリアをしばらく借りる・・・何かあったら、ラフタリアを通じて必ず連絡を寄越す。あんた達も道中気をつけてな」
「はい、この2日間大変お世話になりました。
ラフタリアは少々騒がしくてご迷惑をおかけするかもしれませんが、何卒よろしくお願いいたします・・・リリス様、皆様方もまたお会いしましょう!」
「うむ、また会える事を楽しみにしておるぞ!」
オーリック達は皆に挨拶をし、清宏に案内されて城を出た。
清宏はその姿が見えなくなるまで見送ると、2日連続で徹夜をしていたため、欠伸を噛み殺しながら城内に戻って行った。
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